ミュージカル映画の主人公といえば、常に“ドラマティック”な人生を歩んでいるもの。そんな勇気に溢れた“生き方”で、私たちの背中を押してくれるミュージカル映画をご紹介します。今回は、第97回アカデミー賞で助演女優賞・歌曲賞を受賞した『エミリア・ぺレス』をピックアップ。(文・児玉美月/デジタル編集・スクリーン編集部)

“自分らしい自由な人生”へと大きく運命を切り開く
幸せを求めて力強く生きる女性たちの物語

本作の監督を務めたのは、カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞した『ディーパンの闘い』(2015)やヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞を受賞した『ゴールデン・リバー』(2018)などの代表作で知られるフランスの名匠ジャック・オーディアール。音楽はフランスの国民的シンガーであるカミーユと『リンダはチキンがたべたい!』(2023)の作曲家クレマン・デュコルが手がけ、振り付けはルカ・グァダニーノ監督作『サスペリア』(2018)やポール・トーマス・アンダーソン監督作『ANIMA』(2019)などに参加してきたダミアン・ジャレが担当した。主演のエミリア・ペレスには、2016年に自身もトランスジェンダー女性であることを公表しているカルラ・ソフィア・ガスコン。本作で史上初めて米アカデミー賞主演女優賞にノミネートされる快挙を果たした。弁護士のリタを演じたのはジェームズ・キャメロン監督作『アバター』(2009)のヒロイン役で一躍有名になり、その後「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズなどにも出演するゾーイ・サルダナ。エミリアのパートナーだったジェシーにはディズニーチャンネルに出演するなど子役として早くから活躍し、若者世代から絶大な支持を得ているセレーナ・ゴメス。エミリアと恋仲になるエピファニアには、演技が高く評価されているメキシコの実力派俳優のアドリアーナ・パス。本作を彩る力強い女性陣が名を揃えている。

あらすじ

弁護士であるリタは自殺として偽造された夫による妻殺しの事件と関わっていたところ、突然「マニタス」と名乗る麻薬カルテルのリーダーから大金と引き換えの依頼を持ちかけられる。それは本当の自分の姿である女性「エミリア」として生きていくために、足のつかない外科医をはじめ無事に性別移行をできる環境を用意してほしいというものだった。そして任務を遂行した数年後、リタとエミリアはふたたびロンドンで出会う……。

登場人物

画像: エミリア・ぺレス(中央)、リタ・モラ・カストロ(左)、ジェシー(右)

エミリア・ぺレス(中央)、リタ・モラ・カストロ(左)、ジェシー(右)

エミリア・ぺレス(カルラ・ソフィア・ガスコン)

麻薬カルテルの冷酷なリーダー。リタの助けを得て、女性としての新たな人生を歩み出す。

リタ・モラ・カストロ(ゾーイ・サルダナ)

優秀で仕事熱心な弁護士。男性優位社会の理不尽に出くわし、正義とは何か思い悩んでいく。

ジェシー(セレーナ・ゴメス)

エミリアとの間に生まれた二人の子供を育てる一方、愛に生きる情熱的な面もあわせ持つ。

CHECK POINT

衣装でも描かれるアイデンティティの変化

画像: 衣装でも描かれるアイデンティティの変化

「サンローラン」のクリエイティブ・ディレクターであるアンソニー・ヴァカレロが率いる映画制作会社「サンローランプロダクション」が共同プロデューサーとして本作に参加し、多くの衣装がヴァカレロのアーカイブから使用されている。劇中、「El Mal」でパフォーマンスを披露するリタの赤いベルベッドスーツはとりわけ目を惹くだろう。

女性たちの決意や覚悟、葛藤、覚悟に満ちた楽曲&ダンス

画像: 女性たちの決意や覚悟、葛藤、覚悟に満ちた楽曲&ダンス

ジャンルミックスである本作では、圧巻のミュージカルシーンが音楽と台詞と振付を一体に、豊かにストーリーを語りあげていく。もともとサルダナはダンサー、ゴメスはシンガーとしてもスキルを持つが、ガスコンは撮影に入る前1年以上の準備期間中に、猛特訓を積んで挑んだ。主題歌である「El Mal」は、米アカデミー賞の歌曲賞で見事受賞を果たした。

Special Column

殻に閉じ込められていた人生から決別し、新たな一歩を踏み出す4人の女性たち

画像1: Special Column

『エミリア・ペレス』は、一流の布陣で築き上げられた音楽や衣装などを通じて、女性たちの人生の新たなスタートを描いていく。主人公であるエミリアは麻薬王として名を馳せていたが、すべてを捨てて自分の望む人生を生きようと奮闘する。そのかたわらでエミリアをサポートすることになったリタもまた、40歳を迎えて私生活にも仕事にも行き詰まっていたものの、エミリアとの出会いを通して新たな事業に着手していく。エミリアのパートナーとして長らく家庭に身を捧げてきたジェシーは突然ひとりになり、これまで封じ込めてきたかつての愛する人への熱い思いを解禁する。エミリアが出会うエピファニアは、夫からの暴力に苦しんでいたが、その夫からようやく解放されることとなる。このように、本作に登場する女性たちは互いに出会い、変化することによって、誰もが殻に閉じ込められていた人生から決別し、新たな一歩を踏み出そうとしていく。

画像2: Special Column
画像3: Special Column

とくにそれぞれの見せ場となるミュージカルシーンには、彼女たちを体現する魅力が詰まっている。たとえば数万人規模に及ぶ行方不明者を捜す家族を支援する事業のイベントでは、リタは世に蔓延る汚職や賄賂を憎み、「真実を話せ」と「El Mal」に乗せて真っ直ぐに歌い上げてみせる。エミリアがリタを「歩く知性」と表現するように、それは信念のある知的な女性であるリタならではのパフォーマンスであり、ふたりがお互いを信頼しリスペクトし合っていることが垣間見える瞬間ともなっている。映画の序盤に纏っていた威厳が解れ、エミリアが「私は恋をしている」とやわらかく包み込むように歌う表情も印象的だ。また、献身的な母親でありながら愛に生きる女性でもあるジェシーは裸足と高いヒールを使い分けながら生きているが、そんな彼女が「自分自身を思いきり愛したい」と全身で叫ぶように歌うナンバーは、きっと多くの観客の共感を呼ぶに違いない。

『エミリア・ぺレス』
2025年3月28日(金)公開
フランス/2024/2時間13分/配給:ギャガ
監督・脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス

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