デビュー作以来、はずれなしと言われる現代アメリカ映画界の名匠、ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)。世界3大国際映画祭の監督賞を総なめにしているPTAの待望の最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』の衝撃を目撃する前に、これまでの彼の独特なセンスが光る監督作9本を再確認しておきたいもの。他に類のないPTAの世界にはまってしまうこと必至!(文・杉谷伸子/デジタル編集・スクリーン編集部)

新興宗教の教祖と帰還兵の男に父子のような絆が生まれるが『ザ・マスター』

画像: 『ザ・マスター』 © MMXII by Western Film Company LLC All Rights Reserved.

『ザ・マスター』
© MMXII by Western Film Company LLC All Rights Reserved.

第二次大戦直後のアメリカ。戦地でアルコール依存症に陥った帰還兵フレディは、[マスター]と呼ばれる新興宗教のカリスマ的な教祖ランカスター・ドッドと出会い、彼の思想に傾倒していく。ドッドに救いを求めながらもやがて不信感を抱き始めるフレディ、彼を導くとともに支配しようとするドッド。二人の関係に息子と父親が重なるとともに、前作に続き、人には何か信じるものが必要だという真実も浮かび上がるあたりは、まさにPTA。65mmフィルムで撮られた重厚な映像美のなか、濃密な演技を見せたホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンがヴェネツィア国際映画祭最優秀男優賞を受賞。PTAは銀獅子賞を獲得し、世界三大映画祭の監督賞を制覇。

製作年:2012
監督・脚本・製作:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ローラ・ダーン

70年代を舞台に混沌とした世界が渦巻く探偵サスペンス『インヒアレント・ヴァイス』

画像: 『インヒアレント・ヴァイス』

『インヒアレント・ヴァイス』

ホアキン・フェニックスと再タッグを組んだ探偵サスペンス。1970年代LA、ヒッピー探偵ドックは、不動産王の愛人となった元カノのシャスタから、不動産王の妻とその恋人の陰謀を暴いてほしいという依頼を受けたことから、トラブルに巻き込まれていく。ノーベル文学賞候補常連の覆面作家トマス・ピンチョンの「LAヴァイス」の映画化だが、錚々たるスターが続々登場し、事態も複雑化する一方の世界は、何が起きているのか理解できないと評されるほど。しかし、その混沌こそ、いつもラリっているドックの世界そのもの。物語の理解を助けるためにドックの事務所の元職員役のジョアンナ・ニューサムによるナレーションを使っているのもPTA作品初。

製作年:2014
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、キャサリン・ウォーターストン

画像4: 名作、傑作、必見作がいっぱい!ポール・トーマス・アンダーソン監督作ワンポイント・レビュー集

『インヒアレント・ヴァイス』

デジタル配信中
ブルーレイ&DVD発売元/販売元:ハピネット・メディアマーケティング
権利元:ワーナー ブラザース ジャパン合同会社

© 2014 Warner Bros. Entertainment Inc., Interactivecorp Films, LLC and RatPac-Dune Entertainment LLC.

完璧主義の仕立て屋とそのミューズの驚きのロマンス『ファントム・スレッド』

画像: 『ファントム・スレッド』

『ファントム・スレッド』

1950年代のロンドンを舞台に、完璧主義のオートクチュリエと彼のミューズが紡ぐゴシック・ロマンス。ファッション界をリードするレイノルズは、モデルとしての完璧な肉体を持つウェイトレスのアルマをハウスへ迎え入れるが、気難し屋で自身の世界を守りたいレイノルズと、自分を必要としてもらいたいアルマは、ぶつかり合うこともしばしば。そんな2人の愛の行方は、サスペンスフル。アルマの暴挙を経て彼らが選んだ命懸けの愛のかたちには驚かずにいられない。主人公の仕事を丁寧に描くことで作品に深みをもたらすPTAらしく、50着以上もの華麗なドレスが登場。デイ=ルイスは前回のタッグで演じた粗野な石油王とは対照的な英国の洗練を体現。

製作年:2017
監督・脚本・製作:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、レスリー・マンヴィル、ヴィッキー・クリープス

画像5: 名作、傑作、必見作がいっぱい!ポール・トーマス・アンダーソン監督作ワンポイント・レビュー集

『ファントム・スレッド』

Blu-ray:2,075円
DVD:1,572円(税込み)
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング

© 2017 Phantom Thread, LLC. All Rights Reserved.

夢を追う若者2人の恋模様を懐かしいサウンドと共に綴る『リコリス・ピザ』

画像: 『リコリス・ピザ』 Photo by Getty Images

『リコリス・ピザ』
Photo by Getty Images

‘70年代のサン・フェルナンド・バレーを舞台に描く青春グラフィティ。子役として活躍する高校生ゲイリーは、イヤーブックの撮影で学校にやってきた年上のアラナに一目惚れ。ライバル子役や大物俳優も絡むなか、それぞれの夢を追いかける2人の恋模様が、ロックンロールなど懐かしいサウンドと共に綴られていく。将来が見えぬままカメラアシスタントをしているアラナの自分探しの物語としても、意外な展開で楽しませて見応えあり。

ゲイリー役のクーパー・ホフマンは映画初出演、アラナ役のアラナ・ハイムも映画初主演と、主演の二人の瑞々しさも魅力。クーパーが、PTA作品常連の故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子というのがまたエモい。

製作年:2021
監督・脚本・製作:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、ブラッドリー・クーパー

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