「ポール・ジアマッティは電話帳で人を感動させる」
学園モノが好きだというペイン監督は、本作を手がける上で大きく影響を受けた作品として10年以上前に観たフランス映画『Merlusse』(35/マルセル・パニョル監督)を挙げる。「その映画を一度だけ観たんだけど、ずっと頭から離れなかった」という監督は、年末年始の休暇中、嫌われ者の教師とともに寄宿舎に残された生徒たちが、いつもいたずらを仕掛けていた教師の優しさに触れるというこの物語に本作に至る作品のアイデアを見出していた。
その頃、監督のもとに届いた男子校を舞台とした脚本のパイロット版に強く魅せられたという。それを執筆したのはこれまで30年近く多くのTVシリーズの脚本家やプロデューサーとして活躍してきたが、映画脚本の経験はなかったデヴィッド・ヘミングソン。名脚本家としても知られる監督だが、今回はヘミングソンに対して自分のアイデアを加えたうえで長編映画の脚本を書いてほしいと打診したという。「普段は自分で脚本を書くが、今回は少し直したぐらいだった」そうだ。本作は、第76回全米脚本家組合(WGA)賞においてオリジナル脚本賞をはじめ17もの脚本賞を獲得。
監督の作品では『サイドウェイ』以来の主演を務めたポール・ジアマッティについて、「大げさではなく、ポール・ジアマッティは最高の役者だ。彼にできないことなんてない」と最大限の賛辞を送る。『サイドウェイ』制作時に「陳腐なセリフでもうまく演じる男だと確信していた」と語り、その演技力を立証する出来事として「電話帳を渡したことがあった。適当なページを読ませると、みんな感動してしまったんだ」と驚きのエピソードを語る。
同作以降は機会がなかったが「今回やっと彼にふさわしい題材と出会えたんだ」と語るように、主人公のハナムに当初からジアマッティを念頭に置きながらヘミングソンとともにハナムのキャラクターを構築。一見誰から嫌われても不思議でない教師でありながら、徐々に味わい深さを見せていくハナムという人物について、「実は今回、ポールとはキャラクターについて何も話をしていない。なぜなら、彼のことを信頼してるから安心してキャラクターを預けることができるんだ」と語り、続けて「ポールは”私にはこの人物のことがよく分かります。だから、任せてください”と言ってくれたんだ」とふたりの信頼関係の深さを明かした。
本作を観る者にとって、問題児のアンガスを鮮烈に演じた新星ドミニク・セッサは大きな発見となるだろう。彼は、本作の撮影が行われた学校の生徒で演劇部のスターだったが、カメラの前に立つのは本作が初めてとなる。大抜擢の経緯を語りつつ、「今後の彼がどうなるのかを追えば、面白いドキュメンタリー映画になるだろうね」と、そのスター性に着目する興味深いコメント。
そのほか、本作での演技により、他を寄せ付けない圧倒的な高評価で本年度アカデミー賞®で助演女優賞を獲得したダヴァイン・ジョイ・ランドルフについて、「傷を抱えた人を演じさせるなら、コメディがうまい人だ。メアリー役には他にも何人か候補者がいたけど、最終的には彼女にほれ込んで決めたよ」などと語る。
監督は、映像の最後に「70年代の空気を感じてほしい」と締めくくるが、「私は人間的な物語を撮りたいといつも思っている。映画的な人生よりも、実生活に近い主人公とストーリーが好きだから」とも語っている。
本作は、『サイドウェイ』と『ファミリー・ツリー』で二度のアカデミー賞®脚色賞に輝くアレクサンダー・ペイン監督最新作。日本でリメイクもされた『サイドウェイ』で主演していた名優ポール・ジアマッティとの再タッグは映画ファンの胸を高鳴らせ、ゴールデングローブ賞で主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を見事受賞。さらに、本年度のアカデミー賞®助演女優賞受賞をはじめ、ゴールデンクローブ賞ほか全58賞(3月5日時点)と全米の映画賞を総なめにしたダヴァイン・ジョイ・ランドルフが、言葉ではなく、表情や仕草で大切なひとり息子を失ったメアリーの孤独を体現し、新人のドミニク・セッサは家族との複雑な関係を繊細に演じて強い印象を残している。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
6月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
© 2024 FOCUS FEATURES LLC.