パディントンがパディントンであることで周りの人間が変わっていく
──監督はこれまでミュージック・ビデオやコマーシャルの世界でキャリアを築いてこられました。本作は初めて監督を務める長編映画になります。この大抜擢について、どのように受け止めていらっしゃいますか。
私がMVやCMなど短い作品を手掛けてきましたが、いずれは映画を撮ってみたいと思っていました。そんなときにオファーをいただいたのです。過去の2作品はとても評価が高く、私としても好きな作品だったので、「自分で大丈夫だろうか」と不安を感じました。しかし、せっかく声を掛けていただいたので、これは光栄なことだと思い、お引き受けしました。
私はこれまでのキャリアで、短い尺ながらもその中で世界観を構築し、アクションも入れたりしてきました。長編作品も小さなエピソードの積み重ねと考えれば、MVやCMなど短い作品で磨いてきた技術を応用できると思ったのです。人間とCGを組み合わせたり、実用的な特殊効果を撮ったり、ポストプロダクションでさまざまな作業をするといったことだけでなく、役者さんを演出して、何かを引き出すこともしっかりやってきましたから。
パディントンに関してはポール・キングが見事に作り上げていたので、今までのスタイルを踏襲することを忘れないように気をつけました。
とはいえ、作っていると自分のスタイルは見え隠れしてきます。特にアクションに関して、私は音楽に合わせて表現するのが好きなので、その辺は作品に現れていたと思います。全体的にファンタジックになったのは自分の好みですね。森の精霊はデザインに拘りましたし、インカ帝国にまつわる歴史や遺跡は楽しみながら作っていきました。

──今回、ジュディは大学進学を控え、ジョナサンは部屋に引き篭もり、家族がそれぞれ自分のやりたいことをして、みんなが同じ部屋に集うことがなくなっているという、ブラウン一家の変化にもスポットが当てられています。
ブラウン家の中で毎回、アドベンチャーを描いていくのでもいいかもしれませんが、実写ですから、子役の子が大人に成長していきますからね(笑)。
今回の大きなテーマは人間の世界でいえば巣立ちです。それをはっきりと掲げていますが、だからといって、重々しく描くことはしたくありませんでした。パディントンがパディントンであることで周りの人間が変わっていく。パディントン自身は変わりません。それがパディントンだと思っているからです。
ポールたちと一緒に原案や脚本を作っていきましたが、みんなで望んだのは、この作品を見た後に1作目に戻っていくという、パディントン三部作の円環が閉じる物語にすることでした。
これまでの2作でパディントンがルーシーおばさんと出会う前のことが仄めかされています。三部作を終えるにあたっては、ここできちんと触れておかなくてはいけません。ペルーに戻ることは必然で、私が加わったときにその設定は決まっていました。
ただ、舞台がペルーになることには不安がありました。というのも1作目、2作目を見ているとロンドンという街自体がこのシリーズにとって大事なファクターになっていたからです。そこで、ペルーの描き方において、トーンやスタイルはロンドンへのアプローチと同じようにしたいと考え、常に意識していました。

──本作はCGやVFXなどを駆使されていますが、いちばん苦労したのはどちらでしょうか。
撮影監督のエリック・ウィルソンやアニメーションディレクターのパブロ・グリロ、そして声を担当したベン・ウィショーがパディントンの魂を表現し、VFXを引き続きアレクシス・ワスプロットがやってくれるなど、これまでのスタッフが今回も参加してくれていたので、随分と助けられました。
最初に撮影したのはアマゾンの川でパディントンやブラウン一家が遭難するシーンでした。パディントンが激流の中、船の舵をとろうとします。ご覧になって、どのくらい合成の具合がお判りになったのか、わかりませんが、コロンビアとペルーで撮った川の映像にロンドンのスタジオで船に乗っているキャストを撮ったものを合わせています。パディントンの魂というかエモーショナルな部分をしっかりと表現しつつ、キャストはハーネスで安全を確保しつつ、カメラのアングルやレンズ、船の動きを計算し尽くした上で、ジンバルを使って撮影しなくてはいけませんでした。絵コンテやプランニングを細かく決めていくのは好きですが、このシークエンスはかなり難しかったです。

──フェリックス・ブキャナンの登場の仕方が意表をついていました。ブキャナンを演じたヒュー・グラントとのお仕事はいかがでしたか。
ブキャナンのシーンに関しては、ヒューも一緒に作っていきましたが、本当に最高でした。
パディントンは何か嫌なことをされても赦し、忘れることができますから、パディントンにとってブキャナンに会うことは自然な行動です。ブキャナンはクマを呼び物にしたお芝居の企画について話をしていましたが、あれはヒューの発案でした。ヒューは演じるにあたって、かなりの想像力が必要でしたが、またこの作品に出演することを喜んで、楽しみながらやってくれていました。
<PROFILE>
ドゥーガル・ウィルソン
ミュージック・ビデオやコマーシャルの監督としてよく知られた存在である。これまで手掛けたCMは、Apple、IKEA、BBC、アムネスティ・インターナショナルなど多数。ウィルソンによる、英国のデパート、ジョン・ルイスのクリスマスCMは、話題の英国ポップカルチャーとなっている。チャンネル4パラリンピックのためにウィルソンが作った「We’re The Superhumans」は、ブラックD&AD ペンシル賞2部門で賞を獲得したのに加え、カンヌライオンズでグランプリに輝く。また、2020年全米監督協会のコマーシャル監督賞にもノミネートされる。本作『パディントン 消えた黄金郷の秘密』(24)で、長編映画監督デビューを飾る。

『パディントン 消えた黄金郷の秘密』2025年5月9日(金) 全国ロードショー
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youtu.be<STORY>
ロンドンでブラウン一家と平和に暮らしていたパディントンのもとに、故郷から1通の手紙が届く。育ての親のルーシーおばさんの元気がないというのだ。パディントンとブラウン一家がペルーへ行くと、ルーシーおばさんは失踪、里帰りは一転、彼女を探す冒険へと変わる。だが、都会暮らしになれてしまい野生の勘を失ったパディントンは次々と大ピンチに遭遇、さらにブラウン一家との家族の絆も試される。果たしてルーシーおばさんを見つけることができるのか? そして、そこには、家族の絆が試されるパディントンの秘密が待っていた。
<STAFF&CAST>
監督:ドゥーガル・ウィルソン
脚本:ポール・キング、マーク・バートン、サイモン・ファーナビー
出演:ベン・ウィショー(声の出演)、ヒュー・ボネヴィル、エミリー・モーティマー、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント 他
配給:キノフィルムズ
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