『ぼくのお日さま』は第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史監督の長編2作目。
本作は、田舎町のスケートリンクを舞台に、吃音のあるアイスホッケーが苦手な少年タクヤ(越山敬達)と、選手の夢を諦めたスケートのコーチ荒川(池松壮亮)、コーチに憧れるスケート少女さくら(中西希亜良)の3人の視点で紡がれ、雪が降りはじめてから雪がとけるまでの、淡くて切ない小さな恋の物語を描く。監督の奥山大史が撮影、脚本、編集も手がけている。
ドビュッシー劇場でのワールドプレミア上映に感無量
公式上映がはじまると映画祭ディレクターのクリスチャン・ジュネが登壇し、この上映に審査員が「駆けつけました」とコンペティション部門の審査員を務める是枝裕和監督を紹介。その後に「ある視点」部門の審査員長のグザヴィエ・ドラン監督を紹介すると、劇場は一気に興奮につつまれた。
公式上映の場に駆けつけた、『CLOSE/クロース』のルーカス・ドン監督、西川美和監督、山下敦弘監督が見守る中、『ぼくのお日さま』チームが紹介され、ハンバートハンバートの佐藤良成、荒川役の池松壮亮、タクヤ役の越山敬達、さくら役の中西希亜良が紹介され拍手で迎えられたあと、クリスチャンの大きな呼び声で、奥山大史監督が登壇。
今年のカンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション部門の中で、日本作品として唯一の選出となった奥山監督は、満席となった1,200席の観客に「この作品はドビュッシーの“月の光”が繰り返し流れる映画なので、こうしてドビュッシー劇場でワールドプレミア上映されることを本当に光栄に思っています」と挨拶。
本作は、クロード・ドビュッシーの代表曲「月の光」にのせてフィギュアスケートをする少女さくらに、主人公のタクヤが心を奪われるところから物語が動き出す。そのドビュッシーの名前が冠された劇場で、ワールドプレミア上映されたことについて、感慨深く語った。
そして、企画段階から奥山監督を支え、コーチ荒川役として出演する池松壮亮は「カンヌ映画祭に感謝します。楽しんでいってください」と挨拶。
4月に15歳になり、撮影当時から12cm以上も身長が伸び167cmにもなったタクヤ役の越山敬達は、初の海外旅行がカンヌ国際映画祭となり、「はい。1200人の皆様、集まっていただきありがとうございます!最後まで楽しんでいってくださいっ」と軽快なマイクパフォーマンスでカンヌの観客を沸かせた。
そして、6月に13歳になる現在12歳で、英語もフランス語も堪能な中西希亜良は流暢なフランス語で「みなさん、こんにちは。来てくれてありがとうございます。楽しんでください」と挨拶し温かい雰囲気に包まれた。
その後、主題歌のハンバートハンバートの佐藤良成も自分の子供のような楽曲が主題歌となった作品がカンヌ国際映画祭で披露されることについて喜びを爆発させ、フランス語で「ここに来られてとても嬉しいです」と挨拶した。
約8分間のスタンディングオベーションの喝采
1,200キャパの会場のチケットは即完売となり、満席の会場の中、上映がスタート。上映中はタクヤが奮闘する姿にやさしい笑いが漏れ、クライマックスに近づくと緊張感のある雰囲気が会場に広がった。
そして本編が終わり、主題歌「ぼくのお日さま」のエンドロールが流れ終わると、拍手喝采と「ブラボー」という声援と共に、スタンディングオベーションが約8分間続き、最初に越山敬達が涙をみせると、中西希亜良も涙をみせた。会場全体があたたかな雰囲気につつまれ、監督、キャストたちにエールが送られ、ルーカス・ドン監督と奥山大史監督が握手を交わすシーンもみられ、会場を出たあとも興奮冷めやられぬ観客に囲まれ、サインを求められるなどしていた。
ワールドプレミアでの興奮が続くなか、『ぼくのお日さま』一行はレッドカーペットへ。この日、奥山監督、池松壮亮、越山敬達の3人は、お揃いのタキシード。タキシードのブランドは、フランソワ・トリュフォー監督やアンディ・ウォーホルが愛用した老舗のブランド「ベルルッティ」のもの。
そして、ヒロインの中西希亜良は、「セリーヌ」の今シーズンの秋冬ドレスとなるミニドレスを着用し、ひときわフレッシュで眩い魅力で来場したメディアを魅了し、カンヌ初参加となった4人はお互い笑顔を見せあいながら和やかな雰囲気でレッドカーペットを歩いた。
<これは多様性を描いているね>と言ってくれたらそれは嬉しいと奥山監督
その後、奥山監督、池松壮亮、越山敬達、中西希亜良らはメディアからの囲み取材に参加。公式上映後の観客からの反応について奥山監督は「温かい反応を頂けて、まずは安心しています。嬉しかったというよりも、一安心という気持ちが大きいですね」と述べ、レッドカーペットについては「公式上映とはまた違う、ずっと見ていたカンヌの文化に触れさせて頂いたので、フラットに楽しめた」と笑顔を見せ、キャストの3人らも揃って「夢のような舞台だった、また来たい」と声を揃えた。
公式上映後、エンドロールから涙が止まらなかった越山。その理由について「撮影中『こういうこと言われたな』とか、『こういうふうに撮影したな』とかエンドロールに流れる本作の主題歌を聴きながら思い出し」感無量になったことを、はにかみながら告白。そして「台本を渡してもらえなくて、物語がわからないまま撮影がスタートしたが、初めての主演映画だったので、どれだけ自分の自然の形で撮影を楽しめるか、ということに重点をおいてやっていました」と、撮影当時を振り返った。
奥山監督について質問を受けた池松は「自分でカメラを持って撮影される方なので、奥山さんの視点が、自分たち俳優にちゃんとフォーカスが合っている」「目と耳が素晴らしくいいと思います」「本人も映画もスケールが大きい。映画をもってどんどん世界と対峙してくれると思います」と絶賛。
カンヌでの刺激を元にこれからどういう未来を描きたいか?という質問に対して越山は「またこういう舞台に立たせて頂きたい」そして「先日、人生初の生牡蠣をカンヌで食べて、とても美味しかったので、またカンヌに食べに来たい!」と周囲の笑いを誘い、中西も照れながら「すべてが幸せなので、またこういうすごい場所に来れたらな、と思います」と10代らしい素直な想いを告白。
今の時代をどう切り取るかや、問題解決の提示する作品がどうしても多くなる傾向にある映画祭という場所、そして「今の時代に向き合うということをどう考えているのか?」という取材終盤の問いに対して、奥山監督は「あくまで自分は、それだけを重視するわけではなく、自分が描きたいものを描き、その上で、例えば「<これは多様性を描いているね>と言ってくれたらそれは嬉しい」と述べ、池松は「リアリティの中にもファンタジーの中にも、現実を語る力っていうのは実はちゃんとどちらもあって」「どちらに向けるのか、どう直接的に語るのか、それともファンタジーに包んで語るのかの違いだと思う」「この映画も非常に残酷な部分も写っているし、奥山監督はリアリティの中にファンタジーを載せることがとても上手で、そのことを諦めていない」だから「本作は、より観客を選ばないし、この映画を見てもらえるのではないかなと期待してます」と想いを込めた。
今年の第77回カンヌ国際映画祭は、是枝裕和監督がコンペティション部門の審査員として参加することでも話題になっており、「ある視点」部門は、俳優で監督のグザヴィエ・ドランが審査員長を務めることでも注目されている。
本作は、「ある視点」部門の〈最優秀作品賞〉、〈審査員賞〉、〈監督賞〉などの賞の対象となり、これまで同部門では、黒沢清監督が2008年に『トウキョウソナタ』で〈審査員賞〉を、2015年に『岸辺の旅』で〈監督賞〉を、2016年には深田晃司監督が『淵に立つ』で〈審査員賞〉を受賞しているが、同部門で〈最優秀作品賞〉を受賞すると日本史上初の快挙となる。
映画『ぼくのお日さま』ワールドプレミア上映 概要
イベント名:第77回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション「ある視点」部門
公式上映 日時(現地時間):5月19日(日) 14:00~
※上映前、舞台挨拶/上映後、スタンディングオベーション
登壇者:奥山大史(監督)、池松壮亮、越山敬達、中西希亜良、佐藤良成(ハンバート ハンバート)
場所:ドビュッシー劇場(キャパ:1,200人)
『ぼくのお日さま』
9月 テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテ ほか全国公開
配給:東京テアトル
(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
『ぼくのお⽇さま』イベントスチールクレジット:(C) KAZUKO WAKAYAMA