前号で授賞式速報をお届けした本年度のアカデミー賞ですが、今年のセレモニーでも注目すべき話題が盛りだくさんでした。そこで前回紹介しきれなかった式典のメモラブルなトピックスを振り返ってみましょう。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)

『オッペンハイマー』作品賞プレゼンターのアル・パチーノがミス?

画像: この日の勝者『オッペンハイマー』チームを祝福するアル・パチーノ(左) Photo by Getty Images

この日の勝者『オッペンハイマー』チームを祝福するアル・パチーノ(左)

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賞レースでも本命視されていた『オッペンハイマー』が作品賞はじめ、監督、主演男優、助演男優、撮影、作曲、編集の計7部門受賞で圧勝した。クリストファー・ノーラン監督は初の受賞。主演男優賞のキリアン・マーフィーはアイルランド生まれの俳優として初受賞の快挙(二重国籍のダニエル・デイ=ルイスはロンドン生まれ)。「アイルランド人であることを誇りに思います」とスピーチで挨拶した。

ところで作品賞のプレゼンターだった名優アル・パチーノが、例年のように他の候補作を読みあげることなく、いきなり封筒を開け「私の眼には『オッペンハイマー』と見える」と受賞作を明かしたことが、ミスだったのでは?と取り沙汰されたが、実はこれは式のプロデューサーに指示されてのことだった。式の合間に全作品の紹介が織り込まれていたので、改めての紹介を省略したのだそう。

ロバート・ダウニーJr.がアジア人差別を?

画像: 授賞式後のフォトセッションではダウニーJr.とキーが肩を組む姿も見られた Photo by Getty Images

授賞式後のフォトセッションではダウニーJr.とキーが肩を組む姿も見られた

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今回の授賞式で、最も巷を騒がせたように見えたのは助演男優賞受賞のロバート・ダウニーJr. 。何が起きたかというと、昨年の同賞受賞者キー・ホイ・クァンに名前を呼ばれ壇上に上がったダウニーJr.が、笑顔のキーから差し出されたオスカー像をそっけなく受け取り、今回の演出で壇上にいた他の歴代受賞者たちと握手やグータッチをしていたというパフォーマンス?を見せ、これがアジア人差別とSNSを中心に炎上したのだ。

たしかにそう見られても仕方がないダウニーJr.の振る舞いだったが、日頃の素直に喜びを表現しない彼の独特な所作を知っていると、キーでなくても同じことをしたのではと思えなくもない。相手がたまたまアジア系のキーだったので、ことが大きくなったとも取れるが、やはりセレブは公の場で自分の立ち居振る舞いに気をつけなくてはいけないだろう。

エマ・ストーンにも人種差別の疑惑が……

画像: バックステージでエマ・ストーンの受賞を祝福する歴代主演女優賞受賞者たち

バックステージでエマ・ストーンの受賞を祝福する歴代主演女優賞受賞者たち

ダウニーJr.だけでなく、『哀れなるものたち』で主演女優賞を受賞したエマ・ストーンにも一時批判が集中した。

それはやはり前年の同賞受賞者ミシェル・ヨーがエマにオスカー像を渡すところに、歴代受賞者の一人ジェニファー・ローレンスが入り込んでミシェルの持っていた像を取り上げて、エマに渡すことになったと見える流れが、アジア系のミシェルを白人のエマとジェニファーが無視したと見られたのだ。

この炎上に関してはミシェルが翌日、声明を出し、「エマ、おめでとう! 混乱させてしまったけど素晴らしい瞬間をあなたの親友であるジェニファーと分かち合いたかったの」と自らジェニファーを呼び寄せて、この事態を招いたことを明かした。やはり今回の歴代受賞者を複数壇上に挙げるという“演出”が引き起こしてしまった混乱だったといえそうだ。

最も問題視されている?のは『関心領域』監督のスピーチ

日本ではダウニーJr.やエマの「人種差別」報道が上回っているが、ハリウッドではそれ以上に問題視されている感じがするのは、『関心領域』で国際長編映画賞を受賞したジョナサン・グレイザー監督のスピーチだ。

英国出身のユダヤ人である監督は、この授賞式で他の誰もが口にしなかったイスラエルのガザ地区侵攻に対するコメントを行った。それは「ホロコーストを利用してガザ侵攻を正当化してはいけない」というもので、米エンタメ界ではガザ侵攻の停止を呼びかけたり、批判する人は解雇や降板という憂目にあっている中、グレイザーの発言は当然のように賛否両論を呼んだ。

画像: 波紋を投げかけた『関心領域』の ジョナサン・グレイザー監督 Photo by Getty Images

波紋を投げかけた『関心領域』の ジョナサン・グレイザー監督

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一方でガザ即時停戦などを呼びかける赤いピンバッジを着けた出席者(ビリー・アイリッシュら)が目立っていたことも注目されている。

画像: ビリー・アイリッシュらは胸に赤いバッジをつけて来場 Photo by Getty Images

ビリー・アイリッシュらは胸に赤いバッジをつけて来場

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ジョン・シナはオールヌードではなかった?

今回一番びっくりさせられたのは、衣装デザイン賞プレゼンターのジョン・シナのほぼ全裸での登場! これは50年前のオスカー授賞式の珍事で、式典の最中、ある男性が会場に忍び込み当時流行していたストリーキング(全裸で走り抜ける)を行ったハプニングに基づいたジョーク。

司会のジミー・キンメルとの掛け合いの後、大事なところを封筒で隠した全裸のシナが一人で賞を発表する羽目にというユーモラスなお芝居だったが、実はシナは全裸でなく、特殊なパッドを股間に装着していたそうで、放送事故にならないように細心の注意を払っていたそう。

画像: 司会のジミー・キンメルと全裸のように見えるジョン・シナ Photo by Getty Images

司会のジミー・キンメルと全裸のように見えるジョン・シナ

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日本勢が2作品受賞の快挙

日本人にとっては嬉しいオスカーナイトになった今回。長編アニメーション賞部門で宮㟢駿監督の『君たちはどう生きるか』が受賞。さらに視覚効果賞部門で山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が受賞と、2作品が栄冠に輝いた。

画像: オスカー像を受け取り喜びの『ゴジラ-1.0』チーム Photo by Getty Images

オスカー像を受け取り喜びの『ゴジラ-1.0』チーム

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宮﨑監督は欠席だったものの、山崎監督らゴジラ・チームはアーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デヴィートに名前を読みあげられると歓喜の様子でステージに上がり、嬉しさを爆発させた。宮﨑監督の同賞は『千と千尋の神隠し』以来23年ぶり2度目の受賞。視覚効果賞は日本映画史上初の快挙。

国際長編映画賞候補だったヴィム・ヴェンダース監督の日本代表作『PERFECT DAYS』は惜しくも『関心領域』(イギリス代表)に受賞を譲った。

ベストドレッサーと呼ばれたのは誰?

オスカー恒例のレッドカーペットで、今年も美しいドレスを纏ったセレブたちが次々到着。その中で評判の高かったファッショニスタを挙げると……。

人気を呼んだのはアニャ・テイラー=ジョイのディオール・オートクチュールのカスタム・ドレス。この日のために職人が手作りで丹精込めて作った花びらの刺繍がドラマチック!

画像: アニャ・テイラー=ジョイ Photo by Getty Images

アニャ・テイラー=ジョイ

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またゼンデイヤのアルマーニ・プリヴェのシルエットが美しいメタリックドレスもゴージャス。エマ・ストーンが着用したルイ・ヴィトンのペプラムシルエットやガブリエル・ユニオン着用のキャロリーナ・ヘレナのカスタムドレスなど「コラムドレス」が今年のトレンドで、エミリー・ブラントが纏ったスキャパレリの「無重力ドレス」も注目された。

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ゼンデイヤ

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画像: エマ・ストーン Photo by Getty Images

エマ・ストーン

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画像: ガブリエル・ユニオン Photo by Getty Images

ガブリエル・ユニオン

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画像: エミリー・ブラント Photo by Getty Images

エミリー・ブラント

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ライアン・ゴズリングの圧巻パフォーマンス

毎回観客を魅了するのが、歌曲賞にノミネートされた楽曲をそれぞれのアーティストがステージで実演するパフォーマンス。今回本番前から期待されていたのが『バービー』の“I’m Just Ken”で候補になっていたライアン・ゴズリングによるライブ・ショーで、これが期待にたがわぬカラフルで楽しいステージに。

画像: ステージ狭しと“I’m Just Ken”を歌い踊るピンクスーツのライアン・ゴズリング

ステージ狭しと“I’m Just Ken”を歌い踊るピンクスーツのライアン・ゴズリング

客席でマーゴット・ロビーの背後から歌いだしたゴズリングは、ステージに上がるとマリリン・モンローの“ダイヤモンドは女性のベストフレンド”を彷彿させるタキシードの男性陣と群舞。共演のシム・リウらも加わって、グレタ・ガーウィグ監督、マーゴット、アメリカ・フェレーラにマイクを向け、さらに『ラ・ラ・ランド』共演者のエマ・ストーンにも歌わせるシーンを展開。会場を最高潮に盛り上げた(受賞は同じ『バービー』から“What Was I Made for ?”に)。

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