時代のトップを走り続ける菅田将暉と、世界的な名監督・黒沢清。映画ファンが待ち望んでいたタッグが、『Cloud クラウド』でついに実現した。転売で日銭を稼ぎ、ネット社会に無自覚に憎悪の種をまき、やがて“狩りゲーム”の標的になっていく男を通して描かれるのは、見えない悪意と隣り合わせの現代社会の怖さ。“真面目な悪人”である転売屋の主人公・吉井を演じた菅田に、黒沢が改めて感じた魅力とは?そして、菅田が黒沢組で見つめたものは?(文・杉谷伸子/写真・久保田司/デジタル編集・スクリーン編集部)

菅田将暉 プロフィール

1993年2月21日生まれ。大阪府生まれ。2009年に俳優デビューし、主演映画『共喰い』(13)で日本アカデミー賞新人俳優賞。日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した『あゝ、荒野』(17)、大ヒット作『花束みたいな恋をした』(21)など、骨太なドラマからラブストーリーまで、さまざまなテイストの作品で日本映画を牽引する一方、2017年にはソロ歌手デビュー。アーティストとしても支持を得ている。

「僕はそもそもこのオファー自体にすごく救いのような気持ちがあって。“ああ、俳優でいてよかったな”と思えた現場ですし、やっぱり映画の制作の現場は楽しいな、ある意味で夢があるなと再確認させてもらったなという思いがあります」 

黒沢清監督との初タッグとなった『Cloud クラウド』で得たものを尋ねると、菅田将暉は「それは公開してからいっぱい感じるんでしょうけど」と前置きして、こう答えた。世界的な名監督・黒沢の現場は、その黒沢が「オファーを受けてもらえてラッキーでした」というほどに人気・実力ともにトップを走り続けている菅田に、改めて映画の魅力を感じさせてくれるものだったのだ。

と、同時に、黒沢にも「日本の俳優の力はすごいものだなと改めて感じましたし、監督も頑張らないと」と新たな決意ももたらした菅田将暉。もちろん、彼の俳優としての唯一無二の存在感も演技力も誰もが認めるところだが、その活動は俳優としてのフィールドにとどまらない。音楽活動やファッションを通しても、菅田将暉という存在そのものが時代をリードしていると言ってもいい。

hair&make/AZUMA(M-rep by MONDO artist-group) styling/KEITA IZUKA

画像: 『Cloud クラウド』菅田将暉×黒沢清監督 インタビュー

黒沢清監督 プロフィール

1955年7月19日生まれ。兵庫県出身。大学時代から8㎜映画を撮り始め、その後、長谷川和彦、相米慎二らに師事。『CURE』(97)で世界的な注目を集め、『回路』(00)でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞、『スパイの妻』(20)でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞。本年は、メディア配信プラットフォーム「Roadstead」のオリジナル作品第1弾『Chime』、フランス製作のセルフリメイク『蛇の道』が公開されている。

──黒沢監督は以前から菅田さんとお仕事されたかったそうですが、今回、転売屋の吉井役でオファーされた理由は?

黒沢「昔からわかりやすい娯楽映画としてのアクションを現代の日本でやりたいと思っていました。殺す側も殺される側も、刑事やヤクザの切った張ったとは縁がなく生きている普通の人。それが、いくつかのきっかけで最終的には殺すか殺されるかの関係になる。小さい規模ですけれども、戦争というのはそうのようにして起きるものだろうと想像します。主人公はあくまで普通。インターネットは、暴力沙汰に縁がないような人が一歩踏み外すと突然そういう世界に巻き込まれるときの非常に都合の良い道具として題材にしました。普通というのは難しいんですけども、いい人のようにも悪い人のようにも見え、どこにでもいそうな感じがする30歳前後で、強烈な存在感のある主人公を演じられる俳優といったら、圧倒的に菅田将暉がその筆頭です。吉井がどちらに突き進むのか、観ていて、多分誰もわからない。今回、菅田さんの力はほんとに大きかった。“うん、いいよ”の一言でも、半分は嬉しいような、半分は困ったような、まさにこれが普通の反応だよなというすごく印象に残る曖昧さをどんどん積み重ねていってくれて。もう曖昧では済まされないという状況に遂に追い込まれるという流れが見事にできあがりました」

菅田「その曖昧さでいうと、吉井は怒ってるから怒鳴るわけではないし、馬鹿にしてるから笑うわけではない男です。吉井の気持ちに関して、目に見える情報をある程度制限しながら演じようと思っていました。キャラクターの行動原理が曖昧だからこそ面白い物語なので、常に複合的な気持ちで演じるという感じでした」

黒沢「普通の俳優が曖昧に演じると、下手をすると観客の興味を失うんです。激しい反応をすると、“嬉しいんだな”とか“辛いんだな”とか、良くも悪くも観客はその俳優に乗っかることができる。ところが菅田さんは終始どっちつかずの反応をしつつ、観客に“この人はどっちに行くんだ?”と、逆に興味を持たせる。それは確実に俳優の存在の強烈さがそうさせるのだと思います」

──監督は、そんな菅田さんの表現の力を、関西出身の菅田さんが「標準語で喋る」時点である種の芝居を日常的に行っているところがあるからではと分析されていますね。菅田さんご自身はどう思われますか。

菅田「その分析が出るのは、多分、監督もそうだからと思います。印象的だったのが、“台本や映画に関しては、ある時から標準語になった”とおっしゃっていて。それは僕もすごくわかるんです。関西弁の役は、逆に難しい。台本の形式には、やっぱり標準語がしっくりくる気がしてしまうんです」

黒沢「僕は俳優ではないので表現としてはわからないんですけど、映画をやり始めてから日常生活も全部自然に標準語になっていったので、関西弁を喋り出すと映画のことはまったく考えられない思考回路になってしまう。もちろん菅田さんは柔軟に関西弁の役もやってらっしゃるし、多分、標準語を自然に客観的にコントロールする技を身につけられたのかなと」

『Cloud クラウド』

画像1: 『Cloud クラウド』

「生活を変えたい」という思いから、町工場に勤めるかたわら、転売ヤーとしてせっせと日銭を稼いでいた吉井。しかし、彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒は、ネット社会の闇を吸って成長し、実体をもった不特定多数の集団へと変貌。彼らが始めた“狩りゲーム”の標的となった吉井の日常は急速に破壊されていく。前半の冷徹なサスペンスから、後半のソリッドなガンアクションへと劇中でジャンルが転換する斬新な構成で、見えない悪意と隣り合わせの怖さを描くサスペンス・スリラー。

吉井良介(菅田将暉)

画像2: 『Cloud クラウド』

“ラーテル”というハンドルネームを使う転売ヤー。真贋の怪しいアイテムやレアグッズを買い占め、大幅に値段を釣り上げて売るというスタイルでコツコツ稼ぐ“真面目な悪人”。

『Cloud クラウド』
2024年9月27日(金)公開
日本/2024/2時間3分/配給:東京テアトル、日活
監督・脚本:黒沢清
出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝 ほか

©︎2024「Cloud」製作委員会

This article is a sponsored article by
''.