



ホームレスの数が4年連続増加し、社会問題となっているイギリス。ロンドン出身の俳優ハリス・ディキンソンは、夢である映画監督デビューのテーマとして、自身も支援活動をした経験から路上生活者にフォーカスすることを選び、『URCHIN/アーチン』を撮った。2025年のカンヌ国際映画祭で初上映されると、各国の映画評論家たちから、「衝撃的な監督デビュー作」、「初監督作とは思えない完成度」、「カンヌで最も心を揺さぶられた1本」、「新たな才能の誕生を感じさせる」等の称賛の声があがり、俳優のみならず監督としての存在感を世界に示した。
ハリス・ディキンソン監督インタビュー
—映画を作るにあたって何からインスピレーションを受けたのでしょうか?
私の地元では、薬物やホームレスなどの問題を抱える人々が身の回りにいました。彼らがどれだけ現状から抜け出そうとしても、結局また同じ場所へ戻ってしまう負の連鎖を目の当たりにしながら育ったのです。
これに加え、2019年頃私は政治のあり方にすっかり幻滅し、もっと実践的に行動したいと感じ始めました。そこで地元のコミュニティやロンドン中心部での支援活動に関わり出し、ホームレスの人々がいかに社会制度の隙間に取り残され、脆弱な立場に置かれているかを本当の意味で理解するようになったのです。
—脚本も自身で書かれていますね?
脚本を書くことで、目にした現状をより深く理解したかったのです。書いているうちに、今度は地元で暮らす一人の若者に焦点をあてた物語を描きたいという思いが湧き上がってきました。私は、保護観察制度や精神保健の専門家、刑務所改革に携わる人々から助言を受けながら検証を重ね、ようやく納得のいく脚本を完成させることができました。
核にあるのは、“繰り返される行動の連鎖”です。人はなぜ同じ過ちや選択を繰り返すのか。観客が自ずと主人公の旅路を追体験でき、彼とともに笑い、彼とともにつまずき、転落する感覚を味わって欲しいと思っています。
—影響を受けた監督や、目指そうとしたスタイルはありますか?
マイク・リー、ケン・ローチ、シェーン・メドウズは私にとってまさに原点です。いずれも鋭い政治的視点を持つ映画作家であり、映画史においても極めて重要だと思っています。ただし、労働者階級の人々の切実な状況について描く映画は、時に重苦しくなりがちです。私は社会問題を描きながらもユーモアがあって、一人の人間にしっかりと寄り添った物語を目指しました。
—主演フランク・ディレインの存在感には目を見張るものがありました。
フランクは撮影の7〜8か月前から役作りの準備を進めてくれました。とにかく、強烈なキャラクター・スタディ(人物の深掘り)にしたかったんです。フランクには人を惹きつける魅力があり、観客が「こいつ、どうしようもないな…」と思いながらも共感できる軽やかさを役にもたらしてくれました。
—監督は、路上生活仲間のネイサン役を演じられましたが、監督と俳優の両立は困難ではなかったですか。
最初から自分がやる予定ではなかったのですが、元々のキャストが撮影の1週間前に降板してしまって…。新しい俳優を、すでに出来上がっている現場に迎えるというのは、かなりハードルが高いので、自分でやってしまうのが一番いいと結論をだしました。
とはいえ、やはり大変でした…。絶えずモードを切り替える必要がありましたから。例えば、ストラトフォードでのシーンで、マイクと取っ組み合いの喧嘩をしている最中に、私が「カット!」と言って…立ち上がってフランクに「今のシーンはどうだった?」なんて確認したりするんです。もう、めちゃくちゃな状況ですよ(笑)
—それは仕切るのは大変そうですね(笑)
あのヘビのエサやりのシーンでは、ネイサンは白いブリーフ姿の予定だったんです。でも自分が演じることになり衣装担当のコービーに「僕は白いブリーフだけは絶対に履かないからね。そこははっきりさせておきたい」って言ったら、彼は「えっ!変えるの?」って驚いていました。それはあくまで元の設定で、「監督もやる僕になった時点でそれはナシだ」とハッキリ言いました(笑)
『URCHIN/アーチン』
10月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025
