現在日本で大ヒット中の『ゴジラ-1.0』が今度のアカデミー賞で視覚効果賞部門の最終候補に残る快挙を達成しました。邦画がこの部門でノミネートされるのは史上初。並みいるハリウッド大作に対抗していまや「受賞本命か?」とまで噂されるほど、画期的な本作のVFXについて解説します。(文・横森文/デジタル編集・スクリーン編集部)

山崎貴監督のゴジラ愛が生んだ革新的なゴジラ

画像: 山崎貴監督のゴジラ愛が生んだ革新的なゴジラ

山崎貴監督のゴジラ愛はハンパない。なにしろずっと自分でゴジラを撮りたいと夢想し、2007年の監督作『ALWAYS 続・三丁目の夕日』では映画の世界観とは全く関係なく白目のゴジラを登場させた。さらに西武園ゆうえんちのアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」も製作。これまでになかった怪獣同士の争いに巻き込まれるスリル感をたっぷりと味あわせてくれた。

実は山崎監督は、ゴジラ製作の依頼を『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の直後に東宝から打診されていたのだそう。しかし当時のVFX技術では監督自身が思い描く世界観に到達するのは難しいと、白目ゴジラ登場シーンを作ってみて泣く泣く判断。そういった長年のゴジラへの想いが『ゴジラ-1.0』で結実と相成ったのだ。

とにかく作りたかったのは“怖いゴジラ”。それは1954年の1作目の『ゴジラ』、通称初ゴジが戦争のメタファー(暗喩)として創造されたものであり、恐怖を象徴した存在となっていたからだ。そのために参考になったのが「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」で得た知見。ゴジラが近くにいるだけで物理的・精神的に恐怖心が湧くことを知り、それを恐怖のベースにしていった。

まず山崎監督が着手したのは、「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」で使用したゴジラをベースにして、『ゴジラ-1.0』用のリファレンスモデル(標準となるモデル)をZbrushというツール(3DCGのペイントツールで『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のVFX制作会社WETAデジタルが開発に協力したもの。山崎監督はこれの使い方を『〜続・三丁目の夕日』の時にマスターしたのだそう)を使って作成。それをモデラーの田口工亮氏がフォルムやディテールを調整していった。

山崎監督の「初ゴジの重々しい動きを尊重したい」「山が動いているようなイメージを作りたい」という方向性を反映し、直立不動のフォルムと溶岩のような肌質を意識して作りあげたという。

特に歩き方は『シン・ゴジラ』(2016)が野村萬斎の能の動きを取り入れたり、アメリカ版ゴジラが前傾姿勢でどちらかというと生き物らしさを押し出したりと、歩く姿にどういうゴジラかが表れる。そう感じた山崎監督は、どちらかというと神的な存在であるため、重厚にどう魅せるかアニメーターとしっくりくるまで話し合ったという。

初ゴジでも電車をくわえるシーンがあるが、山崎監督はギニョールを使って撮影された初ゴジのイメージにこだわった。そこで自分の手をゴジラの口に見たてて、電車をくわえるシーンを撮影。それを元にスタッフ達はあのシーンを作りあげたという。

画像: 自分自身のゴジラ像にこだわった山崎貴監督

自分自身のゴジラ像にこだわった山崎貴監督

最も難易度が高かったエフェクトは海上での破壊シーン

他にもこだわったのは、ゴジラが出てきたことで、どういう風に周囲が変化したか…ということだ。

ハリウッドの最近の優れたホラー映画やパニック映画は、怪物が起こした周囲の影響をしっかりと描いている。断片的でもその場にいる者だけが知り得る情報だけを提供した方が、リアリティが増すのだ。だから今回はゴジラが出現した時の様子のみを映しだしているのだ。

また昭和が舞台なので、破壊される銀座の街を作る時は、当時の街並みの資料のみならず、そこでの生活やその場の雰囲気が感じられる資料を特に大切にしたという。

資料で得た街の空気感を大切にするため、とにかく情報量を足しまくり、人が生活するために必要なもの(ポストや立て看板、照明、新聞スタンドなど)を街並みにプラス。現在は和光となった「服部時計店」やその向かいにあった「マツダビル」、「天賞堂」や「日劇」など、建物だけではなく取り付けられた看板などまで完璧に当時の世界観を再現していった。

画像: 破壊される銀座の街並みにも注目

破壊される銀座の街並みにも注目

これらの街を破壊するエフェクトに使われたのは、Houdini(フーディニ)という3DCG制作専用のソフトウェアだ。

例えばビルなどが破壊される時に、多くの破片が飛び散ることになる。Houdiniでは、その破片を3つの大きさに分けて表示。その大きさの違いだけでなく、破片ごとにスピードを遅くしたり速くしたりしたり、画面にエフェクトが詰まりすぎずに抜け感を感じられるレイアウトにすることで、様々なコントラストを意識したリアルな破壊シーンを生み出すことに成功した。

ちなみデジタルエキストラにもHoudiniを使用。まず60人ほどをデジタルエキストラ用に3Dスキャン。特徴的な服装の人は外してループで使えるようにした。これで銀座の街並みを走って逃げる人などのリアルなパニック光景を描くことができたのだ。さらにカットによっては、実際にグリーンバック前を走った人々の実写も合成している。

一番、難易度が高かったエフェクトは、海上での破壊だったそう。爆発や炎の表現に加えて、そこに海の表現、物理シミュレーションによる破壊などを同時に入れ込む必要があったからだ。また物理的に正しいエフェクトとカッコ良いエフェクトが両立するのは難しかったため、両立が難しい場合は“カッコ良さ”を追求することにしていたという。

物量的にも相当にあった今回のVFXだが、それがうまく回ったのは、VFXを担当した山崎監督も所属する白組の調布スタジオの持つ独特の空気感にあるという。

まず早い段階で全部のカットを作って繋げて一周して見る。それを2周3周と重ね、クオリティの最低ラインをあげていくのだが、その際にクリエイターたちにある程度お任せして担当部分を自由に作らせているのだ。それを山崎監督が確認するという形でコントロール。

しかも監督も含めてディレクター、コンポジター、モデラーなど、約20人ほどの少数精鋭チームがワンフロアで作業。そうすることで常に意志が統一できていたという。そういった良いチームワークが、オスカー候補になるほどのすごいVFXを生み出すことになったのだ。

画像: 最も難しかったのは海上シーンという

最も難しかったのは海上シーンという

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監督: 山崎貴
出演: 神木隆之介、浜辺美波
配給: 東宝

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