東ドイツ国営の映画製作会社「DEFA」を代表する監督の一人、コンラート・ヴォルフを発見する、「コンラート・ヴォルフ生誕100年 特集上映 2025」が、2025年10月18日(土)より渋谷ユーロスペース、11月29日(土)より大阪シネ・ヌーヴォにて1週間限定公開されることが決定した。

国家と歴史の狭間で葛藤し、映画/芸術を探究した稀有な才能を発見する

ドイツの映画大学や芸術賞にその名を冠された映画監督。あるいは、文化官僚。芸術家と国家の関係について考察した、知識人。平和と正義に憧れ、個人としての幸福を追求し葛藤した時代の記録者。瓦礫まみれの歴史の中で、彼は、幾度も引き裂かれながら生きた。生まれ故郷のドイツと、「祖国」となったソビエト連邦の間で。政治(Politik)と芸術(Kunst)、感情(Gefühl)と規律(Disziplin)の狭間で−−。
東ドイツ国営の映画製作会社「DEFA」を代表する映画作家、コンラート・ヴォルフ。生誕100年となる2025年、日本初上映となる4作品を含む初めてのレトロスペクティヴが東京と大阪で開催される。
東西に分断された冷戦期のドイツに生まれたフィルムたちは、新たな分断が加速する現在の世界をいかに照射するのか?

上映作品は、「最も重要なドイツ映画100選」に選出され、今年のカンヌ国際映画祭クラシック部門でも上映された傑作『星』、「ベルリンの壁」が、隠喩として描かれる『引き裂かれた空』、ソ連兵としてドイツを訪れたヴォルフの自伝的作品『僕は19歳だった』、歌手として生きる女性の人生模様『ソロシンガー』など、いずれも必見の7作品。

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コンラート・ヴォルフ Konrad WOLF
1925年10月20日ヘッヒンゲン(ヴュルテンベルク州)生まれ。父フリードリヒはユダヤ系の医者で作家。また、コンラートの2歳年上の兄マルクスは長年にわたり東ドイツの国際秘密情報機関(シュタージ)の幹部であった。1933年、一家はモスクワに亡命。翌年からコンラートは現地のカール・リープクネヒト校に通い、1936年にソ連国籍を取得する。映画好きな少年であった彼は、ドイツ人グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム監督の作品『DER KӒMPFER』(36)に出演。1942年12月、高校9年級を終えて間もなく徴兵され、軍政務局の翻訳通訳部に配属される。第二次大戦末には少尉としてドイツに進軍、ザクセンハウゼン強制収容所の解放に参加し、その功績を讃える勲章をソ連政府より受ける。戦後も引き続きソ連軍に所属、「ベルリン新聞」特派員として東ベルリンに駐在した後、ハレ市の文化担当官となり報道や出版等の検閲に携わる。1946年12月陸軍中尉として退官、1948年までソ連宣伝省の教育・青少年・スポーツ担当官を務める。1949年に全ソ国立映画大学(WGIK 現「全ロシア映画大学」)に入学し、ミハイル・ロンムやセルゲイ・ゲラシモフ等に師事。1952年2月に東ドイツ国籍を取得、SED(ドイツ社会主義統一党)党員となる。1953年にクルト・メーツィヒ監督の助手として実習し、1954年にWGIKを卒業、デーファ劇映画スタジオに招聘される。映画監督デビューは1956年の『GENESUNG(回復)』(ダマスカス国際映画祭銅賞)。続く『LISSY(リッシー)』(57、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭グランプリ)、『星』(59 カンヌ国際映画祭審査員特別賞)、さらに父フリードリヒ・ヴォルフ作の戯曲を映画化した『PROFESSOR MAMLOCK(マムロック教授)』(61、モスクワ国際映画祭金賞)、『僕は19歳だった』(68)、『ママ、僕は生きてるよ』(77)等、コンラート・ヴォルフには第二次大戦やユダヤ人をテーマにした名作が多く見られる。その他、代表作として『引き裂かれた空』(64)、『GOYA(情熱の生涯 ゴヤ)』(71、モスクワ国際映画祭審査員特別賞)、『ソロシンガー』(80、ベルリン国際映画祭銀熊賞)等が挙げられる。1982年3月7日、東ベルリン没。

<上映作品>
◆『星』 STERNE  日本初上映
1959(DEFA=ソフィア劇映画スタジオ)/モノクロ/92分/DCP
監督:コンラート・ヴォルフ/脚本:アンジェル・ファゲシュテイン、ヴィリ・ブリュックナー/撮影:ヴェルナー・べルクマン、ハンス・ハインリヒ/音楽:シメオン・ピロンコフ/出演:サシャ・クルシャルスカ(ルート)、ユルゲン・フローリープ(ヴァルター)、エーリク・S.クライン(クルト)ほか
アウシュビッツに移送されるユダヤ人女性とドイツ人下士官の出会いと別れ
東独・ブルガリア合作。タイトルは第二次大戦中ユダヤ人が身に付けるように強制された「ダビデの星」を暗示する。脚本のアンジェル・ファゲンシュテインは、若い抵抗運動闘士の視点からその「思い出」を描いた。1959年のカンヌ国際映画祭にブルガリア映画として出品し、審査員特別賞を受賞。1995年には「最も重要なドイツ映画100選」に選出された。

画像: 「提供:DEFA財団

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◆『引き裂かれた空』 DER GETEILTE HIMMEL
1964(DEFA)/モノクロ/114分/DCP
監督:コンラート・ヴォルフ/脚本:クリスタ・ヴォルフ、ゲアハルト・ヴォルフ、コンラート・ヴォルフ、ヴィリ・ブリュックナー、クルト・バルテル/原作:クリスタ・ヴォルフ/撮影:ヴェルナー・べルクマン/音楽:ハンス=ディーター・ホサラ/出演:レナーテ・ブルーメ(リタ)、エーベルハルト・エッシェ(マンフレート)、ハンス・ハルト=ハルトロフ(メーターナーゲル)ほか
東西ベルリンの分断を象徴するラブストーリー
東ドイツを代表する女性作家クリスタ・ヴォルフが1963年に発表した同名ベストセラー小説を映像化。1964年のカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で公開された後、西ドイツ各地の映画館で上映。東ドイツでは封切り直後に禁止され、1982年にようやくテレビ放映が実現した。1961年8月に建設された「ベルリンの壁」が、隠喩として描かれる。

画像1: 提供:DEFA財団

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◆『僕は19歳だった』 ICH WAR NEUNZEHN
1968(DEFA)/モノクロ/119分/DCP
監督:コンラート・ヴォルフ/脚本:カール・ゲオルク・エーゲル、パウル・ヴィーンス、ゲアハルト・ヴォルフ/撮影:ヴェルナー・べルクマン/出演:ジェッキィ・シュヴァルツ(グレゴール)、ワシリー・リヴァノフ(ヴァディム)、アレクセイ・エボシェンコ(サーシャ)ほか
19歳でソ連兵としてドイツを訪れたヴォルフの自伝的作品
1945年4月半ばから5月初め、終戦間近のドイツに敵軍として送られた若い少尉の複雑な気持ちを日記風に描く。歴史的事実をモノクロ映像で再現。自由で自然なカメラワークは、ロベルト・ロッセリーニ『無防備都市』(45)を想起させる。デーファ製作のドキュメンタリー『Todeslager Sachsenhausen(死の収容所ザクセンハウゼン)』(46、リヒャルト・ブラント監督)の処刑執行人へのインタビューが引用されている。

画像2: 提供:DEFA財団

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◆『太陽を探す人々』 SONNENSUCHER  日本初上映
1972(DEFA)/モノクロ/116分/DCP
監督:コンラート・ヴォルフ/脚本:ヴォルガング・コルハーゼ、コンラート・ヴォルフ、ヴィリ・ブリュックナー/撮影:ヴェルナー・べルクマン/音楽:ヨアヒム・ヴェルツラウ/出演:ウルリーケ・ゲルマー(ルッツ)、ギュンター・ジーモン(フランツ)、エルヴィン・ゲショネック(ユップ)ほか

戦後ドイツの混乱期にたくましく生きる人々の姿
第二次大戦直後、ソ連と東ドイツが共同経営するウラン採掘鉱山「ビスマス」で働く労働者達の日常と労苦を描く。ファシストだった過去を持つドイツ人現場監督と妻をナチスに殺されたロシア人技術者。身寄りの無い娘ルッツと母親代りの娼婦エミ。脚本の修正や撮り直しを繰り返しながら、ようやく完成したものの上映中止を余儀なくされた。エーリッヒ・ホーネッカー政権下の1972年に東ドイツで劇場公開が叶った。

画像3: 提供:DEFA財団

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◆『競技場の裸の男』 DER NACKTE MANN AUF DEM SPORTPLATZ  日本初上映
1974(DEFA)/カラー/101分/DCP
監督:コンラート・ヴォルフ/脚本:ヴォルガング・コルハーゼ、ゲアハルト・ヴォルフ/撮影:ヴェルナー・べルクマン/出演:クルト・ベーヴェ(ケンメル)、ウルズラ・カルサイト(ギジ・ケンメル)、マルティン・トレッタウ(ハンネス)、エルザ・グルーべ=ダイスター(農業生産組合理事長)ほか
社会主義における芸術家の存在意義とは?
40歳の誕生日を控えた、彫刻家の主人公ケンメル。労働者たちや家族、友人など周囲の人々との関係の中で、自身の仕事に自問する日々を送る。ユーモアを含む会話の端々に現れる、繊細なキャラクター造形。静かな余韻を感じさせる描写の中に、イデオロギーをめぐる芸術家のジレンマが浮き彫りになる。

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◆『ママ、僕は生きてるよ』 MAMA, ICH LEBE  日本初上映
1977(DEFA)/カラー/103分/DCP
監督:コンラート・ヴォルフ/脚本:ヴォルガング・コルハーゼ、ヴォルフガング・ベック、ギュンター・クライン、クラウス・ヴィシェネフスキ、ディーター・ヴォルフ/撮影:ヴェルナー・べルクマン/音楽:ライナー・ベーム/出演:ペーター・プラーガー(ベッカー)、ウーヴェ・ツェルべ(パンコニン)、エーベルハルト・キルヒベルク(コラレフスキ)ほか
反ナチ化に携わるドイツ人捕虜たちの苦悩を描く
ドイツ国防軍の兵士達が敵軍に協力する、という物語を描く本作。ヴォルフガング・コールハーゼが放送劇として書いた脚本に、実際の戦争体験者や証人達との対話を加筆して1本の映画にまとめ上げた。タイトルは、ソ連軍の捕虜として生き延びたドイツ兵が故郷の家族に宛てた「戦地便り」のメモに由来する。ヴォルフが自身の体験に基づいて制作した『僕は19歳だった』と対をなす作品。

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◆『ソロシンガー』 SOLO SUNNY
1980(DEFA)/カラー/104分/DCP
監督:コンラート・ヴォルフ、ヴォルガング・コルハーゼ/脚本:ヴォルガング・コルハーゼ、ディーター・ヴォルフ/撮影:エーベルハルト・ガイク/音楽:ギュンター・フィッシャー/出演:レナーテ・クレスナー(サニー)、アレクサンダー・ラング(ラルフ)、ハイデ・キップ(クリスティーネ)、ディーター・モンターク(ハリー)、クラウス・ブラシュ(ノルベルト)ほか
歌手として生きる女性の人生模様
1970年代のベルリン、プレンツラウアーベルク地区出身の歌手サニーは、小さなバンドと共に巡業公演しながら、いつかソロデビューすることを夢見ている。恋愛に苛まれ、友情に救われながら、人生を築く彼女。そのドラマを東ドイツ産ポップスが彩る。ヴォルフガング・コールハーゼと共同監督した、ヴォルフ最後の劇映画作品。主題歌は大ヒットし、衣装や小道具などはポツダム映画博物館に常設展示されている。

画像6: 提供:DEFA財団

提供:DEFA財団

企画:山根恵子
主催:ユーロスペース シネ・ヌーヴォ
協力:DEFA財団 ドイツ・キネマテーク ゲーテ・インスティトゥート東京

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