頭と体が感じるままに振舞ってほしいとSABU監督が演出
──本作は日本の作家、大石圭さんが書かれた同名小説の映画化で、SABU監督が脚本を書かれています。脚本をお読みになっていかがでしたか。
男女の関係を描いた作品はよくありますが、この作品はベッドの下の空間が特別な意味を持つという独特な設定で描かれています。しかもベッドの下で他の人を見て、それをどう受け止め、どう表現するのかが興味深かったです。
──ご自身と主人公のキム・ジフンに共通する部分はありましたか。
ジフンは子どもの頃の家庭環境に絶望を感じていましたが、自分も同じでした。韓国は1997年に通貨危機に陥り、IMFの救済を受けるという経済的に厳しい時期があったのですが、そのとき、私の家も経済的に厳しかったのです。
大人になったジフンは好きな人のベッドの下に潜り込んでストーカーのようなことをしましたが、自分はどんなに好きな人であっても、そんなことはしませんけれどね。
──キム・ジフンも妻に暴力を振るうヒョンオも次男で、兄の存在が彼らの心に大きな傷を与えました。その点はどう思われましたか。
私には5歳年下の妹がいますが、残念ながら男兄弟はいません。友人たちも一人っ子か、姉や妹がいる人ばかり。周りからそういった話を聞いたことがないのです。ドラマなどに出てくる兄弟などから想像するしかありませんでした。
──SABU監督とは初めてかと思いますが、初対面での印象をお聞かせください。
最初はオンラインで顔を合わせました。監督は一見、強面ですが、よく見ると目は笑っていて、そこが可愛いのです。年齢的には自分はずっと年下なので、可愛いというのは失礼かもしれませんが…。お話してみるととても優しく、温かい。作品のことについて語っているときはすごく真面目で慎重な方だったので、この方となら楽しく映画が撮れそうな気がしました。
──キム・ジフンを演じるに辺り、監督からはどのような演出がありましたか。
自分はこれまで役をしっかり作り込んでから現場に入り、演じてきました。今回も撮影の前に脚本を読んで、ジフンはこういう人だろうと考えて、監督に「私が考えたジフンはこういう人物です」と自分なりの解釈を伝えました。すると監督は「自分が考えて作ったキャラクターを演じるのではなく、今のあなたの頭と体が感じるままに振舞ってください」と言われたのです。ジフンはこういう人だからこういう風に演じてほしいということは一切おっしゃいませんでした。
また、自分がこれまで経験した韓国の監督は間が空くときに、とりあえずアドリブか何かで埋めることを求めてきました。しかし、SABU監督は「芝居と芝居の間はすごく大事。それを意識して、とりあえず何かをするということはしないでほしい」とおっしゃったのです。そういう演出は初めてでした。
これまでは“完璧に演じなくては”と思ってきたので、監督の演出に最初は混乱しました。しかし、次第に、これも芝居の1つの方法と思えてきました。新しい自分に挑戦できる気がして、とても勉強になりました。
──これからの芝居が変わってきそうですね。
この作品の後にドラマを2本撮りました。以前だったら、自分の演技が終わって、少し間があると何かアドリブとか入れていましたが、そのドラマでは息遣いだけで、何も話さないでいたのです。韓国の監督は最初こそ戸惑っていましたが、次第に「その方がいいね」と余白も芝居だとわかってくれました。自分の芝居が変わってきたのを感じます。
──ベッドの下に寝そべり、イェウンの指に触れようとするシーンがいちばん好きとのことですが、指先のアップからキム・ジフンの切ない想いが伝わってきました。セリフのないシーンでしたが、指先にどんな思いを込めましたか。
ベッドの上にいる彼女はとても辛い状況ですが、それをかわいそうだと思った瞬間、彼女は本当にかわいそうな人になってしまいます。ですから、そういうことは一切考えず、「すごく愛している人がいるのに、その人は自分のものにはできない。せめて、そばにいたい」という気持ちでいました。そうしたら、自然と指が震えてきたのを覚えています。
──キム・ジフンがベッドの下に隠れているときに、ヒョンオとイェウンがベッドの上で絡むシーンがありましたが、撮影中にベッドのフレームが壊れたと聞きました。
ベッドの脇のフレームが折れて、腰のそばに落ちてきましたが、ケガはしませんでした。フレームもすぐに直りました。
むしろ、そのシーンで印象に残っているのは、監督がヒョンオ役のスハンさんに「犬のように」という指示を出し、スハンさんがすごく気合を入れて、その言葉通りにやっていたので、みんなが笑ってしまったことです。
──イェウン役のイ・ユヌさん、ヒョンオ役のシン・スハンさんと共演していかがでしたか。
スハンさんはご自身の役についても深く考えている方で、ベッドのフレームが折れるほど真面目に監督の指示に従うところに役への一途さを感じました。ユヌさんはこの作品が初主演ですが、女優としてはやりにくいベッドシーンが多かったにも関わらず、芝居と割り切り、躊躇することなく演じてくれたので、私も自然な芝居ができました。
──本作で注目してほしいシーンを教えてください。
ジフンが香水を振りまいて、思い出に耽っているシーンが素晴らしいです。撮影のときは香水がどのようにスクリーンに映るのかわからなかったのですが、完成した作品を見て、すごく雰囲気があるのに驚きました。そのお蔭で自分もよく見えます(笑)。監督の編集手腕や美的感覚が成せる技だと思います。圧倒されました。
<PROFILE>
イ・ジフン
1988年10月29日生まれ。2013年にドラマ『学校 2013』で同名役でデビュー。不良だった若者が真っ当な道に進むまでのピュアな姿を表現して大きな反響を呼び、一躍その名が知られるようになる。以降『最高です!スンシンちゃん』(13)、『六龍が飛ぶ』(15)、『魔女宝鑑~ホジュン、若き日の恋~』(16)など様々な TV ドラマで確かな演技力を披露し、注目を集めてきた。2019年の MBC ドラマ『新米史官ク・ヘリョン』では、見目麗しい堅物の士官「ミン・ウウォン」役に扮し、MBC演技大賞水木ドラマ部門で助演賞を受賞した。さらに、2023年7月に公開された初の長編主演作『隙のない関係(原題)』では、歌手を目指してオーディションに挑む「スンジン」役を完璧なまでに演じた。
『アンダー・ユア・ベッド』2024年5月31日(金)より 全国公開中
<STORY>
学生時代から誰からも名前すら覚えてもらえなかった孤独な男・ジフン(イ・ジフン)には忘れられない女性がいた。 それは、初めて大学の講義中に名前を呼んでくれたイェウン(イ・ユヌ)だった。数年経っても忘れられないジフンは彼女を探し出し再会を果たすも、彼女は覚えていなかった。再び彼女に強烈に惹かれてイェウンを24時間監視するようになったジフンは彼女が夫であるヒョンオ(シン・スハン)から激しいDVを受けていることを知ってしまうがー
<STAFF&CAST>
監督・脚本: SABU
原作:大石圭「アンダー・ユア・ベッド」(角川ホラー文庫/KADOKAWA刊)
出演: イ・ジフン、イ・ユヌ、シン・スハン
配給:KADOKAWA
©2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED