本作は、アガサ・クリスティーの小説に現代的な解釈を加えて描いたドラマを2015年から放送しているBBCが、今年3月に放送した最新作。舞台は1936年のイギリス。花形テニスプレイヤーのネヴィルはスキャンダラスな離婚劇を繰り広げたのち、元妻と現妻と共におばのレディ・トリシリアンの屋敷で過ごすことに。複雑な三角関係と過去の因縁が絡み合い、嫉妬、偽り、憎しみが渦巻く中、事件が発生する “ゼロ時間” へ至るまでのストーリーが描かれていく。
映画「アダムス・ファミリー」シリーズでも知られる名優アンジェリカ・ヒューストンがレディ・トリシアンを演じており、英ガーディアン紙では「アンジェリカ・ヒューストンは、この悪魔的なアガサ・クリスティーの作品で、彼女の演技力の頂点を極めた」と本作での演技が絶賛されている。
”子供の頃は自身の役のような女性が周りにたくさんいた”と語るヒューストン
——レディ・トレシリアンについて教えてください。
「レディ・トレシリアンは疎遠で厄介な一族の女家長です。それぞれが多くの問題を抱えているので自分がいないと家族はまとまらない。少なくとも彼女はそう考えています。彼女は皆を自分の思い通りに操る術を知っています。船を乗っ取って自由に操縦するようなものです。レディ・トレシリアンを演じるのはとても楽しかったわ。彼女は自分の寝床、つまりベッドにいながらすべてを取り仕切るのですが、ずっとベッドの中で演じるなんていいでしょう? 毎日、撮影現場に着いたらベッドにもぐりこんでいたの! いつもの撮影とは真逆の体験でしたね」
——彼女を3語で表すとしたら?
「支配的、打算的、型破り、ですね」
——レディ・トレシリアンにはなぜあれほど権力があるのでしょうか?
「レディ・トレシリアンはまるで男性のように物事を仕切ります。少なくとも彼女はそうしたいと思っているので、自分がボスであることを誇示しようとします。当時の女性としては非常に珍しいことです。彼女は虚栄心も持ち合わせています…。人の好き嫌いが激しく、相手の考えを見抜く力があり、人に対して批判的です。“子供たち”を愛してはいますが、彼らの好きなようにさせるつもりはありません」
——レディ・トレシリアンと付添人のメアリー・オルディンの関係について教えてください。
「メアリーはレディ・トレシリアンの子供のような存在です。実子ではありませんが、一番古い友人の娘です。彼女に指図をしたり、間違いを正したり、たしなめるのはレディ・トレシリアンの役目なのです。メアリーは長年、レディ・トレシリアンの仕打ちに苦しみながら耐えてきました。レディ・トレシリアンはメアリーの考え方、読む本、行動までコントロールしようとします…。かわいそうなメアリーに自分の考えを厳格に押しつけるのです」
——イギリスのアクセントはどのように習得しましたか?
「私はアイルランド西部とイングランドで育ったのでその頃に身に付けました。イギリス訛りについては経験豊富なんですよ」
——実際にレディ・トレシリアンのような女性に会ったことは?
「ありますよ。子供の頃はレディ・トレシリアンのような女性が周りにたくさんいました。会うのは主に狩猟をする時です。父の狩猟クラブ、ゴールウェイ・ブレイザーズにはレディ・トレシリアンのような自己主張が強く男勝りな女性が多くいました。実際にその場を仕切っていたのは彼女たちでしたね」
いちばん楽しかったのは“ベッドでの撮影”!
——「アガサ・クリスティー ゼロ時間へ」の主要なテーマは?
「家族、忠誠心、誠実さ・・・あと殺人ですかね」
——本作をひと言で説明すると?
「古典的でユーモアと意外性に富み、構成が緻密に練られたドラマです」
——素晴らしいセットやレディ・トリシアンの衣裳について教えてください。
「私はベッドの中で過ごすのが好きなので、まず、ベッドにいる設定は気に入りました。衣装は当然、寝間着になるわけですが、それも素敵だったわ。ネグリジェやガウンを着て演技するのは快適でしたね!」
——本作の舞台について教えてください。
「舞台は砂丘に囲まれたガルズ・ポイントと呼ばれる、デヴォン州の海岸沿いに佇む小さなイギリスらしい村です。レディ・トレシリアンが住むのはおそらく村の中でも一番大きな屋敷でしょうね。先祖代々受け継がれた、由緒正しい邸宅です」
——アガサ・クリスティーの作品が現在も人々を魅了する理由は何だと思いますか?
「人は名作を好むものですし、ストーリーが緻密でウイットに富んだ古典的な作品が今も好まれているのは素敵なことだと思います。アガサ・クリスティーの小説はその典型です。彼女は、まだ女性が社会で活躍することのない時代に執筆をしていました。彼女には鋭い観察眼があり、無駄のないキャラクター描写は本質を突いています。今でも人気があるのは当然だと思います」
——撮影で一番印象に残ったことは?
「ベッドです!撮影現場に呼ばれてベッドに入るよう指示されることなんてないですから。普通なら逆です。ベッドの上での撮影は楽しかったわ」
——自分がアガサ・クリスティー作品の登場人物だったら、生き残ると思いますか?
「私だったら5分も持たないと思います。賢くないととても無理でしょうね!」
「アガサ・クリスティー ゼロ時間へ」(全3話)
字幕版:12/21(日)夕方4:00 一挙放送

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