「この惨劇を世界に伝えてくれ」
2022 年 2 月、ロシアがウクライナ東部に位置するマリウポリへの侵攻を開始。これを察知した AP 通 信のウクライナ人記者であるミスティスラフ・チェルノフは、仲間とともに現地に向かった。ロシア軍の容赦 のない攻撃による断水、食料供給や通信の遮断...瞬く間にマリウポリは孤立していく。
海外メディアが次々と脱出していく中、彼らはロシア軍に包囲された市内に残り、死にゆく子供たちや遺体の山、産院への爆撃など、侵攻するロ シアによる残虐行為を命がけで記録、世界に発信し続けた。取材班らも徐々に追い詰められていく中、滅びゆくマリウポリと戦争 の惨状を全世界に伝えるため、チェルノフたちは辛い気持ちを抱きながらも市⺠を後に残し、ウクライナ軍の援護によって市内から 脱出することになる。
「おそらく私はこの壇上で、この映画が作られなければ良かったなどと言う最初の監督になるだろう」―アカデミー受賞式の壇上で コメントした、本作の監督であり、ジャーナリストのミスティスラフ・チェルノフ。
AP 通信社のビデオジャーナリスト、そしてウクライナ職業 写真家協会の会⻑でもある彼は、ウクライナ東部の出身で、2014 年に AP 通信に入社して以来、欧州やアジア、中東の主要 な紛争、社会問題、環境危機を多数取材、⻑年の同僚であるエフゲニー・マロレトカと、ウクライナの戦争に関連した問題を取 材、報道しているワシリーサ・ステパネンコの 3 人の報道チームで共にマリウポリ包囲戦の取材を行い、ロシアによるこの都市に対す る攻撃の目撃者たちの証言を世界に伝えた。
なお、本報道で、ともに取材を敢行したチームとともに 2023 年にピューリッツァー賞 公益賞を受賞した。
チェルノフは現在ドイツに拠点として活動しており、過去には英国王立テレビ協会により、2016 年年間最優 秀カメラマン、2015 年年間最優秀若手人材にも選出されている。
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