余命がわずかな15歳の少女の前に突然一羽の奇妙な鳥が現われた。しゃべって歌って大きさも変幻自在に変わるその鳥の名は「DEATH<デス>」。少女は持ち前の強さを発揮して彼女を文字通りの死に誘おうとする<デス>にジョークで立ち向かう。そしてその存在から娘を守ろうとする母親。「死と生」というテーマをこれまでになかった切り口で描く新鋭ダイナ・O・プスィッチ監督の長編デビュー作がまもなく日本上陸。A24が注目した旧ユーゴスラビア出身で現在英国で活躍するプスィッチ監督がSCREENオンラインのインタビューに応えてくれた。

人間よりも動物の方が「死」を感じさせないビジュアルと直観した

──A24が発見した新しい才能による話題作ということでとても興味深く拝見しました。死と生という普遍的なテーマに全く新しい視点とビジュアルを持ち込んだ感動ドラマとして、A24にぴったりの作品と思いましたが、あなたとA24の繋がりはどのように始まったのでしょうか。

「私とA24の関りは英国のBBCから始まりました。BBCの映画部門担当者のイヴァさんがこの映画を開発している時点でA24と繋いでくれたんです。BBCはA24とコラボすることが多くて、イヴァさんがA24の方に脚本を渡してくれて、興味を持ってもらえたんですが、A24の助けがなければ十分な資金が得られなかったでしょう。これで助かりましたね。イギリスでこれだけの長編映画を製作するのはかなりお金が必要ですから」

画像1: 人間よりも動物の方が「死」を感じさせないビジュアルと直観した

──映画の中で一番気になるのはやはり<デス>の存在なのですが、死神が別の形で人間に近づくという映画はこれまでにもイングマル・ベルイマン監督の『第七の封印』やブラッド・ピット主演の『ジョー・ブラックをよろしく』などが思いつきます。でもこれらはみな人間の形でした。<デス>は鳥の形で登場しますが、人間にしなかったのは何故でしょう。ほかに何か別の動物にするアイディアはありましたか。

「私自身が感じたことなんですが、死というものをビジュアルで見せる時、人間より動物の形の方が観客に「死」を感じさせないように思えたんです。人は人間を見る時、「生れて生きて死ぬ」という一連の流れを感じるものだと思うんですね。映画の中でいくらこの人は死なないと描いてもそう見えるものです。でも動物を見る時、人はそこにある種(ユニット)の集合体の代表的なものを見ている感じがして、その種が永遠に続くものという捉え方をすると思うんです。他の種を考えなかったかと言われると、インコ以外に考えませんでした。例えば動物ではないものということで、一点の光という考えはありましたが。またなぜかハリー・スタイルズを起用するという考えも浮かびましたね(笑)。その理由は思い出せませんが。とにかくインコというよりも何か怪物に見えるような生き物にしたかったんです」

──この映画はあなたの少女時代の実体験が反映されているということですが、あなた自身は死に対してどんな感情を持っていますか。映画ではユーモラスなシーンもありますよね。

「死というものをきちんと理解すれば、より人生を豊かなものにできる、と言うのが私の考え方です。人生に意味があるのは、人の命に期限があるからです。自分自身の中で死を理解しておけば、生きることの意味するところを毎日受け止めて。ひいてはその人の人生をより良くできるはず。こういう認識は重要だと思っていますね」

──ジュリア・ルイス=ドレイファスが演じる母親ですが、まだ若い自分の娘が死の淵にあるという設定のこうした映画には珍しく、最初現実逃避をしているような母親ですね。この役柄にモデルがいるのでしょうか。

「この役のモデルになった人はいますが、それは一人の人物でなく私がこれまでの人生で出会った何人かの女性たちです。この映画に関連した人で言えば、女性としての経験上、こうした困難(ここでは子供の死期が近いこと)を抱える人はいっぱいいます。ただこういう困難に直面した人の中には動力(モーター)のようなものがあって、それが動くことで強さを生み出していると思います。この動力が人生を回してくれるのですが常に闘っているような状態で、そのスイッチを突然切ることができないものです。強く見える女性ってみんなそういうもので、特に困難を抱える女性に共通していると思います」

画像2: 人間よりも動物の方が「死」を感じさせないビジュアルと直観した

──娘のチューズデーを演じるローラ・ペティクルーの演技も印象的ですが、実際には20代後半の彼女を15歳のチューズデー役に選んだ決め手はなんでしょう。

「ローラをキャスティングした時はもっと若かったんですけど、あまり年齢のことは気にしていませんでした。もともとチューズデーは設定的に年より成熟した娘だったので、少し上の俳優を起用するつもりでした。その上、演技的に非常に複雑なパフォーマンスも必要だったんです。それを観客があまり感じないように見えたとしたら、ローラの演技が上手いから。最終的には彼女のスキルを買って選んだんです。ローラはチューズデーと似たところがあって、タフな一方で感情的なところもあるんです。チューズデーは母親にもっと一緒にいてほしいと思う寂しがり屋の面と同時に音楽や冗談を言うことが好きな面があります。その二つの間で自由に行ったり来たり動ける俳優を探していました」

<デス>の動きや大きさの変化についてVFXスーパーバイザーの2人ととことん話し合った

──<デス>の声を担当したアリンゼ・ケニには撮影現場で<デス>として演技をしてもらい、その姿の上にVFXで加工したパートもあると他のインタビューで見かけましたが、具体的にどのようにデスを作り上げたのですか。

「この映画の撮影前準備に1年、ポストプロダクションに1年がかかってます。この間、VFXスーパーバイザーのマイク・スティルウェルとアンドリュー・シモンズと私の3人の共同作業が一番多かったと思います。この2人とはいろんなことを話し合いました。鳥の形をしているデスを怪物のように見せるにはどんな動きを入れるか、骨格や羽根の動きも含め、鳥だけど鳥じゃない動きをさせるとか細かい話を何度もしました。<デス>の大きさも数センチメートルから人の大きさまで変化することも、何故そのサイズにするのかディスカッションし、動きが難しい時の解決方法の一つがアリンゼにカメラの前で演じてもらうことでした。一部の撮影ではパペティアリング(パペットを遠隔操作する方法)とVFXの技術を組み合わせましたね。VFXイコール科学技術ではないんです。限られた予算で撮影するために俳優の方がサイズを変えることもありました。そういうプロセスが重要なんですが、実際その作業が一番楽しかったです」

画像: <デス>の動きや大きさの変化についてVFXスーパーバイザーの2人ととことん話し合った

──予算の話が出ましたが、今回があなたにとって初めての長編映画ということですね。これまでの短編製作と違う苦労はどんなことでしたか。

「やっぱり多額の予算、ということですかね。視覚効果も多用するし、複雑な撮影も。VFXも含め、事前にどうやって進めるかプランニングすることなど、撮影の道のりを見つけていくことも大変です。そしてクルーの数も全く違う。経歴も違う人たちが集まって、いろんな意見を持ち込んでくるんです。彼らはプロですからこちらも柔軟性をもってそれらを聞き入れるけど、作品性と違う意見もあるので、それについては必要ないとシャットアウトしないと。そういう跳ね返す力も必要でした。他者と合わせるところと自分を貫くところのバランスがチャレンジングでした」

──早くも次回作が楽しみになりましたが、次回作は可能な範囲でどんなアイディアがあるか教えてもらえますか。

「実は今2つの企画が動いているんですが、自分として興味があるのはロマンチック・コメディについての企画の方ですね」
(文/米崎明宏)

『終わりの鳥』
Tuesday
2025年4月4日(金)公開
イギリス=アメリカ映画/1時間50分/ハピネットファントム・スタジオ配給
監督・脚本 ダイナ・O・プスィッチ
出演 ジュリア・ルイス=ドレイファス、ローラ・ペティクルー、リア・ハ―ヴィ、アリンゼ・ケニ
©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024

 まだ15歳の少女チューズデー(ペティクルー)は自分の身体がそう長くはもたないことに気づいていた。一方母親のゾラ(ルイス=ドレイファス)はそんな娘を看護師のビリー(ハ―ヴィ)に預けると家を出てカフェや公園で1日を過していた。そんな時、チューズデーのもとに人間と同じサイズになったり、掌に収まるほどのサイズになったり、自由自在に変幻し言葉も扱う奇妙な鳥がやってきた。その鳥は死期が迫った者に“終わり”をもたらすために地球を周回している<デス>だった。

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