名優のキャリアを中心にその道のりを振り返る連載の第39回。今回取り上げるのは韓国を代表する名優であり、本国でメガヒットした最新作『ソウルの春』の怪演も評判を呼んでいるファン・ジョンミンです。(文・山村祥子/デジタル編集・スクリーン編集部)
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個性を消して役の色に染まるというよりは
どこかに“ファン・ジョンミンらしさ”がにじむ

70年代末、ソウルで実際に起きた軍事反乱をモチーフにした『ソウルの春』(8月23日公開)。韓国で昨年の興行収入1位を記録した本作で、独裁者の座を狙いクーデターを起こす主人公チョン・ドゥグァンを演じているのがファン・ジョンミンだ。ヒールを演じたことについて「今まで多くの悪役を演じてきましたが、今回は“チョン・ドゥグァン”という人物を演じました。皆それぞれ違う色をもった人物なので、役を分析し、すべて異なる雰囲気で演じてきたと思います」と語る彼は、キャラクターを善悪ではなく個性で捉え、その背景や感情に向き合ってきたことがうかがえる。

画像: 独裁者の座を狙いクーデターを起こす主人公に扮した『ソウルの春』 © 2023 PLUS M ENTERTAINMENT & HIVE MEDIA CORP, ALL RIGHTS RESERVED.

独裁者の座を狙いクーデターを起こす主人公に扮した『ソウルの春』
© 2023 PLUS M ENTERTAINMENT & HIVE MEDIA CORP, ALL RIGHTS RESERVED.

1970年9月1日、韓国・慶尚南道で生まれたファン・ジョンミン。『将軍の息子』(90)での俳優デビュー後、兵役を経て、舞台を中心に活動。同性愛者の主人公を演じた『ロードムービー』(02)で青龍映画賞の新人男優賞を受賞し注目を集めると、『浮気な家族』(03)では不倫する弁護士、『甘い人生』(05)では主人公(イ・ビョンホン)を痛めつける社長と、クセのあるキャラクターを演じて印象を残していく。 HIVキャリアのヒロインに無償の愛を注ぐ青年を演じた『ユア・マイ・サンシャイン』(05)で国内外の観客に広く愛されると、『雲を抜けた月のように』(10)では盲目の剣豪を、『生き残るための3つの取引』(10)では出世のために魂を売る警察官役で、演技の幅を見せていく。

キャリアの転換点となったのは『新しき世界』(13)。残虐さと義理人情をあわせもつ犯罪組織のナンバー2を演じ、強烈な印象を残した。うってかわって『国際市場で逢いましょう』(14)では、家族愛に溢れる主人公の青年期から老年期を好演。熱血刑事を演じた『ベテラン』(15)も大ヒットし、興行俳優としての地位を確立した。『ヒマラヤ〜地上8,000メートルの絆〜』(15)では、エベレスト山頂付近で遭難死した後輩の遺体を探すため、過酷な遠征に挑む登山家を演じている。

画像: キャリアの転換点となった『新しき世界』 © 2012 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd. All Rights Reserved.

キャリアの転換点となった『新しき世界』
© 2012 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd. All Rights Reserved.

良心的な主人公のイメージから離れたかったのか、『哭声/コクソン』(16)では脇役として祈祷師の男を、『アシュラ』(16)では悪徳市長を怪演。『工作 黒金星と呼ばれた男』(18)では、北朝鮮に潜入するために、実業家を装う韓国の工作員を演じた。『人質 韓国トップスター誘拐事件』(21)は、拉致された俳優ファン・ジョンミンを自身が演じるという異色の設定。『極限境界線-救出までの18日間-』(23)では、タリバンに拉致された韓国人の救出に奔走する外交官を熱演している。そのオールラウンダーぶりに驚かされるが、自らの個性を完全に消して役の色に染まるというよりは、どこか“ファン・ジョンミンらしさ”を感じさせるのが、彼の演技の魅力だろう。それは所作であり、人間味であり、狂気でもある。

映画界で活躍する一方、「ハッシュ〜沈黙注意報〜」(20)や「ナルコの神」(22)などドラマにも出演しているほか、デビュー後から継続的に舞台にも立ち、今年7月には「マクベス」で主演を務めた。演劇には強い思いがあり「舞台は俳優の芸術であり空間。演劇は自分にとって癒しの時間なんです。観客の皆さんの反応を感じることで癒されて、映画とはまた違った幸福を感じます」と語っている。演じることを心から楽しんでいる、根っからの役者なのだ。

画像: 『ベテラン2(原題)』を携えて今年のカンヌ国際映画祭に出席 Photo by Dominique Charriau/WireImage

『ベテラン2(原題)』を携えて今年のカンヌ国際映画祭に出席
Photo by Dominique Charriau/WireImage

『ソウルの春』に続く新作は、言えない秘密を抱える夫婦が事件に巻き込まれるアクション『クロス・ミッション』(Netflix配信中)、再び正義感に溢れる破天荒な刑事を演じる『ベテラン2』(24・原題)がある。次はどんな姿を見せてくれるのか、期待が高まる。

『ソウルの春』あらすじ

画像1: 『ソウルの春』あらすじ

「粛軍クーデター」「12.12軍事反乱」などとも言われ、韓国国民の民主化への希望を圧殺した1979年の実際の事件を基に、一部フィクションを交えて映画化。独裁者の座を狙う男と、国を守ろうとした男の、国家の命運を懸けた9時間の攻防を描く。韓国で国民の4人に1人が劇場に足を運び、2023年観客動員数第1位のメガヒットを記録した。

画像2: 『ソウルの春』あらすじ

監督は『アシュラ』などで知られる名匠キム・ソンス。同作でもタッグを組んだ2大スター、ファン・ジョンミンとチョン・ウソンを再び主演に迎えた。ファン・ジョンミンは特殊メイクで劇的な変身を遂げ、新たな独裁者として君臨すべくクーデターを決行するチョン・ドゥグァン保安司令官を怪演。

ファン・ジョンミンから日本の観客へのメッセージ

『ソウルの春』は1979年12月12日に大韓民国で起きた軍事反乱を緊迫感たっぷりに描いた映画です。近くて遠い国である大韓民国で起きた実際の出来事に映画的な面白さを盛り込み、劇中において「チョン・ドゥグァン」と「イ・テシン」の二大軸の対立を緊張感を持って楽しみながら観ることが出来ます。歴史的事実を扱った映画ですが、「ソウルを支配しようとする者vsソウルを守ろうとする者」の対立を描いた軍部の物語です。過去の韓国のダイナミックな現代史でもあるその時間の中に本作を通して入ってみるのも面白い経験になることでしょう。 また、演技力の高い俳優たちの熱演も見どころです。映画を観ている間に次々と展開が変わり、退屈する暇が1分もない緊張感が続く映画です。是非、楽しんで見ていただき、良い評価をお願いします。

『ソウルの春』
2024年8月23日(金)公開
韓国/2023/2時間22分/配給:クロックワークス
監督:キム・ソンス
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク、チョン・ヘイン、イ・ジュニョク

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もう一本の新作もチェック! 『クロス・ミッション』

画像: Netflix映画『クロス・ミッション』独占配信中

Netflix映画『クロス・ミッション』独占配信中

ファン・ジョンミン、ヨム・ジョンア共演のアクションコメディ。特殊要員から主夫になった男と、夫の過去をまったく知らない刑事の妻。図らずも危険な任務に巻き込まれた2人は、夫婦の絆が試される大きな試練に直面する。

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