カバー画像:Photo by TheStewartofNY/Getty Images
“セットの隅でベンが一人でトレーニングしている姿を見て思ったよ「ああ、この子は絶対に成功するな」って”(ジャッキー)
──ベン(・ウォン)さんに初めて出会ったときの印象を教えてください。特に印象に残ったことはありますか?
ジャッキー・チェン(以下J)「正直に言うとね、最初に映像を見たときは思ったんだ。『なぜこの少年なんだ?』『なぜ彼を?』って。だって全く知らない子だったし、英語は上手だったけど…」
ベン・ウォン(以下B)「中国語はまあまあ、ですね(笑)」
J「うん、中国語もそこそこ。でも、僕のスタントチームに聞いてみたんだよ。『あの少年、どう思う?』って。そしたらみんな即答で『いいね』って言ったんだ。『覚えが早くて、頭もいい。何を教えてもすぐ吸収する』ってね。それで現場に入ってからも気にして見ていたら、演技もうまいし、格闘シーンも…まあ、許容範囲かな(笑)」
B「許容範囲、ってことで(笑)」
J「でもね、本当に大事なのはそこじゃない。僕が何より評価するのは、カメラが回っていない時の態度なんだ。ある日、撮影の合間にキャンピングカーで休んでいて、ふと外を見たら、セットの隅でベンが一人でトレーニングしていた。誰にも見られていないと思っていたんだろうけど、僕はこっそり見ていたんだ。その姿を見て、心の中で思ったよ。『ああ、この子は絶対に成功するな』って。今の若い俳優は、カットがかかった途端にスマホを取り出して画面に夢中になる子も多い。でもベンは違ったんだ」
ラルフ・マッチオ(以下R)「確かに多いよね」
J「そうだろ?でもベンは、ジャンプしたり、型を繰り返したり、とにかく自分の身体を使って動いていた。僕の目の前だからやっていたわけじゃない。彼は、僕が見ていることなんて気づいてなかった。だから確信したんだ『この子は本物だ』って」
“ラルフとジャッキーと共演できたことは、本当に信じられない体験だった”(ベン)
──今回の新作は、長く愛されてきたシリーズにどんな新たな価値やメッセージをもたらしていると思いますか?
R「これはオリジナルのテーマに忠実な映画だ。ファンでも、シリーズを知らない人でも楽しめる。リー・フォンの物語として独立しているからね。シリーズを知っていれば、受け継がれてきた“遺産”がそこかしこに散りばめられているから、より深く味わえるはず。『ベスト・キッド』が長年愛されてきた理由となるテーマも、この新作にちゃんと受け継がれているよ。例えば、転校生、ひとり親、喪失の悲しみ…。リーは兄を失い、ダニエルは父親を失った。共通点があるんだ。それに、メンターとの関係、前向きさ、そして逆境に立ち向かう姿勢。こうした人間的なテーマが観る人の心に響くんだよ。格闘シーンもすばらしいけど、魂はあくまで“人間らしさ”にある。だからこそゲームとは違う魅力があるんだ。世代を超えて受け継がれる作品にふさわしいね」
──この映画への参加は、ベンさんにとってどんな経験になりましたか?
B「パンチやキックを“隠してはいけない”ということを、今回の撮影で学んだ。殴られた時に必要なのは、打撃とそのリアクションであり、それが俳優としての仕事だ。だから劇中で受けた打撃は、基本的にすべて実際に受ける必要があったんだ。そして何よりも、ラルフとジャッキーと共演できたことは、本当に信じられない体験だった。2人のことは子供の頃からずっとファンだったんだ。ジャッキーの『ベスト・キッド』は小学生の時に母と映画館で観に行ったし、ラルフの作品は中学生の頃におばが見せてくれたんだ。2人の作品は40年間、まさに世代から世代へと受け継がれてきたものだ。だからそんな2人とシリーズの新章を作れるなんて…あり得ないとしか思えないけど…なんというか、一周して元に戻った感じだ」
“みんなで一体になって応援したり、共感したりする。あの感動を次の世代にも体験してもらいたいんだ”(ラルフ)
──ジャッキー、あなたにとって、『ベスト・キッド』とは?
J「僕が若かった頃、スタントマンとして働いていた時代、アクション映画の人気が落ちていたんだ。仲間たちと“どうしようか”と悩んでた時期だった。大工になろうとか、父とオーストラリアに行って料理人になろうとか。そんな時に『ベスト・キッド』が公開された。観に行ったあと、みんなで“道場へ行こう”“練習だ!”と盛り上がったよ。やる気が出たんだ。その後『ロッキー』も公開されて、“アイ・オブ・ザ・タイガー”でさらにテンションアップ(笑)。やる気を失わずに頑張ったおかげで、僕は俳優になれた。そして20年以上経ってウィル・スミスから“『ベスト・キッド』をリメイクしないか?”と連絡がきた。最初は“僕はもうキッドじゃない”って断ったけど、“君はミヤギ役だ”って言われて驚いた。だけど受け入れて、撮影に入った。そして今、この新作へと続いている」
──最後に、この作品を観るみなさんには、どんな気持ちで楽しんでほしいですか?
J「 誰にでも観てほしい。前向きなエネルギーとメッセージにあふれたアクション満載のファミリー映画だ。間違いなく“観るべき映画”だよ」
R「そしてぜひ映画館で観てほしい。オリジナル版を観た時のように、観客と一緒に体験を共有してほしい。みんなで一体になって応援したり、共感したりする──あの感動を次の世代にも体験してもらいたいんだ。スマホで観るのもいいけど、映画館で観る“あの感じ”は格別だからね」
ジャッキー・チェン プロフィール
1954年4月7日、香港生まれ。子供時代に京劇やアクションを学び映画界に進出。スタントマンや脇役を経て『ドランクモンキー/酔拳』(78)でキャリア上の大きな転機を迎え、『プロジェクトA』(83)『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(85)など監督兼主演作が大ヒット。2016年には、映画界における功績を称えられ、中国人俳優として初めてアカデミー名誉賞を受賞。
ラルフ・マッチオ プロフィール
1961年11月4日、米・ニューヨーク生まれ。70年代後半から子役として活動を始め、『アウトサイダー』(83)、『ベスト・キッド』(84)への出演で一躍スターに。以降、『クロスロード』(86)や舞台でも活躍。2018年から主演・製作総指揮を務めた「コブラ会」(18-25)で新たな人気を獲得。同作はエミー賞にも6度ノミネートされ、俳優・クリエイターとして揺るぎない地位を築いている。
ベン・ウォン プロフィール
2000年1月1日、中国・上海生まれ。6歳で渡米し、NY大学ティッシュ芸術学部を卒業。Disney+の「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」でジン・ワン役に抜擢され、キー・ホイ・クァンやミシェル・ヨーらと共演し注目を集めた。次回作はスティーヴン・キングの「死のロングウォーク」が原作の『The Long Walk(原題)』、「ハンガー・ゲーム」シリーズ最新作の『Sunrise on the Reaping(原題)』。
『ベスト・キッド:レジェンズ』
2025年8月29日(金)公開中
アメリカ/2025/1時間34分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:ジョナサン・エントウィッスル
出演:ジャッキー・チェン、ラルフ・マッチオ、ベン・ウォン、ジョシュア・ジャクソン、セイディ・スタンリー、ミンナ・ウェン