残酷な現実に救いはあるのか？リアルな社会格差を描いた韓国映画3選

全てフィクションにも関わらず、極端な貧富の差が生み出した「社会格差」という韓国社会の問題を根底にして、社会からこぼれおち、端に追いやられた人々の残酷すぎる現実を突きつけてくる。キム・チャンフンは自身が経験した、生活もままならなくなった頃の社会の理不尽さを、ヤン・イクチュンは、自分が抱えてきた家族との間の問題。ポン・ジュノは、未来に対する不安や恐れを描きたいという感情があったという。そして、そのどれもが世界的に高い評価を得ている作品ばかりである。

『このろくでもない世界で』

ある地方の暴力が蔓延る町で貧困にもあえぐ18歳の高校生・ヨンギュ（ホン・サビン）と、彼の絶望漂う瞳にかつての自分を重ねた裏社会の男・チゴン（ソン・ジュンギ）。傷だらけのふたりが交錯した時、彼らの運命は思わぬ方向へ猛スピードで走り出す―――。

登場人物それぞれの望みさえ抱けない境遇とは裏腹に、自由を渇望する彼らの深淵にまで触れる韓国ノワール作品。監督・脚本のキム・チャンフンは本作が初長編作品で、韓国映画界の未来を担う新たな才能と期待される。実話ではないものの、監督自身が社会で苦労した経験をエッセンスとして盛り込み、身体的痛みと心の叫びが渾然一体となった脚本に惚れ込んだソン・ジュンギがチゴン役を熱望したことから、この企画が本格的に動き出したという。

ヨンギュ役に扮したのは映画初主演のホン・サビン。この役を勝ち取るまでに三度のオーディションを経た。そして、ヨンギュの義妹・ハヤン役に同じく新人のキム・ヒョンソ。アーティストとして、BIBI名義で韓国ではもちろんアメリカのラジオ市場を席巻、Mediabaseトップ40のポップラジオチャートで20位以内にチャートイン、さらには「コーチェラ」で2度ステージに上がるなど、めざましい活躍を見せている。

そんなフレッシュなメンバーのなか、常にトップスターであり続けたジュンギが、本作では大きく作り上げた体躯になまなましい傷を全身に刻んだ犯罪組織のリーダーという、これまで目にしたことのない姿で登場。表情や声のトーンまで徹底的に変身させて、チゴンというキャラクターを時に大胆に、時に繊細に演じ切った。その渾身の演技と若手とのフレッシュなチームの協働により、第76回カンヌ国際映画祭、第28回釜山国際映画祭、第60回百想芸術大賞、第44回青龍映画賞、第22回ディレクターズカット・アワーズなどで絶賛された。

『息もできない』

現在公開中の『告白　コンフェッション』で生田斗真とW主演を務めたヤン・イクチュンの初長編監督作品。母と妹の死の原因となった父親に対して深い憎しみを抱き、冷徹で粗暴な借金取りとして社会の底辺を生きるサンフン（ヤン・イクチュン）。

ある日、強権的な父親や暴力的な弟との関係に悩む女子高校生のヨニ（キム・コッピ）と出会い、次第に惹かれあっていくが・・・。

釜山国際映画祭でワールドプレミアされるや観客・批評家の熱狂を呼び、ロッテルダムはじめ世界の映画祭・映画賞で25を超える賞に輝いた。第10回東京フィルメックスでは、史上初の最優秀作品賞（グランプリ）と観客賞をダブル受賞した。

製作・監督・脚本・編集・主演、５役全てをヤン・イクチュンが手がけ、家を売り払ってまで製作費に当てたという。映画の中の感情に1％の嘘もないと言うほど、ヤン・イクチュンの魂そのものと言える作品。『このろくでもない世界で』のチョン・マンシクも出演している。

『パラサイト　半地下の家族』

韓国ではお馴染みの半地下住宅に住むキム一家は全員失業中で、日々の暮らしにも困窮していた。ある日、長男のギウ（チェ・ウシク）が豪邸に暮らすIT企業のCEOパク家の家庭教師となる。そして兄に続いて妹のギジョン（パク・ソダム）も他人のふりをして家庭教師に採用される。裕福な家庭と貧しい家庭の出会いから始まる人間ドラマ。

本作は、『グエムル-漢江の怪物-』などのポン・ジュノが監督を務め、カンヌ国際映画祭では、審査員満場一致で最高賞のパルムドールに輝き、第92回アカデミー賞では外国語映画が史上初の作品賞を受賞するなど快挙を成し遂げ、６カ国で韓国映画の動員記録を塗り替えるなど、全世界で爆発的盛り上がりを見せた。

貧富の差、サスペンス、スリラーと様々な要素を盛り込みつつ、カメラワーク、脚本、どこをとっても素晴らしく、最高のエンターテイメントへと昇華させた監督の手腕に世界中が大喝采を送った。