⾔葉にできない孤独やちょっとした寂しさを抱え、⼼のつながりや優しさを求めている人々が犬との出会いを通じて前に歩み始める。『DOG DAYS 君といつまでも』はアメリカ映画『DOG DAYS』(2018)をリメイクしたハートウォーミングな群像劇。監督は本作がデビュー作となるキム・ドクミン。日本の映画学校で学んだというキャリアの持ち主である。作品の構成や演出などをキム・ドクミン監督に語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』をオマージュ


──本作は生き辛さを感じている人々を描いた群像劇ですが、さまざまな世代のキャラクターがバランスよく配置されているのを感じました。

この作品のメインテーマは2つあります。1つは人や犬との関係性。もう1つが前に向かって歩み出す姿を描くことです。それぞれのエピソードについては、プロデューサーたちと何度も集まって考えていきました。

その際、キャラクターの世代をどうするかという点は最初から綿密に計算していました。デリバリーの青年のジヌと年老いた有名建築家のミンソ、留守中の恋人の犬を預かっているバンドマンのヒョンと元彼氏のダニエル、辛い不妊治療体験を経て幼い少女を養子に迎えた新米父母のソニョンとジョンア、犬嫌いの大家ミンサンとミンサンの所有する建物の1階で動物病院を営むジニョン。世代ごとに見る人がどう共感するかを考え、世代を軸に物語を構成しました。


──どのエピソードもそれだけで1つの映画が作ることができそうな心温まる物語が紡がれていました。脚本を書く上で大事にされたことはありましたか。

本作はリアル感を大事にしています。作り物のように見られるのが嫌だったのです。エピソードごとに様々なことが起きますが、それらをあまり誇張せず、かといって軽んじることなく、日常生活として淡々と描く。ラストには登場人物たちがしがみついているものを手放しながらも前に向かって歩き始めた姿を見せることを意識しました。

最近の韓国では刺激的な作品やバイオレンスアクション作品が話題になることが増えています。しかし、この作品はスタイリッシュに撮るのではなく、セリフの1つ1つに純粋な気持ちを込め、誰かの真摯な姿を描くことで日常生活の大切さを伝えたかったのです。それがよき物語につながると信じていました。

画像1: 是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』をオマージュ


──群像劇を演出する際に気をつけたことはありましたか。

メインのキャラクターだけでなく、脇役、例えばミンサンの会社の上司や同僚も1人1人丁寧に背景を設定し、キャストに伝えました。どのキャラクターも手を抜くことはしない。それでこそ、ストーリーにリアルさが感じられると考えています。


──撮影を振り返って、印象に残っていることをお聞かせください。

撮影を冬に行ったので、現場は連日氷点下10~12度でした。そんな中、すべての俳優の方がスタンバイしていても、撮影は犬の準備とコンディションが整ってから。
犬たちが第一の現場でしたね。

路上で倒れたミンソをジヌが助けるシーンがあるのですが、撮影の日も本当に寒く、道路が凍り付いていたので、スタッフが路面を融かして撮影しました。ジヌはバイクで通り掛かるのですが、ジヌを演じたタン・ジュンサンがバイクのブレーキを掛けたら、スリップして倒れそうになり、撮影していてヒヤッとしました。ケガがなくて本当によかったです。

また氷点下にも関わらず、ユン・ヨジョンさんはミンソが倒れるシーンを演じるために道路に横たわらなくてはなりませんでした。撮影中ですから、毛布を掛けて差し上げるわけにもいきません。とても心配しました。しかも飼い犬のワンダがユン・ヨジョンさんの顔を踏み付けて跨いでいったのです。驚いて声を掛けたのですが、ユン・ヨジョンさんは動じることなく、さらっと受け流してくれました。

画像2: 是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』をオマージュ


──動物との撮影は大変と聞きますが、本作では複数の犬が登場します。撮影ではかなり苦労されたのではありませんか。

この作品の撮影でいちばん苦労した点でした。しっかり準備しておくことが大事だと思い、撮影前にドッグトレーナー、スタッフ、CGチームで絵コンテを共有し、ドッグトレーナーには犬に動きや吠え方を訓練してもらいましたが、それでも予想外の状況が発生したのです。

しかし、ドッグトレーナーの方が本当によくしてくださったので、事故もなく、また犬が病気になったりすることもなく、無事に撮影を終えることができて、ほっとしました。


──気に入っているシーンを教えてください。

木工所でミンソとジヌが会話をするシーンですね。そこでミンソが「あなたは年を取ったことはないけれど、私は若かったことがある」と話します。ここがこの作品のハイライトのつもりです。

ユン・ヨジョンさんとの出会いは僕が助監督を務めた『それだけが、僕の世界』(2018)でした。今回、どうしても彼女に出てほしかったので、オリジナルのアメリカ映画『DOGDAYS』(2018)では男性キャラクターだった役を女性に置き換えました。ユン・ヨジョンさん独特のシャープでニュアンスのあるセリフ回しによって、年長者の洗練された物語になると思ったのです。ユン・ヨジョンさんがこの役を引き受けてくださって、本当によかったと思います。

画像3: 是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』をオマージュ


──監督は「攻殻機動隊」をご覧になって、「アニメーションを学びたい」という情熱に駆られて来日し、いろいろ悩んだ結果、日本の映画学校で2年間、実践的な技術を学んだとうかがっています。韓国の監督としては珍しいキャリアかと思いますが、本作でそれが活かされた部分はありましたか。

日本の映画学校では黒澤明監督を始めとする日本の映画監督の作品をいろいろ見て、演出を学びました。そういったことがかなり活かされています。日本で映画学校に通ったことを誇りに思っています。

本作では特に是枝裕和監督の作品から多くのインスピレーションを受けています。直接、演出を教えていただいたわけではありませんが、是枝監督のような叙事的なストーリーを作りたいと思っていました。ミンソとジヌが行方不明になったワンダのポスターを貼っているシーンを1カットで撮っているところからフレームアウトしていくのは、『海よりもまだ深く』(2016)をオマージュしています。

実は本作を韓国で封切りしたとき、是枝監督にお目にかかる機会を得ました。当時、是枝監督が偶然、韓国にいらしていたのです。ホテルに伺って一緒にお茶を飲みました。とても光栄な気持ちでした。


──日本でも公開されることになった今のお気持ちをお聞かせください。

夢のような気持ちでドキドキワクワクしながら日本公開を待っています。日本での留学が終わり、韓国に帰るときに当時の学校の友人たちに「映画監督になって、絶対に日本に戻ってくる」と話したので、それを叶えることができて、とてもうれしく思います。

<PROFILE>
キム・ドクミン 監督  
助監督として19年間のキャリアを持ち、コメディからシリアスまで様々な作品に、演出、脚本などで関わる。近年では『それだけが、僕の世界』(18)『英雄』(22)など、本作のプロデューサーであるユン・ジェギュン監督とのコラボレーションで知られる。俳優たちからの信頼も厚く、50代にして監督デビューを果たした本作には、「監督として作品を演出する時、私にできる役があれば必ず出演したいと思っていた」とインタビューで語ったユン・ヨジョンを始め、前出の2作品で現場をともにした俳優たちが結集。その他の参加作品には、『ダンサーの純情』(05/演出支援)『ブラボー・マイ・ライフ』(07/脚色、助監督)『ロマンティックヘブン』(11/演出支援)『オペレーション・クロマイト』(16/助監督)などがある。

画像: 【インタビュー】⽝との出会いが奇跡を起こす『DOG DAYS 君といつまでも』キム・ドクミン監督

『DOG DAYS 君といつまでも』2024年11月1日(金)全国公開

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<STORY>  
きっちりした性格のミンサン(ユ・ヘジン)は、動物病院「DOG DAYS」のせいで、自宅周辺に犬の糞が転がっていることが忌々しい。院長ジニョンと今日もやり合ったミンサンは、有名建築家ミンソ(ユン・ヨジョン)にたしなめられる。リゾート開発に関わるミンサンは、ミンソを紹介してもらおうと、ジニョンが助けた保護犬、チワワの「車長さん」を一晩預かることに。ミンソは散歩中に倒れ、フレンチブルドッグの愛犬ワンダを見失う。居合わせた配達員のジヌはワンダ探しを手伝う。その頃、作曲家ソニョンとジョンアの夫妻に養子に迎えられた少女ジユが、迷い犬と出会う。一方「DOG DAYS」には、ゴールデンレトリバーのスティングが担ぎ込まれる。大慌てで連れてきたのは、恋人スジョンの留守中にスティングを預かるヒョン。そこへスジョンの元彼ダニエルが現れて…。  
犬を介して出会い、心を通わせる人々の日常が、少しずつ動き始める。

<STAFF&CAST>  
監督: キム・ドクミン  
出演: ユン・ヨジョン、ユ・ヘジン、キム・ユンジン、チョン・ソンファ、キム・ソヒョン、ダニエル・ヘニー、イ・ヒョヌ、タン・ジュンサン、ユン・チェナ ほか  
配給:ギャガ  
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