太平洋戦争では、日本軍の戦いをもう一つの戦いが支えていた。ラジオ放送による「電波戦」。ナチスのプロパガンダ戦に倣い「声の力」で戦意高揚・国威発揚を図り、偽情報で敵を混乱させた。そしてそれを行ったのは日本放送協会とそのアナウンサーたち。本作は、戦時中の彼らの活動を、事実を基に映像化し、放送と戦争の知られざる関わりを描く。
本作の主人公、森田剛が演じる和田信賢とは、戦前から戦後にかけて活躍して国民的人気を誇り「不世出の天才」と言われた伝説の名アナウンサー。戦前には相撲・野球の実況や文芸作品の朗読などで名をあげ、ニュース、芸能番組でも大活躍した自称「フルコースのアナウンサー」。太平洋戦争では館野守男アナ(高良健吾)と共に開戦臨時ニュースと終戦玉音放送の両方に関わり、終戦直後に退職。その後、嘱託アナとして復帰し活躍。ヘルシンキ五輪の実況を終えパリで客死する。和田を演じた森田は「和田さんは、とにかく調べて自分の言葉で表明する人だったので、そこにすごく魅力を感じた。僕らの仕事にも通じると思った」と語っている。
この度、和田信賢(森田剛)が全国民に語りかける、名シーンが解禁!招魂祭とは、死者の魂を招きよせ弔う儀式で、靖国神社では戦没した軍人、軍関係者を御柱(神)として合祀する大祭で行われた。明治以来、大祭はほぼ春に行われていたが、日中戦争勃発後戦没者が増え、1938年(昭和13年)からは秋にも行われるようになった。
昭和15(1940)年2月、厳粛な国家行事での静寂の中、和田は全国放送の中「母さん、元気かい――」と語り掛ける。当時アナウンサーに求められたのは、原稿を力強く読み、国民の戦意高揚に貢献すること。しかし、その声は、民衆を熱狂させる「声」とは真逆の、温かい、市井の人々に語り掛ける実況だった。和田が届ける声の先には、電気屋に集まりラジオを聴いている人々、静かに耳を傾け、涙を流し聴いている者、戦死した息子の遺影を抱えて悔しそうな人の姿が映し出される。和田は「虫眼鏡で調べて、望遠鏡でしゃべる」と話していたという。招魂祭の放送を担当するにあたっては、和田は遺族を綿密に取材し、全国民にその遺族の想いを届ける様に語り掛けたのだった。演出の一木は 「『招魂祭』での囁くように民衆へ語りかける言葉について、森田さんは絶対にはまるだろうと確信を持っていました。舞台で張ったときの声の通り方や、ラジオで話す時のまさにあなたにだけ話していると思わせる甘い声。さらに森田さんが本来持っている朴訥とした雰囲気とか、そういったものが和田さんにはまると思ったんです。」と当時を振り返る。
更に本作の公開にあたり、一足早く鑑賞した著名人からコメントが到着!俳優・妻夫木聡は「使命感、責任感、自分の存在意義、色々な思いが錯綜するなか、お前はどう生きるんだ?と最後につきつけられた。現代を生きる僕たちが必ず観るべき作品です。」とコメント。また脚本・演出家の宮藤官九郎は「森田剛さん、橋本愛さんら俳優陣の「声」に、ここまで耳を持って行かれる映像作品を初めて観た気がします。」と当時のアナウンサーたちを演じた俳優陣を絶賛している。
以下、コメント全文【※順不同・敬称略】
俳優 妻夫木聡
魂のこもった皆さんの芝居に心揺さぶられた。
情熱だけではどうにもならない現実。
使命感、責任感、自分の存在意義、色々な思いが錯綜するなか、
お前はどう生きるんだ?と最後につきつけられた。
現代を生きる僕たちが必ず観るべき作品です。
最後の最後まで目を背けず向き合ってもらいたい。
俳優・土屋太鳳
思いを伝えるはずの「声」、事実を伝えるはずの「報道」。
そのどちらも人の心から生まれていて、生み出す人たちの心が歪めば、
こんなにもたやすく歪んでしまう。
でも同時に「その歪みに立ち向かうのも人の心なのだ」と、胸の奥に小さな希望が灯るのを感じました。この作品は時代を超えて、アナウンサーたちと共に闘い続けるために…
もしかしたら、もう始まっているかもしれない何かを止めるために…産声をあげようとしているのかもしれません。凛とした映像に包まれたこの覚悟が、ひとりでも多くの人に届いてほしい。
そして共有し続けたいと、心から願います。
脚本・演出家 宮藤官九郎
即時描写の場面、本当に素晴らしかった。
森田剛さん、橋本愛さんら俳優陣の「声」に、ここまで耳を持って行かれる映像作品を初めて観た気がします。その「声」が、放送技術の発展が、国威発揚に利用されてしまった。
同じようなことが、今も世界のどこかで起こっていることを見過ごしちゃいけませんね。
僕は『いだてん』で一度、完全に燃え尽きましたが、演出の一木さんはその後もメラメラと燃え続け、さらに「アナウンサー」と「戦争」を、深く掘り下げたんだなぁ。頭がさがります。
映画監督 大友啓史
言葉は諸刃の剣だ。この映画で描かれる”言葉を生業(なりわい)にする者たち”の葛藤と反芻は、センセーショナルな言葉だけが拡散されていく現代のSNS社会にこそ、より必要なものであるだろう。
「龍馬伝」「スパイの妻」等の撮影、佐々木達之介のエモーショナルなショットの数々に目を見張る。
映画監督 塚本晋也
報道とは何か。熱狂とは何か。報道が戦意を煽り、戦争に加担してしまう。
民衆が熱狂し便乗する。
これは、過去のことではない。今現在起こりつつあること。
そう思って映画に、現実に目を凝らさなければならない。
アナウンサー 笠井信輔
戦時中に武器を持たない兵士がいた。電波戦士=NHKアナウンサー。
「偽りの言葉」に扇動された国民が死んでゆくという事実に同業者として凍り付いた。
昔話ではない!それは「フェイクニュース」という形で今も続いているのだ。
フリーアナウンサー 大橋未歩
放送人の端くれとして自戒をこめて言う。「不都合な真実の隠蔽は終わっていない」
だから私たちにこの映画は必要なのだ。誰もがメディアとなれる現代なら尚のこと、
正しさを自問し続ける苦悩から逃げてはならない。
ジャーナリスト 柳澤秀夫
戦争という理不尽な大きなうねりに争うこと。それが如何に難しいことなのか!
ならばどうすればいいのか?問われているのは過去だけではない。
混迷を深める今の時代に生きる我々自身ではないのか?
そんな問いを容赦なく鋭く突き付けてくる、まさに心をえぐる作品だ。
映画評論家・松崎健夫
軍事を礼賛するようなプロパガンダに便乗し、勇ましい言葉で戦意を煽った人々の多くは、戦後になって「最初から間違いだとわかっていた」と居直った。昨今の世情でも、SNSを中心に“極端な言葉で断言する、声の大きな人”に大衆が魅せられているという危うさがある。本作は戦時中を描いた作品だが、現代に通じる思潮を感じさせるのはそのためだろう。表層的な印象に依りがちであるからこそ、大衆に向けた<声>は熟慮すべきなのである。
劇場版 アナウンサーたちの戦争
8月16日(金)全国公開
©2023NHK
配給: NAKACHIKA PICTURES