ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロの長編小説デビュー作の映画化で、第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『遠い山なみの光』。本作に主演し、戦後間もない1950年代の長崎に暮らす悦子を演じている広瀬すずと、悦子の夫・二郎役の松下洸平にインタビューし、それぞれの役柄や撮影裏話などを聞いた。(文・清水久美子/写真・奥田耕平(THE96)/[広瀬すず]ヘアメイク・小澤麻衣(mod’s hair)/スタイリスト・Shohei Kashima(W)[松下洸平]ヘアメイク・KUBOKI(aosora)スタイリスト・丸本達彦/デジタル編集・スクリーン編集部)
衣装協力[松下洸平]スーツ/TAGLIATORE/ESTNATION/0120-503-971 その他/スタイリスト私物

“プライベートではもともと親交があって。逆に現場ではちょっと照れくさかったですね。” (松下)“『うちら同じ仕事してたんだよね』ってなりました(笑)。” (広瀬)

画像1: “プライベートではもともと親交があって。逆に現場ではちょっと照れくさかったですね。” (松下)“『うちら同じ仕事してたんだよね』ってなりました(笑)。” (広瀬)

広瀬すず プロフィール

1998年6月19日生まれ、静岡県出身。2013年、TVドラマ「幽かな彼女」で女優としての活動を開始。映画『海街diary』(15)で第39回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数多くの新人賞を総なめにする。『ちはやふる』(16)で映画単独初主演。第40回日本アカデミー賞では、『ちはやふる-上の句-』で優秀主演女優賞、『怒り』(16)で優秀助演女優賞をダブル受賞。2019年には、NHK連続テレビ小説「なつぞら」でヒロインを務める。近作には第14回TAMA映画賞最優秀女優賞、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞した『流浪の月』(22)、第78回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞した『キリエのうた』(23)、『ゆきてかへらぬ』(25)、『片思い世界』(25)などがある。

──『遠い山なみの光』を観終わった後、誰かと語り合いたくなり、すぐにもう一度観たくなりました。悦子という役は、とても複雑な面を持つ女性で、終盤で驚くべきことが明かされますが、広瀬さんは最初に脚本を読んだ時、どう思いましたか?

広瀬「悦子には、いろいろな要素が絡まっていて、どんな人物なのかちょっと見えづらいような感じだったんですが、台本に書かれている通りに素直に演じてみようと思いました」

──石川慶監督からは、どんな指示がありましたか?

広瀬「最初の時点では、監督も迷っているとおっしゃっていて。なので、現場で演じながら、その都度話し合って、『そっちのニュアンスの方向性で行こうか』という感じで進めていきましたね」

松下「そうですね。例えば、悦子と二郎が暮らす団地の部屋の中の布団の敷き方一つでも、しっくり来る位置を模索したり。そういう細かい部分も含めて、僕たちと監督でたくさん話し合いを重ねながら、空間を作っていったと思います。」

──二郎は戦争の傷痕を心身に負った人間の屈折や哀しみも持つ人物として描かれています。松下さんは二郎を演じる上で、どんな点に気を配りましたか?

松下「監督が、二郎の人物像や生い立ちをとても丁寧に文章にしてくださったんです。そのおかげで、二郎というキャラクターをより深く理解することができました。いわゆる昭和の九州男児というイメージに対して、監督が柔らかい雰囲気を加えてくださったので、現場でもたくさん話し合いながら、演じる上で良い塩梅を見つけていきました」

画像2: “プライベートではもともと親交があって。逆に現場ではちょっと照れくさかったですね。” (松下)“『うちら同じ仕事してたんだよね』ってなりました(笑)。” (広瀬)

松下洸平 プロフィール

1987年3月6日生まれ、東京都出身。ミュージカル「GLORY DAYS」(09)出演をきっかけに俳優として活動を開始。2018年には舞台「母と暮らせば」「スリル・ミー」で第26回読売演劇大賞杉村春子賞・優秀男優賞を、第73回文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。歌手としても活躍しており、2021年に「つよがり」で二度目のCDデビュー。近年の主な出演作品にNHK連続テレビ小説「スカーレット」(19)、TVドラマ「いちばんすきな花」(23)、「9ボーダー」(24)、「放課後カルテ」(24)、映画『ミステリと言う勿れ』(23)、『室井慎次 敗れざる者』(24)、『室井慎次 生き続ける者』(24)などがある。

──今回、お二人は初共演で夫婦役を演じましたが、共演した感想は?

広瀬「撮影現場では初めてだけど、一緒に飲んだことがあるんですよね」

松下「そうなんです、プライベートではもともと親交があって。だからこそ、逆に現場ではちょっと照れくさかったですね。『あ、めっちゃ女優さんだ…』って、ちょっとドキッとしたくらいで(笑)」

広瀬「『うちら同じ仕事してたんだよね』ってなりました(笑)。夫婦役という距離感で言うと、こんなにすんなり受け入れられる楽さもなかなかないですし、何をやっても受け止めてくれるだろうという安心感がありました」

松下「広瀬さんは、現場での居方や、お芝居に対する姿勢も含めて、ある種“特殊能力”と呼びたくなるような、オンとオフの切り替えができる方なんですよ。役に入った瞬間の集中力がものすごくて、目の色が変わる瞬間をすぐ近くで見られたことは、改めて貴重な経験になりました」

※全文はSCREEN2025年10月号に掲載

『遠い山なみの光』

画像1: 『遠い山なみの光』

ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロの長編小説デビュー作の映画化。『ある男』の石川慶が監督を務める。日本人の母とイギリス人の父を持つニキ。大学を中退して作家を目指す彼女は、長崎で原爆を経験し、戦後イギリスへ渡り、苦楽を共にした長女を亡くした母の悦子の半生を作品にしたいと考える。次女に乞われ、ずっと口を閉ざしてきた過去の記憶を語り始める悦子。それは、戦後間もない長崎で出会った、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出だった。だが、ニキは次第にその物語の食い違いに気づき始める。

画像2: 『遠い山なみの光』

悦子(広瀬すず)

戦後、長崎で暮らす二郎の妻。妊娠中。

画像3: 『遠い山なみの光』

二郎(松下洸平)

亭主関白な昭和の猛烈会社員。傷痍軍人。

『遠い山なみの光』
2025年9月5日(金)公開
日本/2025/配給:ギャガ
監督・脚本:石川慶
原作:カズオ・イシグロ/小野寺健訳『遠い山なみの光』(ハヤカワ文庫)
出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、カミラ アイコ、柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜、松下洸平、三浦友和

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