ロサンゼルスの大火災の影響で発表が1月23日まで延期された第97回アカデミー賞のノミネーションですが、待望のノミネートを果たした近日日本公開作をクローズアップします。今回は『聖なるイチジクの種』を紹介。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)

カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞の母国で有罪判決を受けたイラン人監督作

画像: カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞の母国で有罪判決を受けたイラン人監督作

政府で司法関係の仕事をしている男が護身のため拳銃を支給される。だがその銃がいつしか紛失してしまい……。

前作『悪は存在せず』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したイランのモハマド・ラスロフ監督の4年ぶりの最新作。昨年のカンヌ国際映画祭では審査員特別賞、エキュメニカル審査員賞などに輝いており、ゴールデングローブ賞でも非英語映画賞の候補に入った。アカデミー賞ではドイツ代表として国際長編映画祭にノミネートされた。出演はラスロフ監督とは2017年の『ぶれない男』(日本では映画祭上映)でも組んでいるミシャク・ザラ、俳優・監督として活躍するほか活動家としての一面も持っているソヘイラ・ゴレスターニら。

ラスロフ監督は国家安全保障に関する罪で有罪判決を受けているため映画製作には有形無形の制約があり、スタッフはできるだけ少人数で、機材も最低限で撮影が行なわれた。キャスティングも信条や政治的立場が参考にされたという。

STORY

画像: STORY

市民による反政府の抗議デモで揺れるイラン。20年に渡って勤勉に勤めてきた愛国心のあるイマン(ザラ)は、念願の予審判事への道が開けた。だがその仕事は、反政府デモの逮捕者の起訴状を国の指示通りに捏造すること。正義感のある彼は仕事内容に悩むが、上司はとにかく検事の言う通りにやれと言うばかり。市民たちの反政府感情は募り、国からは護身用にとイマンに拳銃が支給された。

しかしある日、家庭内からその銃が消えた。最初はイマンの不注意による紛失かと思われたが、次第に疑いの目は妻ナジメ(ゴレスターニ)、長女レズワン、次女サナの3人に向けられていく。いったい誰が、何のために? 銃の捜索が進むうちに家庭内に疑心暗鬼が広がっていく。そして真相が明らかになった時、思ってもみなかった悲劇的な事態が彼らに訪れてしまう……。

登場人物紹介

画像: イマン(右)とナジメ(左)

イマン(右)とナジメ(左)

イマン(ミシャク・ザラ)

一家の主。政府から護身用の拳銃を支給されるがそれを紛失してしまい、疑いの目を家族である妻と二人の娘に向ける。

ナジメ(ソヘイラ・ゴレスターニ)

イマンの妻の専業主婦。夫のことは信用しているが、一度銃が洗濯物に紛れていたことから不注意の紛失を疑っている。

画像: レズワン(左)とサナ(右)

レズワン(左)とサナ(右)

レズワン(マフサ・ロスタミ)

長女の大学生。同じ大学に通う女子生徒が反政府デモに参加して負傷したため、自宅にかくまっていたことがある。

サナ(セターレ・マレキ)

次女。姉と仲がよく、姉が友人をかくまった際にも理解を示した。反政府行動にも興味を持ち、スマホを手放せない。

CHECK 国外脱出してカンヌへ到着した監督

画像: カンヌにやってきたラスロフ監督 Photo by Getty Images

カンヌにやってきたラスロフ監督
Photo by Getty Images

ラスロフ監督は2024年4月に控訴裁判所で国家安全保障に関する罪で禁錮8年の刑が確定した。それ以前にも複数の有罪判決を受けていたため、収監されれば最悪の場合、死刑にいたる可能性もある。そこで監督はやむなく国外脱出を選び、自作の出品されるカンヌ国際映画祭に向かった。パスポートは没収されていたため違法に出国、長く込み入った経路で、28日間もかけてカンヌへたどり着いたのだ。出演者たちの一部はイランからの出国が禁止されていたため、カンヌに出席することは叶わなかった。

『聖なるイチジクの種』
2025年2月14日(金)公開
フランス=ドイツ=イラン/2024/2時間47分/配給:ギャガ
監督:モハマド・ラスロフ
出演:ミシャク・ザラ、ソヘイラ・ゴレスターニ、マフサ・ロスタミ、セターレ・マレキ

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