カバー画像:Photo by Stephane Cardinale - Corbis/Corbis via Getty Images
ブラッド・ピット BIOGRAPHY
誰よりも長い期間、第一線で活躍し、自身の輝きをキープするだけでなく、他の人の背中を押すサポート役にも徹する……。『F1®/エフワン』で主人公ソニーのレース界での宿命を観ていると、演じたブラッド・ピットの素顔がシンクロする瞬間が何度か訪れる。かつて天才レーサーと言われ、他人には言えない苦難も経験。一カ所に安住することはなく、弱小チームの躍進を託されるというレース界におけるソニーの役割は、若い時代に俳優として大成功を収め、現在はプロデューサーとしてもチャレンジ精神を忘れない映画界のブラピそのもの、とは言い過ぎか。
そもそも俳優になろうと決意したエピソードからして、ブラピの野心的スタンスは明らかだ。ミズーリ大学中退を決めたのが、卒業まで残り2週間というタイミング。わずか325ドルの現金を手に、映画の仕事でチャンスを掴もうとロサンゼルスへ向かった。思ったら即行動に移すという瞬発力は、さすがに若さゆえのことだが、誰もがマネできるものでもない。
自身のプロデュース能力にも長け客観的にキャリアを把握
『テルマ&ルイーズ』や『リバー・ランズ・スルー・イット』といったブレイク作品では“イケメン”な容姿で人気を集め、ピープル誌で2度も「最もセクシーな男性」に選ばれるなど、何かとルックスがもてはやされることで、逆に“外見だけで判断されたくない”意識も強くなったブラピは、キャリア初期から、シリアルキラー役の『カリフォルニア』や、ジャンキー役の『トゥルー・ロマンス』にあえて出演。『12モンキーズ』や『ファイト・クラブ』といった作品でその志向をアップデートさせた。もちろん『ジョー・ブラックをよろしく』のように、イケメンっぷりを意識的に強調した作品をフィルモグラフィーに織り交ぜることで、俳優=商品としての価値を失わないように心がけてきたのも重要。客観的にキャリアを把握し、数作に1本は高いハードルに挑んできたところに、自身のプロデュース能力もうかがえる。
『リバー・ランズ〜』でのフライ・フィッシング、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』でのロック・クライミングなど、専門テクニックを極める役作りは常に怠りなく、『セブン』では左腕を骨折してギプスのままで撮影を続け、『トロイ』ではアキレス腱を断裂するなど肉体のアクシデントも経験。俳優としての武勇伝も多いブラピだが、何かと「カメラの前よりは後ろにいたい」と発言していたように、俳優業だけでなく“作る側”にも専念していくのは必然の流れだった。
ハリウッドでの存在感を高めた映画製作者としてのブラッド・ピット
2002年に製作会社「プランBエンターテインメント」をジェニファー・アニストンらと共同で設立すると、その4年後に同社が製作に関わった『ディパーテッド』がアカデミー賞作品賞に輝き、ハリウッドでの存在感を高めることに成功。設立の約10年後にはブラピ自身がプロデューサーに名を連ねた『それでも夜は明ける』がアカデミー賞作品賞を受賞し、俳優よりも先にオスカー像を手にする。プランBはその後も賞レースを賑わす傑作を数多く送り出し、今年のアカデミー賞でもブラピ製作総指揮の『ニッケル・ボーイズ』が作品賞ノミネート。メジャースタジオでは難しい題材へのチャレンジに、彼の反骨精神が感じられ、カッコいい! 最近では『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』のような作品が好例で、同作が描くハーヴェイ・ワインスタインの性加害では、ブラピの元恋人グウィネス・パルトロウも被害者の一人であり、自分が作る映画で社会を変えようとする強い信念が見てとれた。こうした「自分が伝えたい物語を何としても送り出す」姿勢と、『F1®/エフワン』で若きレーサーの実力を変則的なやり方も使って引き出そうとするソニーの苦心を重ねれば、感動も別次元になるはず。
俳優としても『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でオスカーを獲得したことで、近年のブラピはキャリアに対して“余裕”で向き合っているようで、その余裕が仕事に好循環も与えている印象。かつて「俳優は仕事、建築は情熱」と語ったように、映画界以外の分野で愛を注ぎ、独学で親しんだ建築では、街全体のデザイン構想などに意欲を示し、ドバイにサステイナブルのホテルを建設するプロジェクトを構想したこともあったので、今後は映画の枠を越えた世界で、われわれを驚かせてくれるかも……などと夢想してしまう。