モンテッソーリのメソッドと言えば、世界的に活躍する各界の天才たちが受けていたと言われる教育だ。この独自の教育を広めたマリア・モンテッソーリに注目して、彼女自身の愛ある幼児教育と生き方を描いた、フランス映画が公開される。
昨年のスキップ国際Dシネマ映画祭上映のために来日した、レア・トドロフ監督に制作への思いをうかがうことが出来た。

独創的な幼児教育の創設者モンテッソーリという女性

古くはトーマス・エジソンやアンネ・フランク、現代ではAmazon創業者のジェフ・ベゾスや、Google創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、シンガー・ソングライターのテイラー・スウィフト、我が国でも将棋の藤井聡太などが受けたことで知られるモンテッソーリ教育。

そのメソッドを導入している日本の保育園や幼稚園、幼児のための玩具などが目にとまる。
生みの親であるマリア・モンテッソーリは、1870年に生まれたイタリア初の女性医師。男性優位時代、未婚の母となり、独自の幼児教育を広めるために勇気をもって女性の自立を牽引する生き方を貫いた。

本作『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』は、彼女が自らの教育の実践の場として、1907年に「子どもの家」を開設するまでの、彼女の取り組みの真実と試練の歩みの7年間を描いた映画だ。
彼女の運命の物語は力強くも美しくピュアな映像で描かれ、2024年のスキップ国際Dシネマ映画祭、横浜フランス映画祭 2025などで上映された。

原題『Maria Montessori(La Nouvelle Femme)』のとおり、マリア・モンテッソーリに扮する女優ジャスミン・トリンカに、教育者以前の自立した「新しい女性像」を凛として演じさせ成功している。

ドキュメンタリー制作から「教育」に取り組むトドロフ監督

レア・トドロフ監督

監督のレア・トドロフは、思想家で哲学者、文芸批評家でもあった父と、多くの受賞作品を生み出した作家の母の間に生まれる。
パリ、ウィーン、ベルリンで政治学を学び、その後ドキュメンタリー映画の助監督となる。2012年初のドキュメンタリー映画「Saving Humanity during Office Hours」を監督。
2015年にオルタナティブ教育をテーマにした、ドキュメンタリー映画「School Revolution: 1918-1939」の脚本を執筆。その際にモンテッソーリ教育のことを知り、遺伝性疾患を持って生まれた娘の誕生が、本作、初の長編映画に取り組むきっかけにもなったという。

リリという女性との交流で高まる、革新的な女性の生き方

20世紀初頭のローマで、マリア・モンテッソーリは、フランスで名を成しステイタスを築いたクルチザンヌ(高級娼婦)、リリ・ダレンジと出会う。

画像: リリという女性との交流で高まる、革新的な女性の生き方

リリは障害を持つ娘がいるが、自分の名声を守るためにパリから逃亡してきた。
マリアはこの時期すでに画期的な新しい教育の基礎を築いており、リリはマリアと交流を重ねるうちに、障害のある子供にも強い意志と才能があり、一人の人格の持ち主であることを気づかされる。そして、ありのままの娘を受け入れられるようになる。

マリアの教育や考え方に共鳴したリリは、男性中心社会の中でもがくマリアの、野望に満ちた活動の実現に手を差しのべる。

子供の時にこそ育まれる、人の力というものに大きく着目し、一人一人の独自性や主導性を尊重することこそが教育そのものだと確信するマリア。その教育を実践して広めていくために情熱を傾け、「子供の権利のために闘う」という想いを掲げ前へと進んでいくマリアにも、女性として自らの人生の選択に迫られる運命が待ち受けていたからだ。

マリア・モンテッソーリの女性像を際立てるためにも登場するのが、この架空の人物のリリである。クルチザンヌという、当時の女性の職業人をしつらえて効果的で興味深い。このあたりがドキュメンタリー制作から飛躍したトドロフ監督の演出の見せどころの一つでもあり、新時代の女性のいでたちや所作も見どころの一つで楽しめる。

ドイツやオランダで盛んなメソッド、モンテッソーリ

ーモンテッソーリというと、世界的に卓越した活躍をされている方々が、この教育を受けていたということで知られていますね。日本でも天才と言われる将棋の藤井聡太さんが受けていて話題になりました。
日本の幼稚園などでモンテッソーリ教育を掲げている場も見かけます。フランスでは盛んですか?

フランスでは国が助成をしない教育なので高額となり、あまり盛んではありません。ドイツとオランダが助成が可能となっていて取り入れられていますね。

―そうなんですか。それでは、モンテッソーリご自身はイタリア人ですから、イタリアでは盛んなのでしょうか?

彼女はイタリアからファシスト政治から逃れて、オランダに移住していて教育を進めたので、フランス同様イタリアでも、この教育が多く取り入れられているということは聞いていませんね。

画像: ドイツやオランダで盛んなメソッド、モンテッソーリ

教育者として自立する、一人の女性像を描きたくて

ーそうでしたか。ところで本作を撮ることになったのは、監督のお嬢様がこの教育をお受けになったということもあるのでしょうか。

私の娘はこの教育を受けてはいないのですが、私が関わったドキュメンタリー作品で、教育のために活動している方々を取材しているうちに、マリア・モンテッソーリの存在を知ったのです。

ーなるほど、そうでしたか。

そのうえで、この作品では、彼女の伝記的生き方を映画にしたいというよりは、彼女が自分の教育方針を貫くために男性優位社会と闘っていた、その生き様を描いてみたいと思うようになりました。
独自の教育をするためには、女性の尊厳、女性の解放というものに対しても闘わなくてはならなかった。そういう観点での彼女の女性像に興味が生まれたのです。

―そのマリア・モンテッソーリさんの女性像を実際に形作るにあたっては、彼女のイメージはどんなものだったのでしょうか?
演じたのはジャスミン・トリンカさんで美しい女優さんですね。
マリアさんも美しい女性だったのでしょうね。
作品の映像も光が美しく活かされていて、それも監督のマリアさんへのリスペクトそのままと感じられましたが。

そうですね、まず、私はこの作品で彼女へのオマージュを捧げるものするつもりはありません。
彼女は神格化されていて、あれやこれやと、そのためのいろいろな要素がついて回っています。そのマリアは血の通った一人の女性であるということや、その時代に女性がどのような立場にいたかなどを描きたかったのです。彼女を通してそのことを映画にしたのです。

ーそうなんですね。彼女が生きた当時の女性の自立ということですね。興味深い切り口です。

画像: 教育者として自立する、一人の女性像を描きたくて

ジャスミン・トリンカの演技そのものがマリアの女性像に

面白かったのは、撮影中にトリンカさんにマリアが憑依したかのような演技を見せてくれまして、彼女の内なる情熱がマリアによって燃えさかるような感じで目を見張りました。
そして、それが私が脚本を書いたとおりの女性像そのものだったのですよ。

ーそれこそが、初めてフィクションを手がけられての「幸せな」手応えというものではないでしょうか?
そういうことに遭遇できたことが、映画づくりの醍醐味ではありませんか?

そうですね。映画を撮りながらトリンカさんの真に迫る演技を間のあたりに出来るのですから、とても光栄でした。

ーその、ジャスミン・トリンカさんという女優さんですが、ヴェネチア国際映画祭でも受賞したり、カンヌ国際映画祭では審査員もされたりして、注目される存在です。ナンニ・モレッティ監督の『息子の部屋』(2001)でも高い評価を得た女優さんですが、彼女にはどのあたりから注目されたのですか?

確かに彼女をスターダムにのし上げた作品は『息子の部屋』といえるでしょうね。当時は彼女はまだ高校生でした。
私が好きな作品は、彼女が障害を持っている役柄の作品で、そこで彼女に注目していました。その彼女が20余年を経て、本作で生涯を持つ子供たちの教育者を演じるというわけなので、そこに何かシンボリックな意味を感じたりしています。

マリアから学んだ、女性の自立に思うところ

―そんな繋がりを運命的に感じることが出来るのも、映画づくりの素晴らしさですね。
ところで、フェミニズムというか主人公のマリアは夫になるべき男性がいて、彼との間に息子もいながらも、依存したくないということで、シングルマザーとなって自分の使命ともいえる教育の仕事を手がけていきます。
この女性の姿に、監督ご自身が共鳴するところが大きいのですよね?

今の時代にも繋がっていると思いますが、女性の自立には欠かせないのは、やはり経済的なことですね。男性に頼らないでも自活をしていかれたら、自分のしたい仕事も選べるし、誰と人生を共にすべきかなどの選択も自由に出来ます。
そこをマリアはめざしたのですから、私にも通じるところはあります。

―そのあたりをマリア・モンテッソーリの女性としての姿勢を通して、本作で描かれたというわけですね。とても良くわかりました。
そして、そういう生き方は、監督のこれからの映画づくりにも発揮されるというわけですよね。

そのとおりです。

画像: マリアから学んだ、女性の自立に思うところ

フィクション映画を作る喜びとは

ー本作はフィクションとしての第一作目ということで、これを成し遂げた達成感などはいかがですか?
 
そうですね。これまでのドキュメンタリーにはない観客の反応というか、わかりやすさというか、それがフィクションでは大きいということが良くわかりました。そのためにも映画祭に来ているわけですが、上映後の観た方々からの熱心なご質問は、男女共に熱量が高く受けとめがいがありました。
その感動を観て、感情や感動には国境がないということを痛感させられました。
映画を通して、そういう感動を分かち合える手応えをいただいたのです。

―素晴らしいお言葉をいただきました。ありがとうございました。

インタビューを終えて

スキップ国際Dシネマ映画祭では、コンペティション部門として出品した本作。
受賞は逃したものの、日本での劇場公開を前にして、横浜フランス映画祭2025でも上映を果たした。映画に対する観客たちの熱量を感じたくて、再度来日する熱心さも見せた。
日本での公開での成功を願っています、と激励したところ、
「そういう時には木をトントンと叩くおまじないが良いのよ」
と扇子を取り出し、これで代用しているのと叩いて魅せるお茶目ぶりが印象的だった。
教育の話をしている間はとても真面目で、クール・ビューティな「才媛」というイメージが一貫して漂っていた、トドロフ監督。インタビューが終わるやいなやのぞかせた一面だった。
監督ご自身は、どのような教育を受けて今に至るのか、うかがうのを忘れたことが悔やまれてならないインタビューでもあった。

作品情報

『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』
3月28日(金)より シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺 ほか全国順次ロードショー

画像: - YouTube youtu.be

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監督・脚本/レア・トドロフ
脚本/カトリーヌ・バイエ
出演/ジャスミン・トリンカ 、レイラ・ベクティ、ラファエル・ソンヌヴィル=キャビー、ラファエレ・エスポジト、ピエトロ・ラグーザ、アガト・ボニゼール、セバスティアン・プドゥル、ラウラ・ボレッリ、ナンシー・ヒューストン
原題/Maria Montessori (La Nouvelle Femme)
2023年/フランス・イタリア/99分/カラー
字幕翻訳/杉本あり
© Geko Films – Tempesta - 2023
配給/オンリー・ハーツ
協力/国際モンテッソーリ協会(AMI)
後援/在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
イタリア大使館/イタリア文化会館

公式サイト:http://maria.onlyhearts.co.jp/

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