シリーズ最新作『ソウX』の物語は『ソウ』(04)と『ソウ2』(05)の間の時間軸で展開される。世間では猟奇殺人犯“ジグソウ”と恐れられる、末期がん患者のジョン・クレイマー(トビン・ベル)。余命宣告をされた彼に希望の光が差す。メキシコで行われている実験的な医療措置だ。コンタクトを取り、単身メキシコに渡ったジョンは、責任者セシリアらに迎えられ施設で手術を受ける。生きる希望を取り戻し始めたジョン。しかし、ある綻びから彼は手術が偽りだった事を知る。怒りに震えるジョンは、医療詐欺グループの面々を捕らえ、新たなゲームを開始するーー。監督は第1作『ソウ』から『ソウ5』(08)、そして『ジグソウ:ソウ・レガシー』(17)では編集、『ソウ6』(09)および『ソウ ザ・ファイナル 3D』(10)ではメガホンをとったケヴィン・グルタート。
今回のインタビューでは、作品の新要素を中心に最新作の裏側を語ってくれた。
今回は物語をシンプルにすることが目標のひとつ
――ジグソウ=ジョン・クレイマー自身のドラマが描かれていることが斬新だと思ったのですが、本作のアイデアの起点は何だったんでしょうか。
「今回の脚本は自分が関わる前に書かれていたんです。脚本家たちは過去のシリーズ作品に関して、ジョンが死ぬ『ソウ3』(06)以降も回想などで何とか彼を登場させていることが強く印象に残っていたようです。トビン演じるジョンは、『ソウ』という映画を成立させるのにそれだけ欠かせない存在なんだと。
そこから、第1作と第2作の間を舞台にし、ジョンにフォーカスする物語にしていったようです。そのおかげで、人間としてのジョンの旅路を描くエモーショナルさもありつつ、『ソウ』にもなっている。すごいクレバーなアイデアで、監督をさせてもらえて本当に嬉しかったです」
――本作のジョンについて、トビン・ベルさんとはどんな話し合いをされましたか。
「今回、切れ者のはずのジョンが騙されてしまいますが、ジョンが愚かに見えないようにするということは、我々全員、特にトビンは気にしていましたね。ジョンの選択が正しいということを、がっちりと固めて見せていくことが重要だったのです。
例えばセシリアについてです。医療に関するリサーチをして、彼女や詐欺チームが医療機器やプロセスを紹介する姿に説得力を持たせようとしました。作曲のチャーリーとは今までと違う曲調にしようと相談し、今までの『ソウ』の楽曲のテイストは残しながらも、ジョンの気持ちに寄り添えるような音楽にしています。
映画的な言語という意味だけでなく、演技やセリフの上でもそうです。メキシコで屋敷に招き入れてくれるガブリエラは、純粋で信頼できるようなキャラクターでなければなりませんでした。
そうした工夫で、ジョンが愚かには見えないような作りにしました。トビンも満足していたとは思いますが、実際に公開されるまで観客の皆さんの反応も見えないので心配事のひとつでもありましたね」
――なるほど。ジョンの人間ドラマを序盤に時間を割いて描く、という構造自体もシリーズとしては特異でチャレンジもあったと思います。
「そうですね。とても大きな挑戦でした。ただ、今回の『ソウ』はすごくシンプルなものにしたいと思っていたんです。物語の構造の変化は、それに付いてきたものだと思います。
今までの『ソウ』シリーズは、捻りの多い複雑な作品が多かったですよね。なので『ソウX』は、本作が初めての『ソウ』になる観客も理解できて、かつ楽しめる作品にしたいなと。サプライズや意外な展開も当然ありますが、物語はシンプルにすることが目標でした。
次の『ソウ』ではまた複雑な物語に戻るかもしれませんが(笑)」
――ゲーム参加者ではなくジョンが物語の主体で、ジグソウ以上にゲーム参加者が露骨に悪役と見えるのもシリーズのも印象的でした。
「実は裏テーマとして“嘘つき”がポイントになっています。今、現実の世界における最大のヴィランは“嘘をつく人たち”だと僕は思っています。アメリカに限らず世界中で、公の場で嘘が吐かれ、権力者が平気な顔をして人を騙そうとします。
皆が騙されるわけではないですが、ある程度繰り返されると嘘を信じてしまい、利用されてしまう。これは世界的な問題になっていると思います。
なので、ある部分においては、本作はそうした問題に関する映画です。セシリアは政治家ではありませんが、嘘をつく政治家と同様のことをしている。ジョンは、そのことに気づいて怒っているのです」
「ソウ」シリーズとしては中々カラフルな作品に
――ジョン周りで言うと、シーンによっては温かさを感じる色も印象的に使用されていますね。今までのシリーズでは、青や黄緑といった冷たさや気味悪さを煽るような色が特徴的に使用されていました。
「仰っていただいたように、シーンごとに異なる色を特徴的に使用しています。第一幕では、ジョンが治療を受けるためにある種誘われていきます。なので、歓迎を受けるような温かい色を使用しているんです。
そもそも『ソウ』シリーズは、地下だったり、せまっ苦しかったり、暗くて荒涼とした光しかないところで撮られるイメージが私にもあり(笑)、白日の下での撮影と相性が悪いようにも思っていました。そういう意味では、今回は『ソウ』の映画では外で撮影することに初めて納得がいきましたね。
実は、もともとプリプロダクションの段階では東欧で撮影する予定でした。費用の観点からメキシコに撮影場所が変わったんですが、私は何度も訪れるほどメキシコが大好きで(笑)。アステカ文明やマヤ文明の趣もあり、トロピカルで異国情緒っぽさが外での撮影で色濃く出せるなと。
終盤はほとんど工場の中で物語が展開しますし、今までの『ソウ』と同じような色味も出てきますよ。ある場面では、皆さんが驚くようなブロンズ色を印象的に使用しているんです。これは脚本にも書かれておらず、私がこだわったポイントです(笑)。
そう考えると、『ソウ』映画、ひいてはホラー映画にはなかなか無いカラフルな映画になったんじゃないかなという風に思っています」
――最後に一つだけ質問させてください。『ソウX』というタイトルは10作目を示していると思いますが、“X”に何か意味を掛けていたりしますか。第一作目では“X”は、秘密が隠されている目印にもなっていました。
「ハハハハ(笑)。確かに『1』でそういうのがあったけど、今回は特にそういう意味はないよ(笑)。タイトルは『2』~『6』まではそのまま数字を使っていましたが、7作名以降は数字を強調すべきかどうかフランチャイズ的な判断があって別のタイトルにしたんです。
ただ、私としては今回の映画をどうしても『X』にしたかったんですよ。クールでシンプルだし、もちろん10作目も意味していますから。そうしたらタイムリーに、イーロン・マスクが『Twitter』を『X』に変更してしまって。それは嬉しくなかった(笑)」
『ソウX』
2024年10月18日(金)公開
アメリカ/2024/1時間58分/配給:リージェンツ
監督/ケヴィン・グルタート
出演/トビン・ベル、ショウニー・スミス、シヌーヴ・マコディ・ルンド
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