国立映画アーカイブでは初、また国内では過去最大規模のメキシコ映画特集
1896年8月14日、リュミエール社の技師によって初めて映画が上映されたメキシコは、社会、文化、政治的背景を色濃く反映させながら独自の豊穣な映画文化を発展させてきた。
本共催企画では、メキシコ無声映画期の代表作『灰色の自動車』(1919)から、巨匠監督やスター俳優たちが活躍した黄金期の名作、1960年代に勃興した新しい潮流「ヌエボ・シネ」以降に頭角を現した監督たちによる1980年代までの話題作を、メキシコ国立自治大学(UNAM)フィルモテカ、メキシコ・シネテカ・ナシオナル(CN)、メキシコ映画機構(IMCINE)の所蔵作品を中心に、日本未公開作を多数含む29プログラム(35作品)にまとめて上映する。国立映画アーカイブでは初。また国内では過去最大規模のメキシコ映画特集だ。
メキシコ映画史を彩る黄金期の作品群
1940年代以降のメキシコ映画黄金期を代表するエミリオ・フェルナンデス(『マリア・カンデラリア』[1944]、『エナモラーダ』[1946])や、メロドラマの名手ロベルト・ガバルドン(『犯罪者の手』[1951]、『マカリオ』[1959])といった巨匠監督たちや、ドロレス・デル・リオ、マリア・フェリックス、ペドロ・アルメンダリスら多くのスター俳優、撮影のガブリエル・フィゲロアら才能あふれる技術陣に支えられて百花繚乱をきわめた黄金期の名作群を紹介。また、ユネスコの《世界の記憶 Memory of the World》に登録されている『忘れられた人々』(1950、ルイス・ブニュエル)の1996年に発見された約3分の別エンディング・フッテージを本編と併せて上映する。
ホラー映画やプロレス物など多種多様なジャンル映画
農場を舞台にした独自のジャンル「ランチョ映画」の一作である『あぶない二人』(1953)、メキシコ革命を題材にした革命もの(『パンチョ・ビリャと進め』[1936])、レスラーを主人公とした「ルチャ・リブレ(プロレス)」ものの一作『エル・サント対吸血鬼女』(1962)等々。また、死後の世界を探求する医師の顛末を描いたゴシック・ホラー『死後の世界の謎』(1959)、妖美な映像で魔女の復讐を描いた『魔女の鏡』(1960)、実際に起きた暴動事件に残虐描写を盛り込んだ異色のセミドキュメンタリー『カノア 恥ずべき事件の記憶』(1976)、ギレルモ・デル・トロがお気に入りの作品の一作にあげるカルト・ホラー『アルカルダ 鮮血の女修道院』(1977)など各時代のホラー作品も取り上げ、メキシコならではのジャンル映画を概観する。
復元されたメキシコ女性映画人の作品群
メキシコ女性映画監督のパイオニアの一人であるアデラ・セケリョが当時の保守的な家族規範や女性像に異を唱えた『誰の女でもない』(1937)、男性監督が中心だった黄金期に活躍したマティルデ・ランデタの『街娼』(1951)、70年代から80年代にかけて集団で映画を製作したフェミニスト女性作家たちによる「女性映画コレクティブ〈Colectivo Cine Mujer〉」の作品集などをラインナップ。復元によって蘇ったこれらの力強い作品群を通じて、メキシコ映画を読み解く新たな視点を提示する。
「メキシコ映画の大回顧」上映作品
灰色の自動車 (1919, エンリケ・ロサス、フアン・カナルス・デ・オメス、ホアキン・コス)
港の女 (1934, アルカディ・ボイトレール、ラファエル・セビージャ)
パンチョ・ビリャと進め (1936, フェルナンド・デ・フエンテス)
ランチョ・グランデへ急げ (1936, フェルナンド・デ・フエンテス)
誰の女でもない (1937, アデラ・セケリョ)
次の夜明けに (1943, フリオ・ブラチョ)
マリア・カンデラリア (1944, エミリオ・フェルナンデス)
エナモラーダ (1946, エミリオ・フェルナンデス)
女隊長アングスティアス (1950, マティルデ・ランデタ)
忘れられた人々 (1950, ルイス・ブニュエル)
愛しき人よ! (1951, ヒルベルト・マルティネス・ソラレス)
制服の処女 (1951, アルフレド・クレベンナ)
街娼 (1951, マティルデ・ランデタ)
犯罪者の手 (1951, ロベルト・ガバルドン)
官能 (1951, アルベルト・ゴウト)
あぶない二人 (1953, イスマエル・ロドリゲス)
不法移民(1955, アレハンドロ・ガリンド)
マカリオ (1959, ロベルト・ガバルドン)
死後の世界の謎 (1959, フェルナンド・メンデス)
魔女の鏡 (1960, チャノ・ウルエタ)
エル・サント対吸血鬼女 (1962, アルフォンソ・コロナ・ブレイク)
[ルベン・ガメス作品集]
マゲイ (1962, ルベン・ガメス)、秘められた公式 (1965, ルベン・ガメス)、メキシコ盆地 (1976, ルベン・ガメス)、囁き (1976, ルベン・ガメス)
ロス・カイファネス (1966, フアン・イバニェス)
ジョン・リード 反乱するメキシコ (1972, ポール・レドゥク)
[女性映画コレクティブ
女のこと (1975, ロサ・マルタ・フェルナンデス)、台所の悪 (1978, ベアトリス・ミラ)、沈黙を破る (1979,ロサ・マルタ・フェルナンデス)、快楽のためではない (1981, マリア・デル・カルメン・デ・ララ、マリア・ユウヘニア・タメス)
カノア 恥ずべき事件の記憶 (1976, フェリペ・カサルス)
アルカルダ 鮮血の女修道院 (1977 , フアン・ロペス・モクテスマ)
夜の心臓 (1984 , ハイメ・ウンベルト・エルモシージョ)
黄金の鶏 (1986, アルトゥーロ・リプステイン)