1988年の『アリス』以降6本の長編映画を発表してきたチェコのシュルレアリストにして、アニメーション&映画作家ヤン・シュヴァンクマイエル(現在90歳)が「最後の長編劇映画」と宣言して完成させた『蟲』(2018)。
チェコの国民的作家であるチャペック兄弟の有名な戯曲『虫の生活』の稽古をするアマチュア劇団に巻き起こる惨劇を描いた本作は、シュヴァンクマイエルのシュルレアリストとしてのアプローチが極まった集大成的な一作だ。製作時には資金を補うためのクラウドファンディングが行われ、シュヴァンクマイエルを師と仰ぐクエイ兄弟やギレルモ・デル・トロも大々的に協力、日本のファンを含む約1,600人の支援によって完成に漕ぎ着けた。

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『蟲』
チャペック兄弟の有名な戯曲『虫の生活』の第二幕「捕食生物たち」に取り組む、小さな町のアマチュア劇団。遅刻や欠席するメンバーたちのやる気の無さに、コオロギ役兼任の演出家は怒りが収まらない。そしてやはりコオロギ役を務める彼の妻ルージェナはハチ役の男と明らかに不倫中……。不穏な空気でリハーサルが進むなか、やがて劇の展開と役者たちの行動が交錯し、ついに舞台に惨劇が訪れる!
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
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youtu.be『蟲』で編集を務めたヤン・ダニヘルと、第2キャメラマンを務めたアダム・オリハの両監督によるドキュメンタリー『錬金炉アタノール』は、『蟲』の制作中にヤン・シュヴァンクマイエルが自身の映画制作会社アタノールの創造的なプロセスを記録してほしいと自ら発案し、始動した企画だ。解禁となった予告編では、シュヴァンクマイエルが創作上のパートナーでもあった亡き妻エヴァの思い出を語ったり、長年支えてくれたプロデューサーのヤロミール・カリスタと言い争う姿を垣間見ることができる。自身の作品以外で目立った自己表現をしてこなかったシュヴァンクマイエルの人生の深い部分にまで踏み込んだ意欲作。彼の全貌を把握する「入門編」とも言える1本だ。
『錬金炉アタノール』
創作上のパートナーでもあった亡き妻エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの想い出、長年、製作を支えてきたプロデューサー、ヤロミール・カリスタとの愛憎入り交じる関係、怪しげな呪物や作品の制作風景、展覧会の準備や講演、そしてスーパーで買物をする日常の姿など、あらゆる側面が赤裸々に映し出される。
監督:ヤン・ダニヘル、アダム・オリハ
出演:ヤン・シュヴァンクマイエル

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youtu.be『クンストカメラ』は、シュヴァンクマイエルが世界中から集めた絵画や彫像、動物の剥製や貝殻、自身や妻の作ったオブジェなど、一般の価値基準とは無縁の不思議なコレクションがヴィヴァルディの「四季」に乗って、ナレーションもなしに2時間、延々と映し出される驚愕の映画。シンプルに撮影されたもののように見えて、編集、床やドアの軋むノイズ、突然の生活感のあるカットなど、随所でシュヴァンクマイエルを強烈に感じる一作だ。

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『クンストカメラ』
チェコの南西部ホルニー・スタニコフにあるお城と旧穀物庫。2時間弱、世界中から集めた絵画や彫像、動物の剥製や貝殻、自身や妻の作ったオブジェなど、一般の価値基準とは無縁の不思議なコレクションがヴィヴァルディの「四季」に乗って、ナレーションもなしに延々と映し出される。
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
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youtu.beシアター・イメージフォーラムの上映スケジュール
あわせて、シアター・イメージフォーラムの上映スケジュールが解禁!3作品の公開を記念して、シュヴァンクマイエルの過去作4本(『アリス』『ファウスト』『オテサーネク』『サヴァイヴィング ライフ』)も特別上映される。8月9日(土)から9月5日(金)までのスケジュールが決定している。

『アリス』

『ファウスト』

『オテサーネク』

『サヴァイヴィング ライフ』
また、8月23日(土)からは恵比寿のLIBRAIRIE6にて「エヴァ&ヤン・シュヴァンクマイエル博物誌」展の開催が決定!好評を博した2023年の「怪談」展から2年、今回は「博物誌」をテーマに、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーとヤン・シュヴァンクマイエルによる新旧作品からドローイング、コラージュ、立体作品を紹介予定。
『蟲』『錬金炉アタノール』『クンストカメラ』は、8月9日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。