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プレプロダクションや吹き替えの分野で大活躍するAI
今年の3月、AIについてのドキュメンタリー映画『The AI Doc: Or How I Became an Apocaloptimist』が米国で公開された。同作は、AIについて楽観的な捉え方と悲観的な展望との両方の視点から考察したドキュメンタリーだが、AIに対するアメリカ映画界のスタンスも、それに近いものがある。
AIは、アメリカ映画製作の現場では既に様々な場面で活用されている。まず、実際の制作に入る前のプレプロダクション段階で、作品全体のイメージを表現するコンセプトアートや撮影のベースとなるストーリーボードといったヴィジュアル・ツール作成、撮影計画、予算作成、ロケ場所の想定といった作業にAIが活躍。プレプロダクションは、AIの導入が最も急速に進んでいるエリアだと言われており、とりわけ厳しい予算管理が必要とされる低予算映画や配信番組、コマーシャルの製作には重宝な存在となっている。もう1つ、急速にAIの導入が進んでいるのは吹き替え作業の場で、これもNetflixやAmazonなど、外国市場が重要視されている配信ビジネスでは大活躍しているようである。
アカデミー賞は脚本部門、演技部門でのAI活用をノミネート対象外に

一方、AI導入に慎重さが要求されているのは、脚本作成プロセスである。脚本執筆の前段階でのブレインストーミング等ではAI活用が可能だが、AI主導の脚本作成に関しては、「人間らしさ」が欠けることの懸念が強い。米国脚本家組合(WGA)も、AIを「脚本家」としてクレジットすることを禁じると規定している。キャスティングも同様で、台詞の無い「背景キャスト」やエキストラは、生身の俳優を雇用する代わりにAIで合成することが可能になったが、実際に撮影された俳優の映像を基に勝手に合成、何度も繰り返し使用されても、ギャラが発生しない点などが問題となり、米国俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキの際に大きな争点となった。アカデミー賞を授賞する映画芸術科学協会(AMPAS)も事を重要視しており、今年の5月には、2027年のアカデミー賞から適用されるルールとして、映画の脚本は人間が執筆したものに限定し、執筆者のクレジットも人間のみを対象とする新規定を発表。演技賞についても、生身の人間の演技のみを対象とし、AIによる合成俳優の演技は賞の対象としないとしている。
AIに対して懐疑的な監督・俳優たちがいる一方、不可避と見る意見も
AI導入は雇用の消失も招く可能性が大で、前述のコンセプトアートを描くアーティストたちや、ストーリーボード・アーティストたちはAIにとって代わられるし、予算を立てたり撮影計画を練る人材も不要となる。プレプロダクション段階だけでなく、編集の準備段階作業や、マーケティングのリサーチ等もAIがこなせるようになるから、部門を問わず、アシスタントレベルの人材が大幅に削減されるだろうと言われている。

AI使用に反対するギレルモ・デル・トロ
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映画業界のAI導入については映画人たちも懸念を表明している。中でもギレルモ・デル・トロは、去年のインタビューでAIについて聞かれた際、「AIを使うぐらいなら死んだ方がマシ」と答えて話題になった。デル・トロは、アートなるものは、人間の苦しみや記憶、不完全なる所、そして死すべき運命から生まれるものであって、AIによって生成されたアートは空虚なものに過ぎないと考えているとのこと。スティーヴン・スピルバーグやクリストファー・ノーランなどもAI懐疑派で、「映画は人間こそが作れるもの」とコメントしている。それに対し、ジェームズ・キャメロンは、AIによって製作費が大幅に節約でき、製作過程もスムーズになる点を指摘。AIによるストーリーテリングなどは感情に乏しい欠点があるとしながらも、AIを無視する映画作家は時代に取り残されるだろうという考えを表明している。

AIに懐疑的なスカーレット・ヨハンソン
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AIは避けられないと見るデミ・ムーア
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一方、俳優たちのほとんどはAI懐疑派で、AIによって生成された声が自身の声にそっくりだったことに大いに警戒感を持ったというスカーレット・ヨハンソンに代表されるように、自分たちの顔や身体、声がAIによって再生・合成されて独り歩きしかねないことを懸念する声が多く挙がっている。トム・ハンクスは、近い将来には本物と「合成品」との区別がつかなくなるだろうと警告。2025年には、ティリー・ノーウッドなるAIによって生成されたバーチャル俳優まで登場したが、ウーピー・ゴールドバーグは、演技とはそもそも人間的なものであり、単なる視覚的なシミュレーションなどではないと批判。エミリー・ブラントも、そのようなバーチャル俳優の方が本物の俳優よりもコスト安でコントロールしやすく、永久的にキャストできる存在であるゆえ、映画会社はバーチャル俳優の方を好むようになってしまうのではないかと危惧していることを明らかにした。デミ・ムーアなどは、AIの映画業界への導入は避けられないのだから、有効利用していくべきだというスタンスを取っているようだが、実際、譲れないところはしっかり保持しながらも、ハリウッドは、折り合いをつけながらAIと付き合っていくしかないのかもしれない。

