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壮絶な少女時代を経てハリウッドで売れっ子女優に
『サブスタンス』では若さと美しさを保とうすとる元人気女優が手を出した若返り法のためにありえない事態に追い込まれる姿を、自虐的?とも言える体当たりの熱演を披露し様々な映画賞を受賞したデミ・ムーア。1962年11月11日米ニューメキシコ州ロズウェルに生まれた彼女は現在62歳。すでにベテランの域に入っているデミはこれまで90年代を中心に数々のヒット作に主演し、世界的な人気女優と言われてきたが、演技賞にはほぼ無縁の状態だった。私生活を含め波乱の人生を送って来たデミのこれまでをおさらいしてみよう。

“ブラットパック”集合の『セント・エルモス・ファイアー』に出演
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デミは19年に自伝「Inside Out」を出版し、そこで壮絶な少女時代を語っている。彼女の母親はかなり問題があった人物のようで、シングルマザーだった母はアルコール中毒で、度々の逮捕歴もあり、お金をもらった男性にはデミへの性的暴行を容認するなどの驚くべきエピソードが明かされていて、全米が騒然となった。そんな環境を抜け出したデミは16歳で学校をやめてモデルとして働き出した。18歳でフレディ・ムーアという男性と最初の結婚。5年後には離婚しているが、ムーアという芸名はそのまま使用している。映画にも端役で出演していたが、『恋人ゲーム』(84)で初めてヒロインを演じ、『セント・エルモス・ファイアー』(85)『きのうの夜は…』(86)など当時ブラットパックと呼ばれたロブ・ロウら同世代の若手スターたちと共演した作品で、彼女も知名度アップ。『ウィズダム/愛のかけら』(87)で共演したエミリオ・エステヴェスとの婚約も芸能ニュースを盛り上げた。

『ゴースト/ニューヨークの幻』でブレイク
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ストリッパー役で話題になった『素顔のままで』
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そんな中、デミの名を世界中に轟かせたのが『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)。殺された恋人が幽霊となって彼女の危機を守ってくれていることに気付いたヒロインが流す涙にファンが急増。ハリウッドで最もホットな女優と呼ばれることになり、エミリオと別れ、人気上昇中だったブルース・ウィリスと結婚したことでマスコミも彼女を連日追いかけるようになった。90年代はデミの絶頂期で、同い年のトム・クルーズと共演した『ア・フュー・グッドメン』(92)はじめ、ロバート・レッドフォードと共演した『幸福の条件』(93)、マイケル・ダグラスと共演した『ディスクロージャー』(94)、ゲイリー・オールドマンと共演した『スカーレット・レター』(95)などの話題作に次々出演。さらにトラブルに巻き込まれるストリッパーを演じた『素顔のままで』(96)、海軍特殊部隊に配属された女性軍人を坊主刈りにして演じたリドリー・スコット監督の『G.I.ジェーン』(97)といったアクティブな役柄が続き、売れっ子スターとして一時代を築いた。

丸刈りの兵士を演じた『G.I.ジェーン』
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翳りが見えはじめたキャリアから見事な復活劇を成し遂げる
そんな彼女のキャリアに翳りが見えたのは00年代になってから。『薔薇の眠り』(00)など興行的にも批評的にも低迷が続き、いわゆるビッグバジェット作品から彼女の名前が消えていった。『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(03)では役作りで美容・整形に大金をかけたことが話題になるなど、演技そのものへの評価よりプライベートが重視されるようなセレブという印象に変わっていく。13年夫婦だったウィリスとは00年に離婚。05年には16歳年下の俳優アシュトン・カッチャーとの3度目の結婚が注目されたが、12年に離婚するまで泥沼の状態が何度も報じられた。この他にも豊胸手術やモデル時代に撮ったヌード写真の流出、アルコール中毒再発問題など、スキャンダル的なニュースが先行。出演作も限定的なものになり、俳優としてのデミのキャリアはほぼ終了したかに思われていた。

元夫ブルース・ウィリスとは現在も良い関係(左から現ウィリス夫人のエマ・ヘミング、長女ルーマー、ブルース、三女タルーラ、デミ、次女スカウト)
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ところが『サブスタンス』が昨年のカンヌ国際映画祭で上映されて以来状況が一変。これまでの彼女自身の体験をまるごと生かしたような本作での役作りはデミにとって初めてと言えるほどの好評を博した。惜しくもアカデミー賞主演女優賞受賞はならなかったが、ゴールデングローブ賞など多くの映画賞でデミの体当たりの熱演が高く評価された。この好転の前に元夫ブルース・ウィリスが認知症のため俳優業引退と報じられた後も、デミがブルースとの3人の子供たちと共に、病身の彼をサポートする姿が何度もSNSなどで発信され、離婚後も良好な関係がずっと続いていることが知られている。デミは婚約解消したエミリオ・エステヴェスとも06年に彼の監督作『ボビー』に出演していて、元夫や元恋人とも後腐れがない様子。泥沼離婚と言われたカッチャーにさえ、「若かった彼には私が寄りかかることを負担に思うこともあったかも」と一定の理解を示す言葉を残している。

『サブスタンス』の共演者マーガレット・クアリーと
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まずは60代での2度目のブレイクという奇跡的な再スタートを実現したデミが、今後どのような活躍を見せてくれるか注目していきたい。