(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:『愛はステロイド』より © 2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

イントロダクション

ロマンス、犯罪もの、スリラー、ユーモア…あらゆるジャンルを網羅した新たなるA24の注目作

観客を魅了するジャンルレスな映画の数々を世に送り出してきたスタジオA24から新たに生まれたクィア・ロマンス・スリラー。アメリカの田舎町で父親を嫌悪しながら、その影響下から逃れられない女性と流浪の女性ボディビルダーが運命の出会いを果たし、互いに愛し合うように。そこから始まる2人の冒険と復讐と犯罪が絡む奇想天外なストーリー。監督と脚本(ヴェロニカ・トフィウスカと共同)を担当するのは暴走する看護師を描くホラー『セイント・モード/狂信』(A 24が北米配給を担当)で長編映画デビューを果たした新鋭ローズ・グラス。本作もクィア・ロマンスで始まると思いきや、フィルム・ノワール的になったり、シュールリアリズム的になったり、あらゆるジャンルを内包した衝撃作となっている。

ヒロインの一人、ルーを演じるのは『スペンサー ダイアナの決意』などでその演技力を示しているクリステン・スチュワート。もう一人のヒロイン、ジャッキーを演じるのは『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』で印象的な演技を見せた元ボディビル選手、ケイティ・オブライアン。2人を囲んで、圧倒的な影響力を持つルーの父親役に『アポロ13』のベテラン、エド・ハリス、暴力的な夫に支配されるルーの姉役に『ドニー・ダーコ』のジェナ・マローンといった実力派が共演。音楽は『ブラック・スワン』などダーレン・アロノフスキー監督作の常連、クリント・マンセルが担当している。

あらすじ

1989年の米ニューメキシコ州にある田舎町で、トレーニングジムに勤めているルー(スチュワート)は変り映えのしない毎日を送っていた。そんな彼女の勤め先にオクラホマからやってきたという逞しい筋肉を纏ったジャッキー(オブライアン)が現われる。彼女は来月ラスベガスで行われるボディビル大会に出場するため目的地に向かう途中だった。地元の男とトラブルになったジャッキーを助けたルーは彼女に惹かれ、ジャッキーもルーに魅力を感じ、ベッドイン。そのままジャッキーがルーの部屋に居候することになった。

ジャッキーはウェイトレスとして町はずれの射撃場で働き始めるが、そこはルーが忌み嫌う彼女の父ルー・シニア(ハリス)がトレーニングジム共々経営しており、実はメキシコとの間で銃の密輸を行っている裏の顔も持っていた。さらにルーの姉ベス(マローン)の夫JJ(デイヴ・フランコ)も問題人物で、ベスへのDVが激しく、ルーと対立。ジャッキーはそれを知らず、ルーと出会う前にJJと一度関係を持っていたが、それを知ったルーは激怒。大喧嘩になるが、それを通じて2人の中はますます固いものになった。

しかしベスがJJの暴力で大けがをし入院。証拠がないので逮捕されないため怒りに震えるルーを見たジャッキーは、一人JJの元へ乗り込み、彼を殺害してしまう。ルーはその事実を隠すためにJJの死体を荒野のある場所で始末するが、それを目撃していた人物がいた…。果たしてルーとジャッキーは、2人でラスベガスに向かうという夢を果たせるのか?

チェックポイント

1)監督が用意した“見るべき映画リスト”

ローズ・グラス監督は1980年代のニューメキシコを舞台に、様々なジャンルの要素が交差する本作を製作する前に、キャストとスタッフが見るべき映画のリストを作成した。その中にはポール・ヴァ—ホーヴェン監督の『ショーガール』、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『クラッシュ』、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』、塚本晋也監督の『六月の蛇』などなど、一風変わったラインナップだが、『愛はステロイド』を見るとこれらの作品の要素が確かに感じ取れる。だがクリステンは「ローズは他の映画から何かインスピレーションを受けたとしても、真似た作品を作ろうとはしません。作品の骨組みやメッセージは明らかにローズのオリジナルのものです」と語っている。

2)ボディビルにこめた監督の思い

グラス監督は前からボディビルダーを描きたいと思っていたという。「ジャッキーは肉体的にも精神的にも申し分のない強さを持っている人物ですが、その強さを周囲の人々によって利用され、操られていることにやがて気づきます」また80年代というボディビルがまだ余り世間に広まっていない時代背景を選んだことについて「80年代はニヒリズムの頂点に位置する90年代へ向かう究極の過渡期の10年と思ったんです。ボディビルは、ジャッキーが摂取しているステロイドのような人工的な危険性を示すと同時に、野望のための野望、強さのための強さを表現する方法となったのです」と語っている。ただジャッキーを演じる適役ケイティを見つけるまでにはかなり時間を要したようだ。

登場人物

運命の愛で結ばれたルーとジャッキー、そして彼女たちを囲む登場人物

ルー(クリステン・スチュワート)

ルー(クリステン・スチュワート)
権力があり、過保護でもある父を嫌いながら、彼の経営するトレーニングジムで黙々と働き、そのため抑圧されたものを胸に秘めている女性。クィアであることは周囲も承知で、ジャッキーとの出会いによって、それまで止まっていた彼女の運命が大きく動き出す。

ジャッキー(ケイティ・オブライアン)

ジャッキー(ケイティ・オブライアン)
ラスベガスで開催される大会に出場するため、ルーの住む街を通りかかった旅するボディビルダー。ルーとは出会った時から惹かれあうものを感じ、彼女の家族とも関わり合うように。常用しているステロイドが人格に影響することも。さらに肉体的な隠し事も…?

ルー・シニア(エド・ハリス)

ルー・シニア(エド・ハリス)
ニューメキシコの小さな町を裏で取り仕切るルーの父親。メキシコに大量の銃を密輸している犯罪組織のボスであり、熱心なカブトムシの収集家でもある。ルーは毛嫌いしているが、シニアの方は家族のトラブルも回収しようとする過保護な一面もある。

ベス(ジェナ・マローン)

ベス(ジェナ・マローン)
ルーの姉で、家庭に深刻な問題を抱えている。それは暴力的な夫JJからのDVで、入院するほど激しい暴行を受けても、妄信的に夫を擁護してしまう心理状態になっている。この姉夫婦の関係もルーの怒りを募らせている原因で、ジャッキーにも影響を与える。

デイジー(アナ・バリシニコフ)

デイジー(アナ・バリシニコフ)
ルーに一方的に好意を寄せている女性で、街中で年中声をかけてくるが、ルーの方はまったく関心なし。それでもルーの行動を注視していて、ジャッキーとの仲も案じている。そんな時、ルーとジャッキーが起こした“トラブル”を目撃してしまうが…。

画像: JJ(デイヴ・フランコ)

JJ(デイヴ・フランコ)

JJ(デイヴ・フランコ)
ルーの義理の兄だが、マッチョな暴力夫で、妻のベスに長い間、家庭内暴力を行っている。ルーがなんとか彼とベスを引き離そうとしていることも知っていて一触即発の状態。またジャッキーが町に流れ着いた時、身体の関係を持って職を紹介している。

『愛はステロイド』8月29日(金)公開
イギリス=アメリカ/2024年/1時間44分/ハピネット・ファントム・スタジオ配給
監督・脚本/ローズ・グラス
出演/クリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン、エド・ハリス、ジェナ・マローン
© 2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

This article is a sponsored article by
''.