——今回の映画にかかわったきっかけを教えて下さい。
「ある時、監督のマイク・フラナガンから、彼が書いた脚本が送られて来ました。美しい手紙が添えられていて、ぜひ、主人公のチャックを演じてほしい、と書いてありました。そして、脚本を読んで本当に驚きました。人生のすばらしい瞬間が次々に登場するからです。とてもユニークでスリリングな内容でした」
——あなたが演じているのは平凡な会計士の役ですね。
「この役に求められているものに興味を持ちました。彼は平凡な会計士で、ビジネススーツを着ていて、ビジネスバッグを持っている。そんな彼が、ある日、ダンスに身をまかせる。でも、そんな感覚が自分でもわかる気がして演じたいと思いました。監督もあなたが踊る場面がぜひ観たいといってくれました」

——この映画のために6週間、ダンスのレッスンを受けたと聞いています。振付師のマンディ・ムーア(『ラ・ラ・ランド』(2016))との仕事はいかがでしたか?
「彼女はエネルギーの塊みたいな人で、踊ることに対する喜びがあふれていました。踊りというのは本当に不思議で、人間の精神が音楽に反応して、体を動かしたいと思い、そのリズムに夢中になり、やがては、その瞬間しか存在しなくなる。この映画の主人公も音楽にどう反応すればいいのか体で分かっている。主人公は会計士で、家庭人でもあり、体もかつてほど、しなやかではないんです。それでもドラマーのテイラー・ゴードンが路上で演奏していると、チャチャチャからサンバへ、そしてサルサへとリズムを切り替えても、音の持つ自由な空気を彼は本能的につかんでいる。ただ、かつてのチャックは6年くらいかけてダンスを学んだという設定ですが、私の準備期間は6週間だけでした(笑)」
——ウォルト・ホイットマンの詩、「ぼく自身の歌」の中の「私はいろいろなものを含んでいる」という一節が印象的に使われ、人生の奥深さをかんじさせますね。
「本当にそうだと思います。実は私はこの詩が以前から大好きでした。俳優として訓練を受けていた時、ボイスコーチがこの詩を使っていました。そこでは声だけを使って、その詩を観客に届けなくてはいけないわけです。読んだ時、そこには人生の真実があると思いました。私たちはひとつの世界だけで生きているわけではない。仕事や家族の中の役割に押し込められているわけでもないし、着ている服によって制限がかかるわけでもない。もっと幅広い可能性があるわけです。ただ、自由な想像力と現実を行き来している子供に較べると、大人は社会の期待に応えようとするあまり、人生の幅が狭くなっていきます。生活のためにあるゴールだけをめざすようになります。でも、実際には私たちは多くのものを含んでいる。そのことが詩からも伝わります」

——ロキを演じる時のように、同じ役を何度も演じる場合と、今回のように一度だけの場合と役へのアプローチが異なりますか?
「いい質問ですね。アプローチは特に変わらないと思います。その役をとりまく世界は無限に広がっています。それでずっと、いつも役のことを考えるわけです。朝、起きた時や公園で犬の散歩をする時も、シャワーを浴びたり、お茶を飲んだり、そんな時も、いつも考えたり、セリフを読んだりするのです。共演者たちと役の話をすることもあるし、その好奇心は無限に広がっています。その役をじっくり考え、いろいろ調べた上で取り組む。そういう点では、今回の会計士役も含め、どんな役もアプローチは同じだと思っています」
取材中のヒドルストンは真摯な姿勢で、とても誠実に質問に向き合ってくれた。かつてはスティーブン・スピルバーグ監督の『戦火の馬』(2011)、ジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』(2013)、ギレルモ・デル・トロ監督の『クリムゾン・ピーク』(2015)など、監督の個性で勝負するような作品でも個性を見せていたヒドルストン。今後は再びロキ役に戻る新作『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』も公開待機中だ。
『サンキュー、チャック』
5⽉1⽇(⾦)新宿ピカデリー他全国ロードショー
配給︓ギャガ、松⽵
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