
エウニセ・パイヴァを演じたフェルナンダ・トーレス
1998年、アカデミー賞2部⾨にノミネートされた『セントラル・ステーション』で世界的な評価を確⽴したサレス監督。これまで彼は静寂を引き裂く暴⼒の影と、それに抗う⼈々の魂を⾒つめ、映画という表現を通じて彼らの記憶を蘇らせてきたが、本作では突然夫を失ったエウニセ・パイヴァが、どのようにして⾃らの喪失と絶望に打ち勝ち、時代の潮流に逆らってまで⽴ち上がったのか︖―静かでありながらも圧倒的な闘志姿を美しく、⼒強い映像で永遠に刻み込み、⾒事、サレス監督初となる<国際⻑編映画賞>を受賞︕さらに、本作はブラジル映画として初めての国際⻑編映画賞受賞という快挙を達成。これにより、ブラジル映画史に新たな1 ページが刻まれた。
授賞式の壇上にのぼったサレス監督は、静かながらも確かな声で「この賞は、独裁政権のもとで⼤きな喪失を経験しながらも、屈せずに抵抗し続けた⼀⼈の⼥性に捧げます。」と語りかけた。それは、圧政に屈せず信念を貫いたエウニセ・パイヴァへの惜しみない賛辞であり、失われた時間と記憶に捧げられた鎮魂の⾔葉だった。続いて、劇中でエウニセ・パイヴァを演じたフェルナンダ・トーレスと、トーレスの実の⺟であり、かつてサレス監督の『セントラル・ステーション』でブラジル⼈⼥優として初めてアカデミー賞主演⼥優賞にノミネートされたフェルナンダ・モンテネグロの名を挙げ、「彼⼥に命を吹き込んでくれた⼆⼈の素晴らしい⼥性、フェルナンダ・トーレスとフェルナンダ・モンテネグロにも捧げます」と、⼼からの賛辞を贈った。
原作となったのはルーベンス・パイヴァの実の息⼦であり作家マルセロ・ルーベンス・パイヴァによる書籍「Ainda Estou Aqui』」(⽇本未発売)。幼い頃、パイヴァ家と親交を持っていたウォルター・サレス監督にとっては、⾃らが⾒聞きし、体験してきた歴史と向き合う重要な作品でもあり、この物語は単なる歴史の再現ではなく、個⼈的な記憶と深く結びついた16年ぶりのブラジル作品ともなっている。
アイム・スティル・ヒア
2025年8月ロードショー
<STORY>
国会議員のルーベンス・パイヴァとその妻エウニセは、5⼈の⼦どもたちと共にリオデジャネイロで穏やかな⽇々を過ごしていた。だが、スイス⼤使誘拐事件を契機に、国の空気は⼀変する。抑圧の波が広がる中、ある⽇、ルーベンスは軍に逮捕され、そのまま連⾏された。愛する夫を突然奪われたエウニセは、必死にその⾏⽅を追う。しかし、その過程で彼⼥⾃⾝もまた軍に拘束され、数⽇間にわたる過酷な尋問を受けることとなる。極限の状況の中でなお、彼⼥は沈黙を貫き、夫の⾏⽅を捜し続けた。⾃由を奪われ、愛する⼈の消息も知らされぬまま、それでもエウニセは諦めなかった。夫の名を呼び続けたその声は、やがて静かに、しかし確かに、歴史を動かす⼒へと変わっていく──。
監督︓ウォルター・サレス
脚本︓ムリロ・ハウザー、エイトール・ロレガ
出演︓フェルナンダ・トーレス、セルトン・メロ、フェルナンダ・モンテネグロ
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