カバー画像:Photo by Emma McIntyre/WireImage
ケーブル局の利点を生かし野心的な作品群を連発
全米の映像業界で「FX」の2文字は強力なブランドになっている。理由その1はTV界で「FX」チャンネルの評価が高いこと、理由その2は、そこに魅力的な番組を送り込み続ける製作会社「FXプロダクションズ」に破竹の勢いがあること。近年の動画配信方面、「FX」の秀作・話題作は、日本ではディズニープラスなどで見られる。
米国のTV界では1980〜90年代に激震が起きた。ケーブルTVが普及して多チャンネル化が進み、地上波TVも、CBS、NBC、ABCが全米3大ネットワークと呼ばれる時代が終わりに近づいた。第4の全米ネットワーク、FOXが誕生したからだ。若者の視点を重視した青春ドラマ「ビバリーヒルズ高校(青春)白書」、過激なファミリーアニメ「ザ・シンプソンズ」、超常現象ミステリー「X-ファイル」、弁護士もの「アリー my Love」などを次々と成功させ、FOXはけっして家族そろって楽しめなくてもいい、だが、はまるとクセになる個性的番組を次々と放った。そんなFOXがその路線を推し進め、1994年に開局させたケーブルTV向けの新チャンネルが「FX」。当初はFOXの番組の再放送がメインだったが、意欲的なオリジナル番組の製作にも進出。

第1シーズンは当時エミー賞で最多ノミネートを果たした「ザ・シールド ルール無用の警察バッジ」
Photo by Bob Riha Jr/WireImage
「ザ・シールド ルール無用の警察バッジ」
Huluでシーズン1〜7配信中

2005年にゴールデン・グローブ賞を受賞した「NIP/TUCK -マイアミ整形外科医-」

「NIP/TUCK -マイアミ整形外科医-」
デジタル配信中
DVD発売元/販売元:ハピネット・メディアマーケティング
権利元:ワーナー ブラザース ジャパン
©2003 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
地上波TVほどCMスポンサーを気にしなくていいケーブルTVの利点を生かしてFXは、ロサンジェルスのストリートを舞台に警察とギャングの死闘を描いた「ザ・シールド ルール無用の警察バッジ」、美容整形業界の実態を暴いた「NIP/TUCK -マイアミ整形外科医-」など、バイオレンスやエロティシズムを辞さないスキャンダラスな作風ながら充実したドラマ群を連連発。FXはエミー賞、ゴールデン・グローブ賞といった全米の各TV賞でも大きく注目されるように。
FXをリードするクリエイターライアン・マーフィー

FX躍進の中心にいる一人、ライアン・マーフィー
Photo by Amy Sussman/Getty Images
その中心にいたのは地上波のFOXで「glee/グリー」を成功させた鬼才クリエイター、ライアン・マーフィー。前出の「NIP/TUCK」でゴールデン・グローブ賞のドラマシリーズ作品賞に輝いたことを追い風に。各シーズンが古典的ホラーのようで、実はいずれも米国史のタブーを隠し味にした「アメリカン・ホラー・ストーリー」、各シーズンで実際の大事件を再現した「アメリカン・クライム・ストーリー」、アフリカ系・ラテン系のLGBTQ+コミュニティーを題材にした「POSE/ポーズ」、実在の人物たちを題材にした異色の伝記ドラマ「フュード/確執」を放ち、FX全体に注目を集め続けている。

マーフィーが手掛ける人気シリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」
写真はシーズン12より
「アメリカン・ホラー・ストーリー」
ディズニープラスのスターで配信中
TM & © 2025 FX Networks LLC. All rights reserved.

トランスジェンダー俳優を史上最多起用した「POSE/ポーズ」
「POSE/ポーズ」
ディズニープラスのスターで独占配信中
© 2025 Twentieth Century Fox Film Corporation and FX Productions, LLC. All rights reserved.
マーフィーが画期的なのは、シーズン毎に物語も登場人物も異なる「アンソロジー」をよく作ること。元々TV界では各話で物語も登場人物も異なる方式を「アンソロジー」と呼んだが(日本の代表的なドラマは「世にも奇妙な物語」)、「アンソロジー」という言葉の意味をひとつ増やしたかのようだ。
そんな「アンソロジー」は、シーズン1が同名映画を下敷きにした「FARGO/ファーゴ」もそう。コーエン兄弟による映画と同様、米国の中西部、その北部地方を舞台にしているが、いずれも異なる登場人物陣による犯罪が題材だ。「アンソロジー」の利点は、主要キャラは命を落とさないという連続ドラマの常識を破壊したこと。シーズン毎に物語が完結するのでなんでもありの世界だからスリリング。そしていつもは映画中心の活動をする大物スターも、1シーズンだけならと出演オファーを引き受けやすいことだろう。
こうして見るとシリアスな作品が多いと感じる読者もいるかもしれないが、コミカルな野心作が多いのもFX(その点はFOX譲りの伝統)。全米TVの地上波では厳しい大人向けギャグも、ケーブルTVでは可能だ。