韓国で244万人を動員し、スマッシュヒットを記録したコメディ映画『BOSS/ボス』が公開される。本作は、ギャング組織のカリスマボスが倒れたことで巻き起こる“前代未聞のボスの座譲り合い合戦”を描いた異色のクライムコメディ。チョ・ウジン、チョン・ギョンホ、パク・ジファンら韓国映画界を代表する実力派キャストが勢揃いし、大きな話題を呼んでいる。SCREEN ONLINEでは、メガホンを取ったラ・ヒチャン監督にインタビューを敢行。従来のノワール映画のイメージを鮮やかに覆すアイデアの着想や、豪華俳優陣のアドリブに満ちた現場の舞台裏など、作品の魅力をたっぷりと語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

型破りコメディの裏に隠された“キャストの熱意と即興演技”

──ギャングの後継者争いであるにもかかわらず、誰もボスになりたがらないという発想がとてもユニークで面白いと感じました。このような設定を思いつかれたきっかけは何だったのでしょうか?

このコンセプトで映画を立ち上げることになったのは、制作会社・ハイブメディアコープのキム・ウォングク代表と「新鮮で斬新なコメディ映画を作ろう」という話し合いをずっと重ねていたからです。その中で、韓国はもちろん、香港や日本映画でもノワール映画は途切れることなく作られてきましたが、「これを今の時代の感覚に合わせて少しひっくり返したストーリーにしてみよう」という発想からスタートしました。主人公たちは……スンテは料理をし、ガンピョはダンスをし、パノは人望がないけどボスになりたがっている、といった役割を持っています。それぞれが異なる夢と欲望を持つキャラクターにしてみました。

── この3人のキャラクターを、ただコミカルに描こうとしたわけではなく、どのような人物として描きたいと考えていらっしゃいましたか?

この作品はジャンルとしてはコメディで、私はこれまでも主にコメディ映画を多く手掛けてきましたが、無理にコメディを強要するような展開が少し苦手な方なんです。そのせいか、「人間が抱えるアイロニーやジレンマに直面している姿を通してこそ、笑うことができ、愛おしく見つめることができる」と考えていました。

若い頃は同じ組織の仲間であり、3人ともボスを夢見て、組織のために抗争を生き抜いていましたが、現在ではスンテは得意の料理で全国制覇を、ガンピョは社交ダンスに天啓を受けてタンゴダンサーを目指しています。パノだけは今でもボスになることを夢見ていますが、そのための能力が不足しています。このように「食い違っている状態」を通して、私たちはコメディとしてアプローチしようと試みました。

──チョ・ウジンさん、チョン・ギョンホさん、パク・ジファンさん、そしてイ・ギュヒョンさんを監督が最優先でキャスティングされたと聞きました。その理由について教えてください。

本作は登場人物が多いので、まず“俳優同士のバランス”が非常に重要だと考えていました。そして、彼らがそれぞれ抱えている「夢」が物語の軸になりますよね。ボスの座を引き受けまいとする者、逆に目指す者──その夢がぶつかり合う物語だからこそ、異なる個性を持つ俳優が必要でした。

チョ・ウジンさんやチョン・ギョンホさんは、韓国映画界で確固たる地位を築いている俳優で、それぞれ個性がまったく違います。だからこそ、この組み合わせを最初から想定してキャスティングを進めました。

特にチョ・ウジンさんは、劇中のスンテと同じように“現場のリーダー”としての役割を自然に担ってくれるのではないかと期待していたのです。実際に現場では俳優たちの意見をまとめたり、新しい試みのバランスを取ったりと、さまざまな場面で大きく貢献してくれました。

そしてチョン・ギョンホさんは、どこに跳んでいくか分からないような予測不能な魅力がある俳優です。決まった枠の中で演じるのではなく、期待通り、シーンごとに常に新しい表現を見せてくれました。

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──俳優の方々が互いにアイデアを出し合いながらアドリブをたくさん見せてくれたと聞きました。

撮影を振り返ると、俳優たちは脚本や制作陣に対して本当に深い敬意を持って臨んでくれていました。だからこそ、彼らのアドリブは“脚本の枠組みの中でできる最大限の工夫”というタイプなんです。文脈から外れた全く新しいことを突然始めるのではなく、脚本の流れを守りながら、私が選べるように次々と“良い選択肢”を提示してくれる。そんなアドリブでした。

例えば、パク・ジファンさんには、ほんの数日だけ“ボスになる瞬間”がありますよね。あの場面で彼が机の上に上がって踊るような動きを見せるシーンがありますが、実はあれは台本にも演出にもなかったんです。撮影中、ジファンさんから独特の空気を感じたので、私はあえてカットをかけずに見守っていました。すると彼が自ら机の上に上がっていったんです。その瞬間をもっと見たいと思い、私はカメラを回し続けました。ジファンさんは本能的にあの動きを生み出していて、まさに彼ならではの即興でした。

パク・ジファンさんやチョン・ギョンホさんは、本当に“どこに跳んでいくか分からない”タイプの俳優で、即興性に長けているからこそ成立した場面が多くあります。一方で、チョ・ウジンさんはその動きに合わせて全体を引っ張る役柄だったため、リアクションをとても新鮮に、そして驚くほど柔軟に表現してくれました。

画像1: 【インタビュー】ノワールを裏切る痛快コメディの舞台裏『BOSS/ボス』ラ・ヒチャン監督
画像2: 【インタビュー】ノワールを裏切る痛快コメディの舞台裏『BOSS/ボス』ラ・ヒチャン監督

──クライマックスのアクションシーンで、スンテは調理器具を使い、ガンピョはダンスをしながら、そしてパノはガスボンベを使いながら個性的なアクションを見せてくれたのが印象的でした。このようなアクションシーンは最初から脚本執筆時に設定されていたのでしょうか?

まず、キャストが決まってから、それぞれのアクションの要素をより明確に差別化し、個性を強く出していきました。ある意味では本作は極道映画と言えるかもしれませんが、私自身は「これは夢についての物語だ」と捉えていました。

だからこそ、ラストのアクションは、全員が自分の“夢”を懸けて戦う、とても切実な場面なんです。その感情がまず重要でしたし、同時にコメディ映画でもあるので、そこに少し可愛らしさやコミカルな楽しさを加えたい。スンテの料理、ガンピョのダンス、パノのガスボンベといった要素をキャラクターごとに付与しながら、「アクションの中でも夢を手放さない姿」を描きました。

──ガンピョは最初、ピアノを弾くキャラクターとして設定されていたそうですね。ダンスに変更されたのは、ピアノはアクションシーンで使いにくいからでしょうか?

コロナ以降、映画の制作が少し止まっていた時期があったんです。その間、私はシナリオを書きながら、密かにタンゴを習い始めまして…(笑)。そこで、「ピアノの設定をタンゴに変えたらどうだろう。アクションや感情表現の“呼吸”という点でも、こちらの方が合うのではないか」と思うようになりました。

そして、ギョンホさんとキャスティングのための面談をしたときに、「これまで書いてきたシナリオではピアノになっているけれど、君を見ているとタンゴが似合いそうだ」と誘ってみたんです(笑)。するとギョンホさんも「むしろその方が面白そうだ」と同意してくれて、そこからタンゴの設定で進めることになりました。

──タンゴというのは簡単には踊れないダンスだと思います。ギョンホさんはかなり練習を重ねられたのではないでしょうか?

今回映画を撮ってみて、タンゴがどれほど難しいダンスなのかを改めて痛感しました。もし事前にその難しさをもっと深く理解していたら、もしかすると挑戦しなかったかもしれません(笑)。

ギョンホさんは、4〜5ヶ月ほど本当に血の滲むような努力を続けてくれました。そのため、タンゴのシーンは撮影の後半に回し、練習期間をできるだけ確保しました。

タンゴは「ダンスの墓場」と呼ばれるほど難易度が高く、バレエダンサーなどプロの方でも非常に難しいと感じるジャンルです。通常、基本ステップだけでも習得に1年はかかります。それほどの難しさの中で、ギョンホさんは足の爪が剥がれるほど練習を重ねてくれました。

もちろん、プロの目から見れば物足りなく映る部分もあるかもしれません。しかし私たちは、「タンゴが完璧に上手な人」を描くのではなく、「タンゴを踊りたくて仕方がない人物」を表現しようと話し合いました。キャラクターとダンスという素材を自然に一体化させることを大切にしたのです。

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──アクションシーンの撮影で苦労されたことや、特に印象に残っているエピソードがあったら教えてください。

アクションシーンのことを思い出すと、今でも少し疲れが戻ってくるような気がします(笑)。あのクライマックスの舞台となったのはホテルでしたが、実はシナリオの段階では舞台として廃港のような港を想定し、開けた広い空間でのアクションを考えていたんです。そこでノワールや極道ものの“お約束”を裏切るような演出をいろいろ盛り込む予定でした。

しかし、ホテルでのシーンを撮っているうちに、「この廃れかけたホテルの中でクライマックスのアクションが展開されたら面白いのではないか」と思いついたのです。スタッフに話したところ、全員がその案に賛同してくれ、ホテル内部でのアクションに変更しました。

ただ、実際に撮影してみると、閉ざされた密室空間でアクションを行うのは、動線の確保や安全面の調整などが想像以上に難しかったのです。そのため、撮影にはかなり長い時間を要することになりました。

──コメディとノワールアクションを詰め込みつつ、上映時間98分という軽快で無駄のないテンポ感にまとめるにあたり、編集や構成の段階で工夫されたポイントはありましたか?

おっしゃる通り、本作は非常にテンポの速いリズムで進みますし、撮影したシーンのほとんどを使っているにもかかわらず、上映時間は98分とコンパクトです。最近の韓国映画やさまざまなコンテンツの傾向として、スピード感のある編集が求められていますし、SNSの影響もあって、現代の観客はテンポ良く進む作品に慣れています。観客の皆さんに楽しんでいただくためにも、その点は不可欠な要素でした。

制作チームもポストプロダクションの段階で、テンポやリズムに特に気を配っていたと思います。これはシナリオの段階で完全に決めていたわけではなく、「どの形ならアクションやストーリーをより楽しんでもらえるか」を研究しながら、いくつもの編集バージョンを試し、試行錯誤を重ねた結果です。

──それでは最後に日本の観客に向けて、メッセージをお願いいたします。

日本での公開を目前に控え、私自身とても期待しています。日々の生活の中で抱えている思考や悩みを、ほんの少しの間だけ脇に置いて楽しんでいただけるような映画になればと願っています。観客の皆さんが、一瞬でもクスッと笑ってくれたら嬉しいです。

画像3: 型破りコメディの裏に隠された“キャストの熱意と即興演技”

<PROFILE>
監督・脚本:ラ・ヒチャン
77年生まれ。2008年、映画『正しく生きよう』で監督デビュー。『Mr.アイドル』(12)などコメディや群像劇を中心としたユーモア溢れる演出に定評があり、韓国映画界で長く活躍を続けている。

画像3: 【インタビュー】ノワールを裏切る痛快コメディの舞台裏『BOSS/ボス』ラ・ヒチャン監督

『BOSS/ボス』10月23日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

画像: 『BOSS/ボス』予告編 www.youtube.com

『BOSS/ボス』予告編

www.youtube.com

<STORY>
ギャングのカリスマボスを支え、組織のために抗争を生き抜いてきた3人の男たち。ボスが不慮の死を迎え、後継者候補となった3人だが、本命のスンテは得意の料理で全国制覇を目指し、やる気ゼロ。対抗馬のガンピョは社交ダンスに天啓を受けてタンゴダンサーを目指し、興味ゼロ。唯一、やる気満々のパノは人望ゼロだった!次期ボスの座を巡る混迷が極まる中、組織に潜入したものの身元バレバレのダメ警官も巻き込んで、いま、前代未聞の後継者譲り合い合戦が始まる!

<STAFF&CAST>
監督・脚本:ラ・ヒチャン
出演:チョ・ウジン、チョン・ギョンホ、パク・ジファン、イ・ギュヒョン、ファンウ・スルヘ、オ・ダルス、イ・ソンミン
原題:BOSS/2025年/韓国/98分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:本田恵子
配給:日活/KDDI
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公式サイト:https://boss-movie.jp/

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