"ボブはどういう時に心が安心できたのか、
そして僕自身はどういう時に心の安寧や安心を感じるのかを
すごくたくさん考えました"
ーージギー・マーリーさんはじめ、彼のご家族との会話で印象に残っていることを教えていただけますか。
「音楽監督を務めたスティーブン(・マーリー/ボブ・マーリーとリタ・マーリーの息子で世界的に有名な歌手)のマイアミにある家で、ボブを理解するために、ボブのインタビュー記録を見ながら言葉を英語に翻訳していったんです。だけどいくつか聞き取れない箇所があって、スティーブンに助けを求めたら僕と同じように何度も繰り返し聴いてくれて。結局『これは何を言っているのか誰にもわからないよ!』ってギブアップされたので(笑)、自分なりに解釈して、言葉を作るなんてこともありました」
ーーボブ・マーリーのインタビュー記録を見てどんなことを感じましたか?
「部屋で彼がギターを弾きながら作曲しているのですが、興味深かったのが、その時の様子が僕らの知っているボブとは全く違っていたこと。彼はステージ上だと力強くて、全ての情熱や感情を全身全霊で表現しているけれど、部屋でプレイしているボブはあまり緊張感がなかったんです。ステージではお客さんにメッセージを伝えなきゃいけないからエネルギッシュだけど、部屋でギターを奏でるボブは少しだけ表現が抑えめっていうのかな。僕はステージ上のボブと部屋で歌うボブのどちらもしっかりと演じるために、あらゆるインタビュー記録を見て研究してから挑みました」
ーー本作にはラミ・マレック演じるフレディ・マーキュリー(『ボヘミアン・ラプソディ』)や、オースティン・バトラー演じるエルヴィス(『エルヴィス』)など、アイコニックなアーティストのように動くための動作を教えるムーブメント&コレオグラファーのポリー・ベネットさんが今回参加されたそうですが、ポリーさんとお仕事されてみていかがでしたか?
「彼女は、身体的なことよりもまず心理的なことから教えることから始めていました。もちろんパフォーマンスの具体的な振り付けの指導もあるんですが、まず“人間の動作には感情的な根源がある”というのを知ることが大事だと。なのでクランクイン前は自分自身とボブの動き方を把握し、どこが違うのかを理解する作業を何か月もかけてやっていました。ポリーのおかげでボブと自分の1番の違いが動き方なんだと気づけましたし、彼女がいなかったらボブを演じ切ることは難しかった、そう思います」
ーー劇中に弾き語りのシーンもありましたが、ギターはどのように練習されたのでしょうか?
「最初はYouTubeを見ながら独学で練習していたのですが、撮影の6週間前からは本格的なギターのレッスンを受けました。撮影現場ではジギー(・マーリー/ボブ・マーリーとリタ・マーリーの息子でミュージシャン、本作のプロデューサー)から『その弾き方は違うね。こんな感じで弾いてみて』と指摘されることもありましたが、彼の音楽的な面でのサポートのおかげで弾き語りのシーンの撮影はうまくいったんじゃないかなと思います」
ーー私も昔ギターに挑戦したことがあるのですが、左手で弦を押さえるのが難しくて弾けないコードがたくさんありました(笑)。
「わかりますよ(笑)。特に小指で弦を押さえるのはとても難しいですよね。僕も練習は十分したはずなんだけど、それでも失敗してしまった時はカメラマンさんが撮る位置をうまくずらしてくれました(笑)」
ーーギターは今でも続けてらっしゃいますか?
「当時は撮影が終わってもギターと歌は続けようと思っていましたが、クランクアップ後は1度もギターを触っていないんです(笑)。ギターはリビングに飾ってあるから毎日目にするんですけど、見るとどうしても本作の撮影が大変だったことを思い出してしまって(笑)」
ーー劇中、部屋でボブとバンドメンバーがセッションするように作曲するシーンがすごく好きでした。このシーンの撮影秘話があれば教えていただけますか。
「『エクソダス』を作り上げるシーンは、有機的で自然に曲が生まれる瞬間を表現したかったので、9ヶ月間ギターのコードを必死に覚えて、歌も練習して挑みました。実はギターのコーチングを受けたのもこのシーンのためだったと言えます。ボブのモノマネをして演じてもダメで、演奏する時のフィーリングを分かっていないと成立しないと思いながら挑んだシーンです」
ーーご自身とボブ・マーリーとの共通点のようなものはありましたか。
「撮影期間中、ボブはどういう時に心が安心できたのか、そして僕自身はどういう時に心の安寧や安心を感じるのかをすごくたくさん考えました。そんな中で気づいたのは、ボブも自分も普段生活をしていてそういったことを感じられる場所がないということ。そこがボブと僕の共通点なんだと思いました。なんというか…僕はロンドン出身なのですが、僕の地元もボブの生まれ育ったジャマイカのゲットーも同じように治安が悪く、あまり油断できないんですよね。もちろん地域は全く違いますが、そういった共通点を感じながら演じていました」
ーー今回、ボブ・マーリーの友人でアート・ディレクターも務めたネヴィル・ギャリックさんが参加されていますが、どんな方でしたか?
「残念ながら彼は本作が公開される前に亡くなってしまいましたが、ネヴィルはボブとロンドンで毎日一緒に過ごした方で、本作の撮影現場にも毎日来てくれました。休憩中はボブに関するいろんな逸話を教えてくださいましたし、撮影中は『それはしない方がいい。こっちをやってみて』って感じでアドバイスをくれて、彼が『OK』と言ってくれると気持ちがすごく高まるんです。とても素敵な時間でしたし、貴重な体験だったと思います」
ーーちなみにどんな逸話を聞いたのですか?
「ボブが自宅のキッチンで襲撃された時のことをネヴィルが覚えていて、グレープフルーツでジャグリングしながら『ほら、すげえだろ?』って感じで見せつけていたと教えてくれました(笑)。なので一生懸命ジャグリングの練習をして、あのシーンが完成しました」
ーー襲撃された2日後には、民主社会主義政党の人民国家党と保守のジャマイカ労働党とに二分されたジャマイカを結束させるため、音楽で人々を一つにしようという思いでスマイル・ジャマイカ・コンサートのステージに立ち、その後、ワン・ラブ・ピース・コンサートも行ったボブ・マーリーの信念に心が震えました。戦争や虐殺などが行われている今、音楽で世界が一つになったらどんなにいいかと考えてしまいます。ベン=アディルさんは、本作を通してどのようなことを感じましたか?
「“愛は万人に通じる”ということを改めて感じました。愛は普遍的なものだし、誰もが必要としているもの。愛を持って生きたボブとリタの内なる葛藤に、観客のみなさんが共感してくれたらいいなと思います」
ーー本作のライブシーンを観て興奮しましたし、自分が好きなアーティストのライブでいつも元気を貰えていることに感謝しました。ベン=アディルさんは、どんなアーティストのライブを観に行かれますか?
「最近はあまりライブを観に行けていませんが、去年フェスでブライアン・ジャクソンのライブを見ました。ギル・スコット・ヘロンとの曲をたくさんプレイしてくれて、すごく特別なフェス体験になりましたね。あと、グラストンベリーでケンドリック・ラマーのライブを観ることができたのもスペシャルな思い出です。若い頃にジェームス・ブラウンのパフォーマンスを生で観たこともありますよ」
ーーそれはすごいですね! 私は今年の3月にジャネット・ジャクソンの来日公演を観に行ったのですが最高でした。
「いいですね! 僕もジャネット・ジャクソン featuring Qティップ & ジョニ・ミッチェルの『Got 'Til It's Gone』が大好きです。本作にもたくさんライブシーンが登場しますので、ぜひ劇場で楽しんでください!」
映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
全国公開中
監督:レイナルド・マーカス・グリーン(『ドリームプラン』)
出演:キングズリー・ベン=アディル(『あの夜、マイアミで』)、ラシャーナ・リンチ(『キャプテン・マーベル』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』)
脚本:テレンス・ウィンター(『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』)、フランク・E・フラワーズ、ザック・ベイリン(『グランツーリスモ』)、レイナルド・マーカス・グリーン
原題:Bob Marley: One Love
配給:東和ピクチャーズ
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