ブルーベリーパイを作るためにまだら模様の卵を奪い返す冒険に出た悪ガキ3人組が、思いもよらず謎の魔女集団に遭遇。仲間に加わったちびっこ魔女と共に立ち向かう。『リトル・ワンダーズ』は「究極の子ども映画を作りたい」という思いから脚本を書いたウェストン・ラズ―リの監督デビュー作である。第76回カンヌ国際映画祭でプレミア上映されると、監督週間とカメラ・ドール部門に選出。次いで、第48回トロント国際映画祭ではミッドナイト・マッドネス部門のクロージング作品に抜擢された。公開を前に来日したウェストン・ラズ―リ監督に作品への思いや日本に対する印象を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

子どもたちをゴブリンに見立てて撮ったキッズアドベンチャー


──ファンタジーとリアルの間で絶妙なバランスが見事でした。着想のきっかけからお聞かせください。

物語を書くのが本当に好きなのです。いろんなことを考える作業は楽しくてなりません。ある時、私が子どもの頃に好きだったスパイごっこやボードゲームを出発点に、誰もが「この世界に住みたい」「彼らの一員になりたい」と思うような世界観をもつ、究極の子ども映画を作ってみたくなりました。

主人公である“不死身のワニ団”の3人のキャラクターはエッジがあり、これまで、どんなことでも受けて立ってきました。それが、今回、アンナとジョンという強烈な大人と初めて真っ向から対決することになります。

最初の冒険から突然、感情的なものになったり、奪われた卵を取り戻すというところから復讐譚みたいな部分も出てきたり。物語をひねったり、いじったりするのは楽しかったです。

ただ、山での冒険が終わった後、子どもたちをどうやって村まで戻すのか、全然思いつきませんでした。1幕や2幕でレールを見つけておき、みんなで走ってきた電車に飛び乗って、自分の街まで戻るといったことまで考えていました。しかし、それではよくある話ですし、撮るのが大変。この作品の方法が思いついてよかったです(笑)。


──不死身のワニ団のアリス、ヘイゼル、ジョディの3人はそれぞれ個性たっぷりに描かれていました。キャラクター設定で何か大事にされたことはありましたか。

ファンタジー作品によくゴブリンという存在が出てきます。クリーチャー的な要素のある脇役で、メインキャラクターを支える役どころですが、この作品では子どもたちをゴブリンに見立てて作っていこうと思っていました。ゴブリンの視点からキッズアドベンチャーを見せていきたい。男の子の兄弟と女の子が1人。誰がリーダーなのか、常に競い合いつつも、密かに恋心もある。人数は最初から3人をイメージしていました。

一方、ペタルは妖精です。ゴブリンたち3人が妖精に出会って、力を合わせて敵をやっつけるという物語構成にしました。


──監督が投影されたキャラクターはいるのでしょうか。

身体的な部分はヘイゼルで、自分の中のちょっとおどけた感じのところがジョディに近く、マジカルな部分はペタルかなと思います。しかも、リーダーらしく戯言を許さないアリス的な部分も僕は持ち合わせています(笑)。物語上、ロジカルな役どころが必要です。この作品ではそれをジョディが担っていますが、僕を投影しているわけではありません。


──監督ご自身も男兄弟がいらっしゃるのでしょうか。

弟が2人います。幼い頃は3人で競い合うこともありましたが、今はお互いを認め合っています。


──ヘイゼルはアリスにほのかな思いを寄せていますが、アリスは監督の初恋の方がモデルになっているのでしょうか。

ヘイゼルが話していたアリスとのバスタブでの結婚式の話はすべて自分自身の思い出です。


──初恋の女性の方がこの作品をご覧になったら、「あのときの…」と思い出すかもしれませんね。

5歳くらいのことなので、彼女が覚えていてくれるかどうか…(笑)。


──まだら模様の幸運の卵を使って作ったブルーベリーパイと聞いただけで、なんだかとっても特別なパイのように思えて、ワクワクしてきます。

母がよく焼いてくれました。ただ、母のパイは普通の卵を使っています(笑)。

具材で1つだけ手に入らないものは何かと考えたときに、卵だろうと思いました。卵が象徴するものは人生だったり、運命だったり、人によって違うと思いますが、冒険のきっかけにはぴったりですよね。


──ヘイゼルたちのお母さんは風邪を引いたときにブルーベリーパイを食べると元気になると話していましたが、監督も風邪を引くとお母様にブルーベリーパイを作ってもらっていたのでしょうか。

いえ、違います。僕はジンジャーエールとチキンスープが飲みたくなりましたし、母はお茶を勧めてくれました。ヘイゼルたちが寝込んでいる母親のご機嫌を取ろうとして、冷たい水とペパーミントティー、ジンジャーエール、お茶を運びますが、あれはまさに僕自身が風邪を引いたときに、そういったものを好んで飲んでいたことが反映されています。


──ヘイゼルとジョディの兄弟、アリス、ペタルには父親がいません。それをセリフで説明することで、父親の不在感が強く印象付けられました。はっきり言葉で示したのには何か意図があったのでしょうか。

大事な人を亡くした悲しみを悼む言葉を掛けたことをきっかけに仲が良くなった友人がいます。ヘイゼルたちがペタルと絆を育むきかっけに何かが必要で、彼ら自身はそれを意識しないまま、父親の不在を言葉にしたことで共感が生まれ、仲良くなっていくのです。きっかけ以上に何か大きな意図があるわけではありません。


──ペタルとアンナは最後、離れたところから顔を見合わせます。セリフはありませんが、表情だけで2人の絆を感じ、何かを伝えあっていたように見えました。

脚本にも母と娘が瞳で語り合うと書いていました。ペタルは母が教えてくれたことをすべて吸収し、ある種の機知を働かせて、母より一枚上手であることを示します。アンナはそれを目の当たりにして、悲しみと当時に驚き、そして誇らしさが綯い交ぜになりつつ、親離れしようとする娘ペタルの幸せを願っているのです。


──本作のプロモーションのために外国に行かれたのは日本で何か国になりますか。

フランス、ベルギー、イギリス、アメリカは東海岸と西海岸、カナダに行きました。アルゼンチンからも誘われましたが、残念ながら行くことは叶いませんでした。


──日本の滞在で何か楽しみにしていることはありますか。

屋久島に行きたかったのですが、1人でいきなり行ってもわからないことばかりだと思うので、今回は見送りました。今は京都か日光に行こうと思っていますが、どちらにするか、まだ迷っています。


──本作から監督の日本文化への造詣の深さを感じました。例えば、不死身のワニ団の3人が盗んできたゲーム機に大友克洋監督の名前が付けられていました。アリスのバイクには黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』(1958)に登場する秋月の家名からインスピレーションを受けた「Akizuki」のロゴが書かれており、着ているTシャツには「マッハGoGoGo」の志村ミチをイメージしたキャラクターが描かれていました。日本文化を知ったきっかけを覚えていらっしゃいますか。

父が「マッハGoGoGo」が好きで、一緒に見ていました。ただ、そのときは日本のアニメということは意識していませんでした。その後、アメリカでも人気のある「ドラゴンボール」を見るようになり、やがて宮崎駿監督や大友克洋監督の作品を知りました。今でもすごく好きです。

日本の60年代のニューウェーブは大学生の頃に自分で見つけました。誰かに教えられたものでないって、自分の中でもちょっと特別じゃないですか。大事にしています。


──日本にいらしてみていかがですか。

以前から「いつかは日本に行ってみたい」と思っていたので、日本にいるんだということが夢のようで、まだ信じられないような、とても特別な思いを感じています。

東京は少し見て回りましたが、他の都市とは違うエネルギーを感じます。音が違うからかもしれません。誰かの叫び声や車のサイレンなどが聞こえませんよね。リラックスした気分で、まる安全なでユートピアにいるようです。

<PROFILE> 
脚本・監督・製作:ウェストン・ラズーリ
 
1990年10月生まれ。カリフォルニア美術大学でグラフィックデザイン、ファッションデザイン等を学んだ後、それらのスキルを駆使して映画製作も手掛ける。2015年には映画やMVの製作からデザイン全般まで、幅広い創作活動を行うアトリエ「ANAXIA」を設立し、『Jolly Boy Friday(原題)』(16)、『ANAXIA(原題)』(18)といった短編映画をコンスタントに制作した。長編監督デビューとなった本作では脚本・監督・製作・出演までを務め、そのマルチな才能を遺憾なく発揮。第76回カンヌ国際映画祭では監督週間上映に加え、優れた新人監督に贈られるカメラ・ドール部門でのノミネートを果たした。イラスト・デザインもこなせることから、劇中の美術や乗物のペインティングの一部を自ら手掛け、『隠し砦の三悪人』(58)に登場する秋月の家名からインスピレーションを受けた「Akizuki」や、『紅の豚』(92)をモチーフにした「Mama Aiuto!(マンマユート)」といった架空のロゴやブランド名を、クエンティン・タランティーノ監督さながらに散りばめている。ホーリーホック家が使用する呪文「オンペイ、リコス」や「ボム・ボム・リコス」は、ギリシャ語で“狼”を意味する“Lykos(リコス)”に、監督が創作した架空のワードを組み合わせて誕生した。

[主な関連作] 『The Book of Three Snakes(原題)』(14)、『Trials of the Red Mystic(原題)』(15)、『Jolly Boy Friday(原題)』(16)、『SHADES OF PARADISE(原題)』(17)、『ANAXIA(原題)』(18)

『リトル・ワンダーズ』2024年10月25日公開

画像: - YouTube youtu.be

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<STORY> 
悪ガキ3人組“不死身のワニ団”、アリス(フィービー・フェロ)、ヘイゼル(チャーリー・ストーバー)、ジョディ(スカイラー・ピーターズ)は大の仲良し。ある日、ゲームで遊ぶ代わりとして、ママの大好きなブルーベリーパイを手に入れに行くが、必要な卵を謎の男(チャールズ・ハルフォード)に横取りされる。奪い返すために男を追いかけた3人は、魔女(リオ・ティプトン)率いる謎の集団“魔法の剣一味”に遭遇し、怪しい企みに巻き込まれてしまう。森で出会った、魔女の娘ペタル(ローレライ・モート)を仲間に、悪い大人に立ち向かう4人…果たしてこどもたちの運命は?無事にパイを手に入れ、ゲームをプレイできるのか…!?

<STAFF&CAST> 
脚本・監督・製作:ウェストン・ラズーリ  
出演:リオ・ティプトン、チャールズ・ハルフォード、スカイラー・ピーターズ、フィービー・フェロ、ローレライ・モート、チャーリー・ストーバー  
配給:クロックワークス 
© RILEY CAN YOU HEAR ME? LLC

公式サイト:https://klockworx.com/littlewonders

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