カバー画像:『バックルームズ』より © 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
リミナルスペース(境界的空間)とは、ざっくり言うと、不気味で寂しげな、非現実的に見える空っぽの空間や廃墟となった場所を描くエスセティック(インターネット美学)。これは2019年に画像掲示板4Chanに投稿された「The Backrooms」という都市伝説が流行して人気を呼んだ。これを基にケイン・パーソンズが短編映像を製作し話題となる。これに目を付けたA24がパーソンズと組んで長編映画化したのが『バックルームズ』だ。
『バックルームズ』
人のいない境界的な空間のムードを持つ映画を指すこともあり、どこまでも続く通路や空間、夜間のオフィスのバックヤード、日常にあるがそこに誰もいない空間、といったタイプを意識して、自分なりのリミナル感ある作品を探して楽しむことが映画ファンの間でも注目されている。日本で昨年製作されヒットを記録した『8番出口』はゲームが原作だが、雰囲気としてはわかりやすい例えだろう。
ファンの間では過去に作られた映画からその要素を感じさせる作品を探す向きもあるようだ。そこでリミナルスペースの代表的な作品と呼ばれているのが、まずスタンリー・キューブリック監督の傑作ホラー『シャイニング』(80)が挙がることが多い。本作の舞台になるオーバールックホテルは、雪に閉ざされる冬の間は管理人一家3人だけが広大なホテルの中に取り残される形で、ほぼ無人状態。同じデザインの部屋のドアがずらりと並び、幾何学的な絨毯の模様も不気味でまさにリミナルスペースと呼ぶに相応しい美術セットだった。同じキューブリック作品の『2001年宇宙の旅』(68)を挙げる人もいる。
多くの人が例に挙げる『シャイニング』
またリミナルスペースを扱う作家として名前が挙がるのが、デヴィッド・リンチ監督。すべてではないが彼の作品にはある特殊な空間が登場することが多い。「ツイン・ピークス」シリーズはじめ、『ロスト・ハイウェイ』(97)、『マルホランド・ドライブ』(01)、『インランド・エンパイア』(06)など、そうしたリンチ独特の映像美術にはたしかに不気味な空間・室内が描かれている。ただしリミナルスペースには「日常的な場所に取り残された空間を指す概念」という意味もあって、この基準からするとリンチの世界観とはやや異なるという説もあるようだ。
デヴィッド・リンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』
リミナルスペースはまだはっきりと定義づけられていないミームでもあり、人によってこの言葉からイメージする映画も様々。ネット上では他にも画一的な住宅がどこまでも並んでいる世界を描く『ビバリウム』(19)や巨大なドームの中に作られた世界で何も知らずに暮らす男が真実を追う『トゥルーマン・ショー』(98)、オフィスの壁に開いた不思議な穴が俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中に繋がっているという『マルコヴィッチの穴』(00)などなど様々な作品が挙げられている。興味を覚えた人たちが、自分が思うリミナルスペース映画を他者と共有することで、ムーブメントが拡大中。『バックルームズ』の日本公開で、ますますこの動きが広がっていくかもしれない。
あるファンの意見では『マルコヴィッチの穴』なども挙がる
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