スピッツの名曲「楓(かえで)」を原案にした忘れられないラブストーリー、映画『楓』が12月19日(金)に公開される。本作の映像世界を支えるのは、国境や言語、文化の壁を越えて集結したフィルムメーカーたちの確かな技術と情熱だ。行定勲監督のもとに集まった新鋭の撮影監督ユ・イルスン、長年行定作品を照らしてきた照明技師・中村裕樹、そして登場人物の心情に寄り添う空間を創造した美術監督・福島奈央花。彼らがどのような思いで『楓』に向き合い、どのようにして作品の光、空気、そして空間を形づくっていったのか。その創作の舞台裏をひも解いていく。

国境と言葉を越えて挑む、フィルムメーカーとしての挑戦 
撮影監督:ユ・イルスンが映し出す『楓』の映像美

本作の撮影監督を務めたのは、韓国を拠点に活動するフィルムメーカー、ユ・イルスン。アカデミー賞受賞作『パラサイト 半地下の家族』のチームに参加し、『哭声/コクソン』などの話題作で経験を積んだ後、撮影監督として『雨とあなたの物語』(2021年)で新人撮影賞を受賞するなど、その繊細で情感豊かな映像表現が高く評価されている。

2023年、行定勲監督との韓国でのドラマ撮影で出会ったことをきっかけに、「日本で一緒に映画を作る機会があればぜひ」と熱望していたところ、本作への正式オファーが届いた。ユは日本での撮影に向け、長年憧れてきた照明技師・中村裕樹との共演を強く希望し、準備段階から理解を深めるために打合せを依頼するほどだった。

特に印象深かったのは、高校時代の涼と亜子が天体観測をするシーン。本来は真っ暗な環境だが、映画として“見える暗さ”をどう作るか、照明の中村とも何度も話し合ったという。限られた時間で最高のカットを収める緊張感はあったが、その結果「結果的に本当に素晴らしいシーンになりました」とユは振り返る。国境を越え、言語や文化の違いを超えて挑んだユ・イルスンの映像は、『楓』の物語を鮮やかかつ繊細に映し出す原動力となっている。

画像: 国境と言葉を越えて挑む、フィルムメーカーとしての挑戦 撮影監督:ユ・イルスンが映し出す『楓』の映像美

『楓』に宿る、信頼と情熱のライティング 
行定作品を長年照らし続ける“光の職人”中村裕樹のこだわりとは

本作で照明を担当するのは『流浪の月』(2022年)や『国宝』(2025年)など、数々の名作を手がけるベテラン照明技師・中村裕樹。行定監督とは『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)や『劇場』(2020年)など多くの作品でタッグを組んできた。

本作の撮影に挑むうえで中村は“現場で起こることから発想を得るライティング”を大切にしたと言い、「台本を読み込んで光の設計をする場合もありますが、今回はもっと現場の“生”に寄り添いたかった。俳優の演技や監督の演出、天気や湿度、その場でしか生まれない要素を見ながら照明を考えようと思っていました」と明かす。照明を作り上げる過程では念入りに準備をしたと言い、美術担当の福島とは亜子の部屋の窓やカーテンなどの光に直結する要素について、美術設計の段階から綿密に相談を重ねたと振り返る。

また涼と亜子の天体観測のシーンでは、「真っ暗さをどう成立させるか」を軸に何度も話し合いを重ね、観測で目の順応を保つために使用される赤い光を着想に、〈楓=赤〉や「危険」「秘めた情熱」といった作品のテーマとも合う照明を作り上げていった。こうした丁寧な積み重ねの末に生まれた光は、物語の感情と呼応しながらスクリーンで繊細に輝くはずだ。

画像1: 『楓』に宿る、信頼と情熱のライティング 行定作品を長年照らし続ける“光の職人”中村裕樹のこだわりとは
画像2: 『楓』に宿る、信頼と情熱のライティング 行定作品を長年照らし続ける“光の職人”中村裕樹のこだわりとは

人物の感情を映しだす、作りこまれた“裏設定” 
美術監督・福島奈央花が語る、空間設計の秘密

本作の美術を担当したのは、日本映画界で活躍する美術監督・福島奈央花。『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)や『しびれ』(2025年)などを手掛け、登場人物の繊細な心情を引き出す空間表現で高い評価を得てきた。そうした表現力は本作においても発揮され、物語の世界観に確かな奥行きを与えている。劇中で象徴的に描かれる「星」や「彗星」、といった天文モチーフは、物語とキャラクターを映し出す大切な要素として美術設計にも丁寧に織り込まれている。梶野(宮沢氷魚)と恵(福士蒼汰)が勤務する天体観測のアプリを開発する会社「SPICA LAB.」のセットでは、二人のデスクを通して、それぞれの人物像のコントラストが浮かび上がるように設計。「梶野は洗練された感覚を持つ、知的でスマートな人物。家具はデザインと機能性にこだわり、余白のある整理されたデスクに。一方で恵のデスクには多くの天文学本や資料などを配置し、真っ直ぐで勉強熱心な人柄が時間と共にじみ出るような場所にしたかった」と福島は語る。その対比は、二人の生き方や価値を静かに浮かび上がらせている。また、ヴィンテージ感のある建築の雰囲気を活かしながら、グリーンの什器をオリジナルで製作するなど、空間全体のトーンも丁寧に統一させた。天体にまつわるインテリアを配置することで、梶野が密かに星の物語を愛する“ロマンチスト”であることを示すさりげない仕掛けも施されている。

画像: 人物の感情を映しだす、作りこまれた“裏設定” 美術監督・福島奈央花が語る、空間設計の秘密

国境を越えた新鋭の才能と、長年にわたり行定作品を照らし続けてきた名匠。そして、キャラクターの心情をディテールで描き出す美術。そのこだわりと信頼が折り重なって生まれた映像の数々は、映画『楓』の情緒をより豊かに、より深いものへと導いている。

【ストーリー】 
僕は、弟のフリをした。君に笑っていてほしくて。 <須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、共通の趣味の天文の本や望遠鏡に囲まれながら、幸せに暮らしていた。しかし朝、亜子を見送ると、恵は眼鏡を外し、髪を崩す。実は、彼は双子の弟のフリをした、兄・須永涼だった。1ヶ月前、ニュージーランドで事故に遭い、恵はこの世を去る。ショックで混乱した亜子は、目の前に現れた涼を恵だと思い込んでしまうが、涼は本当のことを言えずにいた。幼馴染の梶野(宮沢氷魚)だけが真実を知り涼を見守っていたが、涼を慕う後輩の日和(石井杏奈)、亜子の行きつけの店の店長・雄介(宮近海斗)が、違和感を抱き始める。二重の生活に戸惑いながらも、明るく真っ直ぐな亜子に惹かれていく涼。いつしか彼にとって、亜子は一番大事な人になっていた。一方、亜子にもまた、打ち明けられない秘密があったー。 <愛するからこそ、伝えられなかった想い。 <めぐる季節の中で明らかになる、あまりにも切ない真実に、驚きと涙がとまらない。

『楓』
12月19日(金)全国公開 
監督:行定勲 
脚本:髙橋泉 
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records) 
音楽:Yaffle
出演:福士蒼汰 福原遥 宮沢氷魚 石井杏奈 宮近海斗 大塚寧々 加藤雅也 
2025/日本/カラー/120分/シネスコ/Dolby5.1c 
配給:東映 アスミック・エース 
Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会

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