貪欲なまでに役に向き合い続けた阿部寛
──監督を打診されたときのお気持ちからお聞かせください。
プロデューサーの井手陽子さんからお話をうかがって初めて、原作とした『テロ,ライブ』(2013年)を見たのですが、ラジオスタジオだけで98分を押し通す迫力と“やり切るんだ”というパワーに圧倒され、すごく面白いと思いました。
ただ、これをそのまま再現するだけだと、逆に原作の大切なものを失ってしまうような気がしたのです。お話をいただいたときから、この話を10年後の今、日本でやる意味をずっと考えていました。
──監督はこれまでテレビ業界で仕事をされてきました。そのことが影響を与えているのでしょうか。
この作品は放送局が舞台ですが、そこに興味を持ったというよりは、主人公がテロの犯人と対峙して追い込まれるものの、機転を利かせてクリアしていく仕掛けに面白みを感じました。そこをいかに膨らませられるかを考えていく中で、中盤以降の舞台をテレビスタジオにすれば、より話が重層的になると思い、途中で舞台をラジオからテレビに置き換えたのです。
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──本作では脚本も担当されていますね。
これまでも脚本を書く機会はあったのですが、長編は初めてでした。自分の思いやプロデューサーの方々と話したことをまとめてプロットを作っていたら、脚本ができていたのです。
テレビやラジオの番組など、メディアが出すものは一方通行ではなく、見ている人の欲望や願望が映し出され、すべては表裏一体。そういう意味で、見ている人もテレビ番組に参加しています。放送やテレビ局の在り方について殊更に言いたいことがあるわけではなく、見ている側の心持ちに主眼を置きました。
──主人公の折本眞之輔を阿部寛さんが演じています。阿部さんとはどのように折本を作っていかれたのでしょうか。
僕の方から「こういう折本を作ってほしい」という話をしたわけではありません。まず、ベースとしてシナリオがあり、その上で“このとき折本はどういう思いでそのセリフを言っているのか”、“これは本心なのか、誰かを騙すつもりで言っているのか”といった細かい心情について、かなり長い時間を掛けてディスカッションを積み重ねて、折本を肉付けしていきました。リハーサルもしっかりやらせていただきましたから、現場に入る前に大きな軸はできていたのです。
あとはスピード感とテンポを大事にしつつ、白熱したセリフの応酬の中に敢えて奇妙な間を作ることでメリハリをつけ、次に何が起こるのかわからない不安を最大限に煽る演出を意識しました。その上でライブ感を重視。できるだけ芝居を止めずに、複数のカメラで長回しをしています。小さなハプニングが起きれば、それも活かし、10分以上のテイクもありました。
──監督からご覧になって阿部さんはいかがでしたか。
阿部さんは本当に素晴らしかったです。短いカットであっても全力で臨んでくださり、“もっともっといいものを出したい”という思いが毎テイクで感じられる。しかも同じシーンを複数回やっても、その度に違うものを出してくる。貪欲なまでに役に向き合い続けてくれたのです。僕もたくさんの刺激をいただき、それに応えるために万全の用意をするという意識で撮影に臨んでいました。
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──撮影は盟友ともいえる大和谷豪さんです。ステディカムを得意とされている方で、折本が歩いているときは常に折本を追い、折本が座っているときもカメラには動きがあり、常に緊迫感を感じました。
生のお芝居を撮るわけですから、決められた動き通りに撮るのではなく、お芝居が変わったらカメラもそれに合わせて動きを変えます。
大和谷は役者のお芝居にすごく寄り添って撮るカメラマンです。そういった意味では阿部さんが大和谷をリードし、阿部さんと彼の気持ちがシンクロして撮れたカットが多かった気がします。
──監督は大和谷さんと何度も組んでいらっしゃいますから、大和谷さんは監督の考えていることが阿吽の呼吸でわかるのでしょうか。
“レンズは何にするか”、“ステディカムにするのか、FIXで撮るのか”といった部分でも、僕と大和谷では考えが違うときがあります。彼は必要だと思ったことはちゃんと伝えてくれるので、そういうときはお互いの考えを伝えて、意見を戦わせながらよりいいものを選んでいきました。
──パターンの異なる本番を複数行ったそうですが、編集の際に映像素材がとても多かったのではありませんか。
同じシーンを違った角度から何度も撮っていますから、素材はいくつもありました。しかし、僕はいつもそうしているので、素材の量としてはいつもとそんなに変わりはありません。そもそも最初のテイクにすべてを賭けるのが自分のやり方なので、編集ではそれを軸にして膨らませていきます。素材が多くあるからといって、苦労したということはありません。
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──これからご覧になる方にひとことお願いいたします。
この物語では阿部さんが演じた折本眞之輔というキャラクターがいくつもの難問を与えられて、それを限られた時間の中で機転と知恵を使って乗り越えていきます。その過程で折本は“自分は何者であるのか”という問いを突き付けられていくのですが、それら全てが折本が最後に何を訴えるのかに繋がっていきます。
阿部さんが犯人役の俳優さん、竜星涼さん、吉田鋼太郎さん達とどのように対峙し、駆け引きをするのか。お芝居の醍醐味を味わっていただければと思います。
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<PROFILE>
監督:渡辺一貴
1969年生まれ、静岡県出身。1991年にNHKに入局後、数多くのテレビドラマ作品を手掛ける。主な演出作品に「監査法人」(08)、「まれ」(15)、「おんな城主 直虎」(17)、「雪国 -SNOW COUNTRY-」(22)、「岸辺露伴は動かない」(20~24)、「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(24)などがある。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(23)で初めて劇場公開映画の監督を務める。『ショウタイムセブン』では脚本・監督を担当。
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『ショウタイムセブン』2025年2月7日(金)全国公開
- YouTube
youtu.be<STORY>
午後7 時。ラジオ番組に1 本の電話。直後に発電所で爆破事件が起こる。電話をかけてきた謎の男から交渉人として指名されたのは、ラジオ局に左遷された国民的ニュース番組「ショウタイム7」の元人気キャスター・折本眞之輔。突如訪れた危機を番組への復帰チャンスと捉え、生放送中のスタジオに乗り込み、自らがキャスターとして犯人との生中継を強行する。しかし、そのスタジオにも、既にどこかに爆弾がセットされていたのだった。一歩でも出たら即爆破という中、二転三転しエスカレートする犯人の要求、そして周到に仕掛けられた思いもよらない「罠」の数々。その極限状態がリアルタイムに全国民に拡散されていく---!なぜ彼が指名されたのか?犯人の正体と本当の目的とは?すべてが明らかになるとき、折本が選ぶ予測不能の結末。あなたは《ラスト6分》に驚愕する。
<STAFF&CAST>
出演: 阿部寛、竜星涼、生見愛瑠、前原瑞樹、平原テツ、内山昂輝、安藤玉恵、平田満、井川遥、吉田鋼太郎
監督・脚本:渡辺一貴
原作:The film “The Terror, Live” written and directed by Kim Byung-woo, and produced and distributed by Lotte CultureWorks Co., Ltd. and Cine2000
主題歌:Perfume 「Human Factory - 電造人間 -」(UNIVERSAL MUSIC)
配給:松竹 アスミック・エース
©2025『ショウタイムセブン』製作委員会