アカデミー賞でも最重要の部門となる作品賞とそれに繋がる監督賞。今年の本命は、対抗は、そしてダークホースと見なされている作品は何でしょう? アメリカでの予想評や重要映画賞の結果などから、いま知っておくべき2月上旬時点でのオスカー・プレディクションをお届けしましょう。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:『罪人たち』より © 2025 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND DOMAIN PICTURES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ワン・バトル・アフター・アナザー』VS『罪人たち』の闘いに
『ハムネット』が絡む?

昨年は最終投票直前に混迷した賞レースの中、『ANORA アノーラ』が作品賞などを受賞する結果に終わったアカデミー賞だったが、今年の状況はどうなっているだろう。まず1月23日のノミネーション発表で話題になったのが、オスカー史上最多ノミネート数16を得たライアン・クーグラー監督の『罪人たち』。予想では今回新設されたキャスティング賞を含め15とされていたが、それも上回る数のノミネートで、従来の記録だった14(『イヴの総て』『タイタニック』『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の3作)を軽く越えてしまい、いきなり本命視されることになった。従来のオスカーとは縁遠い「ホラー要素の濃いブラックムービー」の記録的大ヒット作であり、前哨戦ゴールデングローブ賞では興行成績賞を受賞しているが、候補段階でここまでの強さを発揮するのは、黒人層だけでなく、もっと広い層から支持されていることの顕れ。受賞数も今回最多になるかもしれない。

しかし一般的な現地受賞予想から見ると、本命はポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』とするのが現時点での主流。こちらもノミネート数は『罪人たち』に続く13となっていて、本命作としては文句ない数字。ゴールデングローブ賞でも作品賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞し、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞、全米映画批評家協会賞、LAとNYの映画批評家協会賞など重要な最優秀作品賞を次々と獲得している。カンヌ、ベネチア、ベルリンの3大国際映画祭を制覇している名匠アンダーソンがいまだオスカー無冠のため、今回初の受賞となる可能性が高い。追い風が吹いている『罪人たち』の猛追を躱わせるかが大きな見どころだが、番狂わせがあるかもしれないと指摘する米メディアも少なくない。

『罪人たち』

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『ワン・バトル・アフター・アナザー』

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『罪人たち』が『ワン・バトル…』の強力な対抗馬に挙げられる中、もう一つ有力な対抗馬と目されるのが、クロエ・ジャオ監督の『ハムネット』(8部門候補)だ。ウィリアム・シェイクスピアの有名な戯曲「ハムレット」誕生秘話だが、そこに彼と愛妻の息子の存在が絡む感動作で、ゴールデングローブ賞作品賞(ドラマ部門)を受賞。さらにオスカー作品賞の登竜門といわれるトロント国際映画祭の観客賞なども受賞しており、こちらが作品を獲っても不思議はない。ジャオ監督は『ノマドランド』で一度作品賞・監督賞を受賞済みで、今回の監督賞候補者の中では唯一の受賞経験者であると同時に唯一の女性監督。この立場がどう影響するかも見どころ。

『ハムネット』4月10日公開/パルコ、ユニバーサル映画配給
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トップランナーであるこの3作同様、監督賞にも同時にノミネートされている方が、作品賞受賞有力とされる傾向があるが、その法則に則ると残りの2作品は、まずノルウェー語で製作されているヨアキム・トリアー監督の非英語作品『センチメンタル・バリュー』が注目されている。昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞して以来、米オスカーでも波乱を起こすのではないかと噂されていた通り、8部門9つの大量ノミネーションを獲得。世界共通のテーマである「壊れた家族関係」を描く本作は国際長編映画部門の本命でもあり、ハリウッド作品群を相手にどこまで善戦するか見逃せない。

もう一つは卓球界を舞台にしたジョシュ・サフディ監督の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で、A24映画史上ナンバーワンヒット作となっている話題のスポーツ・ドラマ。卓球の天才だが、その他の行動はサイテー男という主人公をティモシー・シャラメが熱演し、演技も映画の完成度も高い評価を受けている。こちらも9部門のノミネーションを獲得。これもダークホース的な魅力を持った侮れない存在だ。ちなみにサフディは一人で作品・監督・脚本・編集の4部門でノミネートされる快挙を成し遂げている。

『センチメンタル・バリュー』2月20日公開/NOROSHI、ギャガ配給
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『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』3月13日公開/ハピネットファントム・スタジオ配給
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逆転Vを狙うダークホース的作品にも
勝機があるか?

過去97回のアカデミー賞のうち、監督賞にノミネートされず、作品賞を受賞した例はわずか6回。続く7回目となるかもしれない5作品も逆転Vを狙っている。

その中でも最もノミネート数の多いのが、9部門ノミネートを獲得した『フランケンシュタイン』で、これは当初ギレルモ・デル・トロが監督賞候補に残るのではと予想されていたが、デル・トロは脚色賞での候補に留まったものの、美術賞などでは本命視されている。本作と同じくNetflix作品である『トレイン・ドリームズ』は20世紀初頭のアメリカの山間部を舞台にそこで生きる一人の名もなき男の人生を淡々と描いたデニス・ジョンソン原作の映画化で、サンダンス映画祭での上映からクリント・ベントレー監督の手腕が評価され4部門で候補となった。

『フランケンシュタイン』
Netflix映画『フランケンシュタイン』独占配信中

『トレイン・ドリームズ』
Netflix映画『トレイン・ドリームズ』独占配信中

その他の3作品もいずれも作品賞を含む4部門で候補となった優秀作ぞろい。『センチメンタル・バリュー』と共に国際長編映画賞にもノミネートされているブラジルの『シークレット・エージェント』はやはり昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞と男優賞をW受賞したクレベール・メンドンサ・フィリオ監督のサスペンス。『センチメンタル…』の国際長編映画賞部門対抗馬として、クリティクス・チョイス賞の外国語映画賞などを受賞し、評価をぐんぐん上げている最中。ヨルゴス・ランティモス監督の『ブゴニア』は、彼にとって3回目の作品賞候補になるが、今回は監督賞候補を逃した。ちなみに『ワン・バトル…』のアンダーソン監督は、本作を昨年公開作の中でお気に入りの一本と発言している。

ジョセフ・コシンスキー監督の『F1®/エフワン』は、候補になった10作の中で最も興行的に成功しているハリウッド・エンタテインメント作(世界興収約6億3000万ドル)。一部では今回の作品賞候補入りはサプライズといわれ、受賞となるとさらなるサプライズとなるが、この映画を愛するファンは業界にもかなり多くいるという大穴的存在だ。

最新情報として、2月7日(現地時間)全米監督組合賞が『ワン・バトル…』のアンダーソン監督に決定した。これはアカデミー賞の現在地点を表わすことになる。さらに今後、全米製作者組合賞、アクター賞(旧全米俳優組合賞)の発表が控えていて、この結果によってさらに確定的な全体像が見えてくる。最後までレースのゆくえを注視したい。

『シークレット・エージェント』2026年公開/クロックワークス配給
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『ブゴニア』公開中/ギャガ配給
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『F1®/エフワン』

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