カバー画像:Photo by Michael Buckner/Variety/Penske Media via Getty Images
闘病していたがんは完治したが、肺炎のために78歳で死去
「ジュラシック・パーク」シリーズのアラン・グラント博士役などで知られるニュージーランド俳優サム・ニールが7月13日、家族に看取られ78歳で亡くなったことが公表された。彼は2022年にがん(血管免疫芽球性T細胞リンパ腫)であることが判明し、今年4月に完治したことを公表したばかりだったが、死因は実は肺炎だったと明かされた。

出世作『わが青春の輝き』
Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images
ニールは1947年北アイルランド生まれ。ニュージーランド人の父が英国軍人で、その赴任先で生まれたのだった。8歳のときにニュージーランドに移ったという。カンタベリー大学在学中から俳優として才能を開花させ、劇団に参加して1年間巡業の旅に出たこともあったとか。1971年から舞台をやめて映画に転向。ニュージーランド国立映画ユニットに加わって本格的に俳優となり、同時に短編やドキュメンタリーを監督して評価されたという。77年に主演した『テロリストたちの夜/自由への挽歌』(日本はビデオ発売)の好演がオーストラリアのジリアン・アームストロング監督に認められ、彼女の『わが青春の輝き』(79)に招かれ、これが大評判となった。この時から本人が「ニュージーランド育ちのオーストラリア人」と自らを呼ぶようになったそう。

『オーメン/最後の闘争』のニール(左)
Photo by Getty Images
日本でニールが初めて紹介されたのは大ヒット・ホラー・シリーズの第3作『オーメン/最後の闘争』(81)で大人になった主人公ダミアンの役に抜擢された時。これもまた『わが青春の輝き』(日本ではこちらの公開が後になった)を見て感心した英国の名優ジェームズ・メイソンが数名のプロデューサーに紹介状を送ったところ、大人のダミアンを演じる俳優を探していた製作者ハーヴェイ・バーナードの目に留まったことでハリウッド進出が決まったという。ちなみにニールはこの映画で共演したニュージーランド女優リサ・ハーロウと交際し、長男が誕生したが89年に別れている。
またニールは同年にアンジェイ・ズラウスキー監督のフランス映画『ポゼッション』(81)にも出演。妻役イザベル・アジャニー(カンヌ国際映画祭女優賞受賞)と共に狂的な熱演を見せ、これは後にカルト的な人気作となる。こうして世界的な知名度を得た彼は売れっ子俳優になって『プレンティ』(85)と『クライ・イン・ザ・ダーク』(88日本未公開)ではメリル・ストリープと共演。『デッド・カーム/戦慄の航海』(88日本ビデオ発売)では新人時代のニコール・キッドマンと共演している。
『ジュラシック・パーク』では体を張った熱演、『ピアノ・レッスン』では複雑な男の心情を表現

『ジュラシック・パーク』のニール(後方)
Photo by Murray Close/Getty Images
さらに『レッド・オクトーバーを追え!』(90)などを経て、93年、自らの代表作となるような2作品に出演することに。その一つがまずスティーヴン・スピルバーグ監督の世界的大ヒット作『ジュラシック・パーク』。もう一つがジェーン・カンピオン監督のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『ピアノ・レッスン』だ。『ジュラシック・パーク』では古生物学者グラント博士に扮し、現代に蘇った恐竜たちに興奮を覚えながら、生理的に苦手な子供たちをその暴走から必死で救おうとする姿を体を張って熱演。これが当たり役となり、シリーズ第3作『ジュラシック・パークⅢ』(01)、さらに新展開の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(22)にも出演した。また『ピアノ・レッスン』ではヒロイン、エイダの結婚相手になるスチュアートを演じた。言葉を話すことをせずピアノに愛着を持つエイダを理解できない男性の複雑な心情を、時に静かに時に激しく表現して名優といわれる実力を発揮。本作の成功に寄与した。

『ピアノ・レッスン』の共演者、監督とカンヌ国際映画祭のフォトコールで(右)
Photo by Eric Robert/Sygma/Sygma via Getty Images
その後も『マウス・オブ・マッドネス』(94)『恋の闇 愛の光』(95)『イベント・ホライゾン』(97)『モンタナの風に抱かれて』(98)『アンドリューNDR114』(99)など歴史ドラマからSF、サスペンスまで多種多様なジャンルの作品に出演し、多くのファンを獲得。近年では『ピーターラビット』(18)のマグレガーおじさん役などで健在ぶりを見せていた。
映画以外では、英国製テレビドラマ「ケインとアベル」(85)で演じたケイン役で人気を博したことも忘れがたい。ジェフリー・アーチャー原作小説のドラマ化で、20世紀の初めにポーランドとアメリカで生まれた、全く境遇の異なる2人の男の運命を描く壮大な物語で、この作品でニールのファンになったという人も少なくない。

TVドラマ「ケインとアベル」のニール(左)
Photo by CBS/Getty Images
ちなみにニールは、一時期ジェームズ・ボンド役の候補だった(ティモシー・ダルトンが選ばれた)ことや、『ダイ・ハード』でアラン・リックマンが演じたハンス役の候補だったことも知られている。私生活ではリサ・ハーロウと別れた後、『デッド・カーム…』で一緒に仕事をしたメイクアップアーティストの渡辺典子と結婚。2人には娘がいるが15年に離婚。その後ニールはオーストラリアのジャーナリスト、ローラ・ティングルと交際を始めている。ニュージーランドに大きなワイナリーを持ち、遺族が引き継ぐ予定だとか。
ニールの逝去に際してローラ・ダーンら『ジュラシック・パーク』の共演者、スティーヴン・スピルバーグ監督が追悼コメントを発表している。ローラは「サムは私にとって生涯の友人でした。とてもドライなユーモアを交えて、誠実さ、愛の深さを教えてくれました。本当の気高い紳士で、私が夢に見た理想の男性そのものでした。アラン・グラント博士、あなたをいつまでも愛しています」と故人を偲んでいる。

