2025年3月2日(現地時間)ハリウッドのドルビーシアターで第97回アカデミー賞が開催されました。折からのカリフォルニア大火災でノミネート発表が遅れるなど影響も出ましたが、授賞式は予定通りのスケジュールで実現し、直前になって本命に躍り出たショーン・ベイカー監督の『ANORA アノーラ』が作品賞、監督賞、主演女優賞など全5部門で受賞し、この夜の勝者となりました。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
メイン写真:左から主演男優賞受賞のエイドリアン・ブロディ、主演女優賞受賞のマイキー・マディソン、助演女優賞受賞のゾーイ・サルダナ、助演男優賞受賞のキーラン・カルキン

ショーン・ベイカー監督が
一夜で4つのオスカーを受賞する記録

画像: 左から主演男優賞受賞のエイドリアン・ブロディ、主演女優賞受賞のマイキー・マディソン、助演女優賞受賞のゾーイ・サルダナ、助演男優賞受賞のキーラン・カルキン

左から主演男優賞受賞のエイドリアン・ブロディ、主演女優賞受賞のマイキー・マディソン、助演女優賞受賞のゾーイ・サルダナ、助演男優賞受賞のキーラン・カルキン

今回初めての司会を務めるコメディ俳優のコナン・オブライエンが『サブスタンス』『ブルータリスト』などノミネート作品や、『エミリア・ぺレス』のカルラ・ソフィア・ガスコンらノミニーをネタにしたマイルドなジョークを交えて式を進行し、好評を得たようだ。

オープニングには『ウィキッド ふたりの魔女』のシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデが登場し、「虹の彼方に」「ホーム」「Defying Gravity」をメドレーで歌いあげて盛り上げた。今回はところどころにLAと火災消火に尽力した隊員たちへのトリビュート演出が見られたのも特徴だ。

画像: オープニングでデュエットを披露したシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデ

オープニングでデュエットを披露したシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデ

画像: サプライズ登場のデッドプールと司会のコナン・オブライエン

サプライズ登場のデッドプールと司会のコナン・オブライエン

まず主要部門のトップバッターとして助演男優賞は本命視されていた『リアル・ペイン〜心の旅〜』のキーラン・カルキンが昨年の同賞受賞者ロバート・ダウニーJr.から獲得。スピーチの中で愛妻に向けて「もしオスカーを取ったら4人目の子どもが欲しいといったのを覚えてる?」とラブコール。「プレッシャーをかけているわけじゃないけどもう一人いてもいいよね」と語って大喝采を受けた。

そして助演女優賞はこれも本命だった『エミリア・ぺレス』のゾーイ・サルダナが初の戴冠。「私は移民の両親の誇り高い娘です。夢と尊厳と勤勉さを持っていて、最初にアカデミー賞を受賞したドミニカ系アメリカ人です。そしてこれは最後ではないと願っています」とスピーチして感動を呼んだ。これはトランプ米大統領の移民対策へのステートメントにも聞こえたようだ。

『エミリア・ぺレス』は今回最多ノミネート作だったが、カルラ・ソフィア・ガスコンの過去のSNSでの問題発言が炎上し、この助演女優賞とオリジナル歌曲賞の2部門受賞にとどまった。この歌曲賞のプレゼンターとして“ザ・ローリング・ストーンズ”のミック・ジャガーが登場したのはサプライズの一つだった。

画像: 歌曲賞のプレゼンターとして登場したミック・ジャガー

歌曲賞のプレゼンターとして登場したミック・ジャガー

授賞式の合間のステージで「007」シリーズや昨年亡くなったクインシー・ジョーンズへのトリビュート・コーナーが儲けられたのも今回のハイライト。逝去した映画人を追悼するメモリアル・コーナーでは、亡くなったばかりのジーン・ハックマンを友人モーガン・フリーマンが偲ぶ追慕スピーチを披露したことも印象的だった。

画像: 「007」トリビュートコーナーでタキシードの男性たちと群舞を見せたマーガレット・クアリー

「007」トリビュートコーナーでタキシードの男性たちと群舞を見せたマーガレット・クアリー

画像: ジーン・ハックマンを友人モーガン・フリーマンが偲んだ

ジーン・ハックマンを友人モーガン・フリーマンが偲んだ

画像: クインシー・ジョーンズへのトリビュート・コーナー

クインシー・ジョーンズへのトリビュート・コーナー

注目された主演男優賞は『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディが2度目の受賞。彼が持っている同賞最年少受賞者の記録を『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメが破るかとも思われたが、それを自ら阻止する形になった。しかし彼がその後行った受賞スピーチは5分40秒続き、史上最長という記録も作ってしまった。「いま戦火にいる人や、差別を受けている人の代わりに私がここにいる」と良いことも言っていたのだが、壇上に上がる時に噛んでいたガムを恋人に投げた(?)行為なども含め批判を呼んでしまった。

画像: 主演男優賞候補だった5人が揃って記念撮影を。(左から)ティモシー・シャラメ、コールマン・ドミンゴ、エイドリアン・ブロディ、レイフ・ファインズ、セバスチャン・スタン

主演男優賞候補だった5人が揃って記念撮影を。(左から)ティモシー・シャラメ、コールマン・ドミンゴ、エイドリアン・ブロディ、レイフ・ファインズ、セバスチャン・スタン

一方の主演女優賞は『ANORA アノーラ』のマイキー・マディソンが初受賞。これは本命視されていた『サブスタンス』のデミ・ムーアを逆転しての栄冠で、デミはその瞬間「ん?」という表情を見せたが、後にマイキーに祝辞を送っている。Z世代初の演技賞受賞者となった初々しいマイキーは「セックスワーカーのコミュニティをあらためて称え、敬意を表したいです。私はこれからも彼らの味方であり続けます」と語ったスピーチが好評だった。

画像: 作品賞プレゼンターを務めたメグ・ライアンと主演女優賞候補のデミ・ムーア

作品賞プレゼンターを務めたメグ・ライアンと主演女優賞候補のデミ・ムーア

彼女だけでなく結局主要部門は『ANORA アノーラ』旋風が巻き起こり、監督賞はショーン・ベイカーが先輩クエンティン・タランティーノから受け取り、作品賞も受賞。脚本賞・編集賞も含め、4つのオスカーを一夜で手にしたベイカーはウォルト・ディズニーの持つ記録に並んだ。

画像: 一夜で4つのオスカー像を獲得した『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督

一夜で4つのオスカー像を獲得した『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督

喜びのベイカーは「私たちがここに集い、放送を見ているのはみんな映画を愛しているからですよね。ではどこで映画と恋に落ちたかというと映画館です。そこで他の観客と様々な感情を分かち合うのはかけがえのない共同体験です。今その映画館は減り続けています。特に独立系の劇場は厳しい状況です。コロナ禍にアメリカでは1000以上のスクリーンが失われました。製作者の方々は映画館で観るために映画を作ってください。配給会社の方は劇場公開を優先してください。観客の皆さんも映画館に子供たちを連れて行ってください」と大切な映画文化を守り続けようというスピーチをして絶賛を浴び、会場全体が映画愛に包まれるようなムードを生み出した。

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