

本作は、シティボーイズのライブの演出家として知られ、「タモリ倶楽部」「トリビアの泉」ほか数々の人気番組の放送作家としてキャリアを積んできた三木聡が『イン・ザ・プール』(05)に続いて手掛けた2作目の長編映画。2005年公開時、従来の日本映画には無かった独特なゆるいテンポとオフビートな笑いで“脱力系”映画として人気を博し、ロングランを記録。『亀は意外と速く泳ぐ』というタイトルには、“知っているはずの日常にも、まだ知らない別の世界があり、それを知ることで少し幸せになる“という意味が込められており、平凡な日常も視点を変えることで非日常になる様を描く。ストーリーに馴染むように存在する小ネタは、これまで独自の笑いを築いてきた三木聡らしさ全開の世界観。シュールでユーモアに溢れたキャラクターの個性がぶつかり合うことで生まれる化学反応を、ゆるくて変だけど可愛い物語へと作り上げた。その後、韓国で公開された折には人気俳優で「イカゲーム」(21-)ほかで知られるイ・ビョンホンが本作を観て、三木作品への出演を希望したという逸話も残っている。今も尚、一部から熱狂的な支持を得ている本作は、権利元会社がなくなったために長らく観ることが叶わなかった。平成カルチャーが再注目され、平成を彩った名作日本映画のリバイバル上映が次々と決まっている今、20年ぶりに劇場へ帰ってくる。
当時、『スウィングガールズ』(04)ほかヒット作に続けて出演したことで人気急上昇中だった19歳の上野樹里が演じる主人公スズメは、典型的な平々凡々に暮らす主婦。スパイ活動を始め、目立たないように暮らすスズメをコミカルに演じる。スズメの幼馴染であり、自由奔放な性格のクジャクを演じるのは、『花とアリス』(04)に出演したばかりだったブレイク前の蒼井優。スズメにスパイ教育をするスパイ夫婦を演じるのは、“三木組”常連役者の岩松了とふせえり。さらに、松重豊、要潤、伊武雅刀、温水洋一、嶋田久作など超個性派の豪華キャストが集結。
平凡な主婦の片倉スズメは、単調な毎日を送っていた。ある日、ふとしたことからスパイの仲間入りをする。スズメに下ったミッションは、目立つことはせず平凡に過ごすこと。別視点で物事を考える毎日は新鮮で、これまで気に留めていなかった日常の裏側に意識を向け始めると1日はあっという間に過ぎ去る。何の特別感もない日々を送っていたはずのスズメは、次第に、ヘンな人々に巻き込まれ、周囲ではおかしな出来事が立て続けに起こり、人目を引く存在に。彼女のスパイ生活はどうなってしまうのか・・・・・・?
この度、公開当時のビジュアルを踏襲し、リバイバル版のポスタービジュアルが完成。レトロな衣装を身にまとった上野樹里を中心に、まるで不思議な国に迷い込んだかのような、鮮やかでポップな家具と渦巻で世界観を表現。
さらに、監督とキャストからコメントが到着。三木聡監督は、「妙な監督の妙な現場に放り込まれて、戸惑いつつも素敵なお芝居をしてくれました」と当時19歳だった上野樹里との撮影を振り返り、「20年近くを経てまた、スクリーンに登場する本作は幸せな作品だと思う次第……なんちて」と三木監督ならではのユーモアを交えながら喜びを表現。主演を務めた上野樹里は、「当時まだ10代の私は何も分からず演じた記憶があります。20年経っての再公開とのことで見返しましたが、今見ても正解が分かりません」と独特な世界観について述べながら、「でも分からないからこそ魅力的なのかも。不思議でかわいい映画」と時を経ても色褪せない唯一無二の魅力を語る。また、ふせえりとスパイの夫婦役を演じた岩松了も、「三木監督のこの愛らしい作品!祝、20年ぶりの公開!」と本作への愛に溢れたお祝いコメントを寄せた。さらに、ふせえりも、「つまらない日常でも、亀、速いって分かったら、ちょっと、人生、面白くなるかもね。当時、そんな気持ちで、撮影に参加した事を思い出します」と本作でスズメが飼っており、タイトルにもなっている“亀”に触れながら、人生の気づきを得られる本作に参加した意気込みを回顧。
コメント全文は以下の通り。
■三木聡(監督・脚本)
初公開は2005年と言うから、もう20年もの年月が通り過ぎている。
主演の上野さんも撮影当時は恐らく19歳、妙な監督の妙な現場に放り込まれて、戸惑いつつも素敵なお芝居をしてくれました。
同じ日、同じ時間、同じ病院で生まれた二人の奇妙な物語。
あの当時、テアトル新宿のスクリーンで御覧頂いた人達(イ・ビョンホンさん、新宿のタイガーマスクさん…ほか)皆さんの20年はどんな感じでした?そして、今回初めて御覧になる皆さんはどんな風に思われるのでしょうか?20年近くを経てまた、スクリーンに登場する本作は幸せな作品だと思う次第……なんちて。
■上野樹里(片倉スズメ役)
当時まだ10代の私は何も分からず演じた記憶があります。
20年経っての再公開とのことで見返しましたが、今見ても正解が分かりません。
いや、分かる人には分かるんでしょうね。
でも分からないからこそ魅力的なのかも。
不思議でかわいい映画です。
三木監督が現場でゲラゲラ笑ってたから、
そんなふうに仕事ができたら幸せだなぁと
今になって思います。
■岩松了(クギタニシズオ役)
三木監督のこの愛らしい作品!祝、20年ぶりの公開!
全編に初々しさが溢れてますね。初めて出来上がりの映画を観た時、
〈スパイ募集〉の貼り紙をスズメはこんな風に見つけるんだ!
と嬉しい気持ちになった記憶があります。
■ふせえり(クギタニエツコ役)
20年ぶりに、この作品を、上映出来るなんて、嬉しいです。
タイトルの亀って、意外と速いんだ。そうなんだ。そんな亀の事なんて、考えた事なかったし‥。でも、つまらない日常でも、亀、速いって分かったら、ちょっと、人生、面白くなるかもね。当時、そんな気持ちで、撮影に参加した事を思い出します。
それから、何年か後に、別の作品で、韓国の俳優と共演した時、彼の通訳(韓国人)の方から、「亀速」が韓国で上映されたと聞きました。
「面白かった。スパイがリアルで」
え?スパイがリアル?そこ?
「韓国では、スパイが身近にいる」って。商店のおじさん、おばさん夫婦が、ある日、突然居なくなる。「あー、あの夫婦、スパイだったんだって噂します。だから、あの映画の感じなんです。笑いました。普通すぎて。」との感想。
ほーほー。国が違うと、そういう見方もあるんだ。
やっぱ、亀、面白いな。
『亀は意外と速く泳ぐ』
8月8日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド