サディズムとマゾヒズムが渦巻く男だけの<聖域>で彼は何を見たのか。
『フレンチ・コネクション』(71)でアカデミー賞・作品賞と監督賞ほか5部門を受賞。続く『エクソシスト』(73)の世界的大ヒットでオカルト・ブームを巻き起こした巨匠ウィリアム・フリードキン。長きにわたり失敗作と見なされていた『恐怖の報酬』(77)は、ここ10年で評価が逆転し、今や各国で傑作と讃えられている。それから3年、フリードキンが放ったさらなる野心作にして80年代アメリカ映画史上屈指の問題作が『クルージング』だ。
70年代、ニューヨークで実際に発生したゲイの男たちを狙った猟奇連続殺人事件を基にした、かつてないこのクライム・サスペンスは、結果的にハリウッド映画史上初めて男同士のSMセックスを正面から描いたことにより、同性愛差別を助長するとして製作発表時から公開後まで全米各地で猛烈な抗議活動を受けた。大変な話題作となったものの、批評と興行は振るわず、今世紀に入るまで長らく語る者も稀だった。だが近年、『パルプ・フィクション』のクエンティン・タランティーノ、『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン、『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマら名監督たちが本作をフェイバリットに挙げているだけでなく、各国のクィア映画祭では、HIVウイルスが世界に蔓延する前のゲイ・カルチャーを記録した貴重な作品として再上映/再評価される機会が増えている。この度、フリードキン自身が足を運んで目撃したNYアンダーグラウンドの世界を垣間見ることのできる予告篇が解禁となった。
舞台は夜のニューヨーク。青と黒のトーンで統一された、あやしく退廃的な雰囲気が立ち込める映像世界。そんな中でひときわ物騒に輝くナイフと黒いサングラス。ゲイの男性ばかりが狙われる連続殺人事件を探るため、NY市警のバーンズはSMクラブでの潜入捜査を開始する。そこで彼が目撃するのは、レザージャケットや黒のタンクトップ、鋲打ちのベルトやデニム、レザーハットにそろって身をつつんだ大勢の男たち。彼らが互いを見定め、踊り狂うSMクラブでの様子は、汗や煙の匂いも伝わるほどの熱気と凄まじさに満ちている。フリードキンが警察やゲイ・コミュニティの人々と交流を重ね、当時、ロウアー・イーストサイドに実在していた「マインシャフト」や「アンヴィル」という、ゲイのサディストとマゾヒスト以外は立入禁止のSMクラブ内での撮影が許可されたからこその迫力だ。ちなみに、SMクラブ内の男たちは実際の常連たちが演じている。そんなサディズムとマゾヒズムが渦巻く男だけの世界に潜入する主人公バーンズを演じるのは、当時すでに大スターだったアル・パチーノ。最初は当惑するバーンズだったが、やがてその世界に身も心も浸されてゆき…。予告は、人間の性と殺人鬼の暗黒の最深部を覗き込んだバーンズ=パチーノの瞳が、こちらに不穏な眼差しを投げかけるところで幕を閉じる。
出演アル・パチーノ ポール・ソルヴィーノ カレン・アレン ●脚本・監督ウィリアム・フリードキン 製作ジェリー・ワイントローブ 原作ジェラルド・ウォーカー 音楽ジャック・ニッチェ
【1980年|アメリカ|カラー|ヴィスタ|DCP|原題:WILLIAM FRIEDKIN‘S CRUISING|上映時間:102分】キングレコード提供 コピアポア・フィルム配給
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