もう誰も止められないーー マキシーン、名声への飽くなき渇望
強烈なバイオレンスと意外性に満ちた展開で全米はもちろん日本の観客を熱狂させた、21世紀ホラーの旗手タイ・ウエスト監督によるトリロジー。それはポルノ映画撮影現場の惨劇を描いた『X エックス』に始まり、前日談となるスプラッター『Pearl パール』へと発展していった。そのフィナーレを飾る『MaXXXine マキシーン』が、本日よりソフトリリース。衝撃度を増していった物語が、ここに完結する!
舞台は1985年9月のハリウッド。主人公は『X エックス』で描かれた6年前の殺りくを生き延びたポルノ女優マキシーン。真の映画スターを目指してこの町にやってきた彼女は、ついに成人映画ではないハリウッド作品の主演を務めるチャンスをつかんだ。折しも街ではナイト・ストーカーと呼ばれる連続殺人鬼が暗躍し、マキシーンの友人たちが次々と殺される。一方で、6年前に彼女が殺人鬼の老夫婦を返り討ちにしたことを知る私立探偵が、脅迫するかのように接近してくる。逆境に追い込まれていくマキシーンは、ハリウッドスターの夢をつかむことかできるのか?
三部作を通じて主演を務めたミア・ゴスが、並々ならぬ野心を持つマキシーン役を熱演。彼女を追い詰める探偵ラバット役にベテラン、ケヴィン・ベーコン、彼女の主演作の女性監督エリザベスに『TENET テネット』のエリザベス・デビッキ、その共演者である人気女優に『あと1センチの恋』のリリー・コリンズ、シリアルキラーを追う刑事に『ミッション:8ミニッツ』のミシェル・モナハン、人気ポップシンガーのホールジーなどなど、前2作以上に豪華なキャスティングが実現した。
『X エックス』『Pearl パール』と同様に、本作は強烈なインパクトを持つホラーだが、それだけには終わらない独創性がある。連続殺人犯の正体を明かすミステリー、映画業界の内幕を明かすハリウッドストーリー、そして弱肉強食の業界内で、何が何でものし上がろうとする女性のドラマ。驚きの結末は、ぜひその目で見てみて欲しい。
ハリウッドの光と闇を生き抜く、マキシーンの流儀

「私らしくない人生は受け入れない!」——『X エックス』のクライマックスで殺人老婆パールと対峙したとき、マキシーンはこう言い放った。そんな彼女の哲学は、本作でも脈づいている。殺りくをサバイブしたことにより、さらに強度を増したというべきか。いずれにしても、本作のマキシーンはホラー映画定番の単なるスクリームクイーンではない。
暴漢に襲われて袋小路に追い込まれても銃を向けて脅し返し、相手の股間をヒールで踏み潰すのは「自分の身は自分で守る」という宣言の実践。警察に殺人犯と疑われても何も語らず、脅迫してきた私立探偵をエージェントとともに抹殺するのも、その表われだ。
そして何より、自分に絶対の自信を持っていることが強い武器。スターになると信じて疑わず、鏡に向かって「あなたはファッキン映画スターよ!」と言い聞かせる自己啓発。オーディションを受けるライバルの列に向かって「私で決まりだから、とっとと帰れ!」と言い放つのは傲慢を通り越して清々しくもある。ポルノ映画から一般映画のスターに転身するのは常識的には難しいが、そんな常識を突破するくらいの圧倒的な自信がマキシーンには備わっているのだ。
舞台となる1980年代は女性の社会的地位がまだ低かった時代で、映画業界では女性監督の数も今ほど多くはなかったし、男優に比べると女優の活躍の期間は限られていた。マキシーンは、そんな男権システムを痛快に蹴飛ばす存在でもあるのだ!
チェックポイント
映画ファンをニヤリとさせる、小ネタの数々

映画ファンにとって嬉しいのは、ハリウッドの映画撮影現場が多くの舞台になっていること。そのため、映画にまつわる小ネタが随所にちりばめられている。たとえば、スタジオでは『サイコ』(60)で有名なベイツ・モーテルのセットや、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)で使用された時計台が。劇中のセリフでも映画ネタは多く、ビデオレンタル店で働く友人とのマキシーンの会話には、マリリン・チェンバースをはじめポルノから一般映画に転向した実在の女優の名も。ワーナースタジオやハリウッド大通り、名声の舗道などの名所もしっかり登場。
80年代ポップスが映し出す、ハリウッドの裏側

1980年代の空気感を出すために、当時のヒット曲がズラリと並べられた。マキシーンのカーラジオから流れるジョン・パーの「セント・エルモス・ファイアー」は同名映画の主題歌で、このときのナンバーワンヒットソング。ティーザーや予告編で流れていた、シンセサウンドが少々不気味なアニモーションの「オブセッション」もフィーチャーされている。また、エンドクレジットではキム・カーンズの大ヒット曲「ベティ・デイビスの瞳」が主題歌のように響く。これは映画の冒頭で、往年の大女優ベティ・デイビスの言葉を引用していることに呼応している。
「X」トリロジーが描いてきた“名声への憧れ”

三部作に共通しているのは名声の渇望というテーマ。パールは銀幕のヒロインを夢見ていたが、それがかなわないと悟るや、殺人の快楽に身を委ねる。一方のマキシーンはスターになるためならポルノにも出演する野心家。本作の劇中、念願のハリウッド映画への主演が決まったとき、監督のエリザベスは彼女に「おめでとう、あなたは野獣の腹の中に入った」と語る。また、冒頭にはベティ・デイヴィスの“ショービズ界では、怪物と呼ばれてこそスター”という引用が。ハリウッドという野獣を屈服させる、怪物になってこそのスター。そこにマキシーンは近づくのだ。
