1970年代後半に英国を震撼させたバンド、セックス・ピストルズ。パンク・ロックという新しいジャンルを切り開き、社会的な革命を起こした。そんなピストルズの知られざる歴史秘話に光をあてるドキュメンタリー『セックス・ピストルズ 破壊の設計図』。バンドの人気曲の作曲を手がけながらも、不遇な扱いを受けてきたベーシスト、グレン・マトロック本人が主人公。来日した監督、アンドレ・レリスが製作秘話とグレンの人間的な魅力を語り、伝説のパンクバンドの真実に迫る。

歴史的バンドの影の人物に光をあてる

1970年代後半に登場して英国を震撼させたロック・バンド、セックス・ピストルズ。これまで何本かドキュメンタリーや劇映画も作られてきたが、今回はベーシストのグレン・マトロックの視点で、この歴史的なバンドを振り返るドキュメンタリーとなっている。

監督はスコットランド人のニック・ミードとアメリカ人のアンドレ・レリス。9月24日にレリス監督が来日し、単独インタビューが実現した。セックス・ピストルズの音楽を10代から愛聴し、自らバンド活動も行ってきたというレリス。若くして亡くなった凄腕ギタリスト、ランディ・ローズのドキュメンタリー『ランディ・ローズ』(22)やラッパーの短い生涯を描いた『N.W.AEASY-E:キング・オブ・コンプトン』(15)といったドキュメンタリーも手がけているが、今回は少年時代に影響を受けたセックス・ピストルズを題材にして、濃密な作品を作り上げている。

――今回の映画を製作したいきさつを話していただけますか?

「本当に偶然なんですが、『ラスベガスをやっつけろ』(98)も製作している友人のスティーヴ・ネメスから紹介したい人がいるといわれました。それが共同監督となったニック・ミードで彼は音楽界に精通していました。ミードは元セックス・ピストルズのグレン・マトロックとも親しかった。それでふたりに会った日にドキュメンタリーの話が出て、私もかかわることになりました。ミードとは一緒に多くの取材をしましたが、彼はスコットランド人で英国にも詳しいので、彼に取材を任せました部分もあります」

画像: セックス・ピストルズのグレン・マトロック(左)とジョニー・ロットン(右) © 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

セックス・ピストルズのグレン・マトロック(左)とジョニー・ロットン(右)
© 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

――あなたは10代の頃からピストルズのファンだったそうですね。ピストルズの音楽は1970年代後半のロンドンで生まれ、閉塞感があった当時の社会状況を打ち破ろうとしました。あなたは同時代人ではなく、アメリカ人ですが、どういうところに共感しましたか?

「時代は後追いですが、それでも彼らの音楽に衝撃を受けました。私は14歳まで閉鎖的な宗教コミュニティにいて、自分のアイデンティティがなかった。でも、ピストルズのアルバム『勝手にしやがれ!!』を聞き、すごく心を動かされました。この映画によって人生が変わりました」

――ピストルズのどこにひかれましたか?

「ヴォーカルのジョニー・ロットンの書いた歌詞は反権力を歌い、強いインパクトがありました。また、その音にもひかれました。ギターの音がすごくヘビーで、私を突き動かすものがあったんです。確かに権力や政府に対する彼らの反抗的な姿勢は、このアルバムが作られた時代のものだと思います。当時の英国は経済が行き詰まっていて、その閉塞感から生まれていたわけですが、それでいて、そこには時代を超える力があり、そこで歌われた内容はいつの時代でも共有できる内容だと思います」

バンドで作曲を手がけたグレン・マトロックの不遇な人生

――今回の映画はピストルズの元ベーシスト、グレン・マトロックの書いた回想記「オレはセックス・ピストルズだった」(音楽之友社刊)が原作になっていますね。

「彼の本を読んだのは16歳の時です。ピストルズのファンだったので、いろいろなものを吸収したくてこの本に出会いました。そして、共同監督となったニック・ミードやグレン・マトロックに会ったら、この本を基にしたいといわれ、すぐに賛同しました」

――グレンのどういう点に興味を持ちましたか?

「セックス・ピストルズにおける彼の貢献ぶりに興味があり、その真実に迫りたかったんです。彼は『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』『アナーキー・イン・ザ・UK』『プリティ・ヴェイカント』などピストルズの人気曲の作曲を手がけていた。しかし、バンドを途中で去り、かわりに入ってきたシド・ヴィシャスが、このバンドのベーシストのイメージを作っていった。でも、それはひどい話で、事実に反することだったのではないか、と思ったわけです」

画像: 過激なヴォーカリストのジョニー・ロットン(左)と2代目ベーシストのシド・ヴィシャス(右)。ビジュアル的に映えるふたりがバンドを代表するアイコン的な人物となった。 © 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

過激なヴォーカリストのジョニー・ロットン(左)と2代目ベーシストのシド・ヴィシャス(右)。ビジュアル的に映えるふたりがバンドを代表するアイコン的な人物となった。

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――グレンは影の存在でしたね。

「真実が描かれるべきで、そこに迫りたいと思ったわけです。ただ、グレンにとっては、本当に痛みを伴う話だった。実はラスベガスにパンクロックのミュージアムがあるのですが、そこに行ってみると、グレンの写真は1枚もないんです。ベーシストはシド・ヴィシャスの写真だけ。それとロンドンのパンク系の音楽スタジオに行くと、シドの写真はあるんですが、やはり、グレンのものはないんです」

――ただ、驚いたのは、グレンとシド・ヴィシャスの関係です。グレンの後任として、シドがバンドに入った。敵対関係でも不思議がなかったのに、グレンは脱退後に楽器が弾けなかったシドを助け、彼とステージに立ったこともある。シドはグレンを信頼していたようですね。

「そこは本当におもしろいです。ふたりは友人同士になったんです。こういうふたりの関係は他のドキュメンタリーでは描かれていなかったと思います。実はシド・ヴィシャスや恋人のナンシーに関しては他にも使える素材があったんですが、グレンには辛すぎかな、と思って……。グレンはシドの最後の日々を一緒にすごしている(註:シドは21歳で他界し、パンク界の伝説になった)。一方、グレンはその後の長い人生を元ピストルズの影の存在として生きることになったんです」

ゲイリー・オールドマンのシド役に感動

――他にもすでにセックス・ピストルズの映画は作られていて、シド・ヴィシャスに関してはアレックス・コックス監督の劇映画『シド・アンド・ナンシー』(86)もありましたね。

「『シド&ナンシー』はすごく好きな映画です。ダークなラブストーリーです。若い時に見て、とても感動しました」

――今日はこの本を持ってきました。『シド&ナンシー』のシナリオ本です。監督のアレックス・コックスやシド役のゲイリー・オールドマンのサインもあります。以前、ふたりに会ったので…。

画像: 英国のフェイバー&フェイバー社から刊行されている『シド&ナンシー』のシナリオブック(筆者の私物)。本の中にはシド役を演じたゲイリー・オールドマンと監督のアレックス・コックスのサインもある。いずれも筆者が取材した時、本人たちからもらったもの。

英国のフェイバー&フェイバー社から刊行されている『シド&ナンシー』のシナリオブック(筆者の私物)。本の中にはシド役を演じたゲイリー・オールドマンと監督のアレックス・コックスのサインもある。いずれも筆者が取材した時、本人たちからもらったもの。

「わー、この本は見たことがなかった。アレックス・コックスは、実は今回、会うことになっていたんですが、直前になってだめになりました。ゲイリーは本当にすばらしい男優で、私もいつか一緒に仕事ができたら、と思っている男優のひとりです」

――フィクションとしてはダニー・ボイル監督の配信シリーズ『セックス・ピストルズ』(2022)もありますね。

「あの作品にはグレンがすごく腹を立てていて、ボイルとケンカになりかけたようです。事実とは違い、フィクションが多すぎるといって、激怒していたんです。実はこのボイルの映画にグレンが失望していて、ドキュメンタリーを作りたいと思っていたので、いいタイミングで私たちの映画が成立しました」

画像: セックス・ピストルズ時代のグレン・マトロック。バンドの有名曲の多くを彼が作曲したが、長年、その功績が評価されず、影の存在だった。 © 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

セックス・ピストルズ時代のグレン・マトロック。バンドの有名曲の多くを彼が作曲したが、長年、その功績が評価されず、影の存在だった。
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――ボイルはいい監督ですが、あの作品は期待外れでした。

「本当にがっかりしました。おもしろい部分もありますが、フィクションが多すぎる」

――他にジュリアン・テンプル監督のドキュメンタリー、『セックス・ピストルズ/ロックンロール・スウィンドル』(98)や『NO FUTURE A SEX PISTOLS FILM』(2000)がありました。こうした作品をどう思いますか?

「テンプルの映画はすごくおもしろいと思っています。ロンドンで彼に会って一緒に食事もしました。今回の映画でピストルズのアーカイブ映像を使うことも許可してくれました」

ニューヨークとロンドンのパンク・ムーブメント

――この映画ではグレンとブロンディのデビー・ハリーの演奏シーンもありました。ピストルズはロンドンのパンク・ムーブメントから出てきて、ブロンディはニューヨーク・パンクの流れの中から出てきた。時代が変わり、ふたりが同じ舞台にいるところが興味深いですね。

「彼らの音楽の方向はまるで違いますが、年を重ねた後は一緒の舞台にいる。ブロンディはニューヨークのCBGBで70年代半ばに演奏していたわけです。ザ・ラモーンズなども、当時でそこで演奏していましたね」

セックス・ピストルズのカリスマ、ジョニー・ロットン(左)とマネージャーのマルコム・マクラーレン(右)。マクラレンは70年代にデザイナーのヴィヴィアン・ウエストウッドと共にパンク運動の中心となったブティック、SEXを経営。

© 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

――セックス・ピストルズのマネージャーだったマルコム・マクラーレンは、ラモーンズの音楽をヒントにしたといわれますね。マルコムはやり手ではあったけど、詐欺師的なところがある、という声もあります。あなたとしてはどう思いますか?

「彼はバンドが稼いだお金を搾取していた、という話も聞いていて、実はあまりいい印象がありませんでした。しかし、ピストルズのメンバーたちに取材してみると、彼を5人目のピストルズのメンバーと考え、彼のことを認めているんです。つまり、彼がいないと、このバンドは成立していなかった、ということですね。取材を通じて、彼に対する印象が変わりました。そして、ラモーンズなどからヒントも得て、英国で別の形にしたのがセックス・ピストルズだったということになります」

画像: 初代のセックス・ピストルズ。左からギタリストのスティーヴ・ジョーンズ、ベーシストのグレン・マトロック、ドラマーのポール・クック、ヴォ―カリストのジョニー・ロットン。  © 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

初代のセックス・ピストルズ。左からギタリストのスティーヴ・ジョーンズ、ベーシストのグレン・マトロック、ドラマーのポール・クック、ヴォ―カリストのジョニー・ロットン。

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オアシスのノエル・ギャラガーもピストルズを評価

――あなたの映画にはオアシスのノエル・ギャラガーで出てきて「俺たちが10枚のアルバムを出すより、セックス・ピストルズの1枚だけのアルバムの方が価値がある」と語る場面がありますね。(註・ピストルズは1枚しかアルバムを出していない)。

「ノエル・ギャラガーのコメントは本当にすばらしくて、彼の意見はファンの気持ちを代弁していると思います。オアシスの10枚のアルバムよりも、ピストルズの1枚だけのアルバムのすごさ。音楽の歴史での立ち位置を比喩的に語ったコメントですね。まさにピストルズのアルバムは時代を超えるすごさがありました。オアシスにはいい曲もありますが、個人的にはすごくひかれるバンドではありませんでした。彼らはビートルズの系譜上にいて、ビートルズはパンクではないですから」

――ロンドン・パンクの時代に出てきた人気バンド、ザ・クラッシュなどはどう思いますか?

「クラッシュは好きですが、ふたつのバンドはまるで音が違います。ただ、クラッシュはピストルズにヒントを得た部分もあると考えています。何よりも彼らは何枚もアルバムを出していますが、ピストルズは1枚しかない。そこが大きな違いですね」

画像: セックス・ピストルズに加入した頃の若きグレン・マトロック。ベースを担当し、『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』などの有名曲も作曲した。 © 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

セックス・ピストルズに加入した頃の若きグレン・マトロック。ベースを担当し、『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』などの有名曲も作曲した。

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――現在のグレンはすごくいい顔をしていると思います。成熟し、落ちついた顔です。彼は実はいい人生を送って来たのではないかな、と思わせる。確かにピストルズ時代は影の部分を生きていたのでしょうが…。

画像: 現在のグレン・マトロック。セックス・ピストルズ時代は実力が評価されず、影の存在だったが、ミュージシャンとして生き抜き、今も精力的に音楽活動を続けている。 © 2025, I WAS A TEENAGE SEX PISTOL PRODUCTION, LLC ALL RIGHTS RESERVED

現在のグレン・マトロック。セックス・ピストルズ時代は実力が評価されず、影の存在だったが、ミュージシャンとして生き抜き、今も精力的に音楽活動を続けている。

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「実は私自身も若い時からバンド活動をしていました。だから言えることかもしれませんが、グレンほど音楽に熱意をもって取り組むミュージシャンには、ちょっと会ったことがありません。とにかく音楽を演奏したいと思っているし、いくつになっても活動を続けている。間違いなく彼は素晴らしい人生を送ってきたのではないかと思います。だから、彼がいろいろなバンドと演奏している姿を私の映画では描きました。ただ、セックス・ピストルズのレガシーにおいては、本来の彼にふさわしい評価を得ることができず、辛い部分もあるのではないでしょうか」

来日したアンドレ・レリス。自身もバンド活動を行っている。プロデューサーとしてはスティーヴン・セガールなどの出演作も製作している。

セックス・ピストルズというバンドへの情熱とその伝説の中で影のような存在だったグレン・マトロックへの強い思い。それがレリス監督を突き動かす原動力となったのだろう。今回の映画では当時の写真や映像、ピストルズの元メンバーたちやこのバンドをとりまくミュージシャンたち(ビリー・アイドルやデビー・ハリー他)の新たなコメントなどもふんだんに盛り込まれる。

過去と現在をうまくミックスすることで、この映画はスリリングな歴史の証言となっている。

そして、今もバンド活動を続けるグレンの力強い存在感。歴史に残るバンドへの貢献が過小評価されてきた人物が、その後の時間をどう生き抜き、今に至る長いキャリアを築いてきたのか。そんな音楽をめぐる光と影の物語としても興味深い作品だ。

レリス監督は、現在、無名時代のジム・モリソン(ザ・ドアーズの中心人物)を描く評伝映画も企画中だという。製作者としてはスティーヴン・セガールやドルフ・ラングレンの出演作など、商業的な作品も数多く手がけているが、監督としては音楽映画のこだわりがあるようで、いつかニルヴァーナをめぐる作品も手がけたいと言っていた。

実は日本好きでもあり、かつて住んでいたこともあるという。取材中も終始リラックスした顔を見せ、とてもなごやかな雰囲気のインタビューとなった。

画像: オアシスのノエル・ギャラガーもピストルズを評価

『セックス・ピストルズ 破壊の設計図』現在公開中

監督:アンドレ・レリス『ランディ・ローズ』、ニック・ミード『アイアン・フィスト/モーターヘッド』 編集:ヴァネッサ・ローワース、ジャスティン・ウィリアムズ製作:グレン・マトロック、ニック・ミード、アンドレ・レリス、ジェシカ・ルッソ/原作:グレン・マトロック著『I Was a Teenage Sex Pistol』出演:グレン・マトロック、スティーヴ・ジョーンズ、ポール・クック、ビリー・アイドル、デビー・ハリー、ゲイリー・ケンプ

2025 年/アメリカ/英語/102 分/原題:I Was ATeenage Sex Pistol/提供:ニューセレクト/配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

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