一匹狼からチームの一員として活躍できるまでの変化を見せる
──マクリンさんは本作で本格的に俳優デビューを果たし、その演技が高く評価され、世界各国の映画賞で助演男優賞や新人賞を獲得されました。まずは今のお気持ちからお聞かせください。
空の上を歩いているような、ものすごくいい気分です。
私はこの作品でディヴァイン・アイという自分自身の役で出演しましたが、自分のある側面を1つのキャラクターとして演じたと解釈していただけたらと思います。といいますのは、私はブロードウェイの方やテレビの方などから、いろいろなトレーニングを受けたのです。

──どのような側面を演じられたのでしょうか。
最初は一匹狼で誰も信用していませんでした。それがディヴァイン・Gと出会うことで自分の中に変化が起こり、コミュニティの中に入っていき、自分への批判も受け入れ、チームの一員として活躍できるようになったのです。その変化の過程という側面を見せるようにしました。
──本作には原案や製作総指揮にもお名前があります。具体的にはどのような形で参加されたのでしょうか。
普通の方は刑務所の中で収監されている人たちがどういう言葉を遣い、どう振舞っているのかを知ることはできません。フィルムメーカーのグレッグ・クウェダーやクリント・ベントレーの脚本開発に私やディヴァイン・G本人が加わり、よりリアルさを加えていきました。それで原案にもクレジットされているのです。

──主人公のディヴァイン・Gを演じたのはコールマン・ドミンゴです。2年連続でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた方ですが、彼と共演していかがでしたか。
コールマンはとても寛容で愛情深い方です。一緒に仕事をする人のベストを引き出そうとし、そのための情熱を持っています。私自身も随分、助けていただきました。
例えば、舞台では客席の後ろの方までセリフが届くように声を張ります。しかし、映画では声を張らずに、感情や思いなどを盛り込むためにはどうしたらいいのかを教えていただきました。
──本作に出演したことで、役者として変化はありましたか。
これまでは舞台をやってきましたが、これからは映画もやっていきたいです。映画が生み出すマジックに心惹かれたのです。
その一方で、もっと舞台もやりたい。舞台は観客のリアクションを通じて、役者と観客が交流できるのが魅力。どちらか1つではなく、両方をバランスよく取り組んでいければと思います。
──今後、演じてみたい役どころはありますか。
今後はラブコメをやってみたいし、SFもやりたい。ウエスタンもいいですし、コスチュームを身にまとい、歴史モノをやるのも楽しそうだと思います。
私はまだ自分のすべてを見せているわけではありません。私にはこの作品だけでは出し切れないもっともっといろいろな側面があるのです。

──本作は第97回アカデミー賞で脚色賞にノミネートされ、マクリンさんのお名前も入っていました。シンシン刑務所で行われている演劇プログラムRTAによってマクリンさんご自身の人生が大きく変わったのではないかと思います。
私がRTAにことを知ったのは本当に偶然でした。ある人から運動場で金を受け取るはずでしたが、土砂降りの雨が降っていたので、待ち合わせ場所を刑務所の礼拝堂に変えたのです。すると、そこでRTAが劇を上演していました。ふと見てみたら、舞台の上で男たちが自分のやりたいように、自由に自分自身をさらけ出しているのが見てとれたのです。
刑務所で大勢と暮らしていると、普通はそんなことはできません。刑務所の中では、泣くといった“弱い”行動を取った姿を誰かに見せたらとんでもないことになるのです。でも、舞台の上では話が違う。舞台なら感情の表現が許されると知り、すぐさま、RTAのプログラムに申し込みました。
そうして、僕の人生は変わりました。RTAのお蔭でより良い父親、より良い息子、より良い友人になれたのです。それだけではなく、あらゆる意味においてより良い人間になったと思います。RTAを通じて、より良い自分、ベストな自分でいることを教わりました。

──そのご経験を他の方々に伝える活動をされていますか。
カリフォルニアやNYの刑務所に定期的に出掛けていき、「自分にとっていちばんいい状態で刑期を終え、出所後の新しいコミュニティで、そこの一員となれるように、自分を育てていきましょう」と話をしています。収監されている方々に何かインスピレーションを与えられればと思っています。
──最後に、これからご覧になる観客に向けて、届けたいメッセージはありますか。
この作品の舞台は刑務所ですが、刑務所の話ではなく、人間の話です。人間が成長し、自分の責任を知る、社会の中で自分の居場所を見つけて、そこで自分を育てていくといったことを描いています。たくさんの方にご覧いただき、その思いが伝わるとうれしいです。
<PROFILE>
クラレンス・マクリン
RTAプログラム卒業生として本作で本人役を演じた。現在、RTAプログラムのコンサルタント兼アンバサダーとして勤めているほか、MGMTに所属しプロの俳優として活動をスタートさせている。

『シンシン/SING SING』 4月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
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youtu.be<STORY>
NY、<シンシン刑務所>。無実の罪で収監された男ディヴァインGは、刑務所内の収監者更生プログラムである<舞台演劇>グループに所属し、仲間たちと日々演劇に取り組むことで僅かながらに生きる希望を見出していた。そんなある日、刑務所いちの悪党として恐れられている男クラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ“が演劇グループに参加することになる。そして次に控える新たな演目に向けての準備が始まるが――。
<STAFF&CAST>
監督:グレッグ・クウェダー
出演:コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー
原題:SING SING | 2023年 | アメリカ | カラー | ビスタ | 5.1ch | 107分 | 字幕翻訳:風間綾平 | G
配給:ギャガ
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