映画、テレビ番組、ミュージックビデオ、ライブDVDなどを手掛ける制作プロダクション「オフィスクレッシェンド」が主催した、“まだ存在しない映画の予告編”で審査するユニークな映像コンテスト「未完成映画予告編大賞 MI-CAN3.5復活祭」最優秀作品を映画化した『死体の人』が全国順次公開中だ。演じることにかける想いは人一倍強いものの、死体役ばかりをあてがわれる男の姿を通して、理想と現実の折り合いをつけることの難しさ、そして何より“生きることと死ぬこと”という深遠なるテーマを、絶妙なバランスのユーモアとペーソスで描いた本作。主人公の〈死体の人〉が運命の出会いを果たすヒロイン・加奈を、胆大心小に演じた唐田えりかに話を聞いた。

奥野瑛太さんにすごく刺激をもらいながら現場にいました

──『死体の人』というタイトルを見て、どんな作品だろう?と思う人は多いと思うのですが、唐田さんは脚本を読まれていかがでしたか?

唐田 『死体の人』は、役者の話でもあるので、理解できる部分はたくさんありました。そこをコミカルにも描いている台本だなと思って。読んでいて、くすって笑えるところがいっぱいあって、すごく面白いと思いました。

──唐田さんが演じる加奈は、人生に問題を抱えているデリヘル嬢という設定ですが、役についてはいかがでしたか?

唐田 今まで自分があまり挑んでこなかった役だったので、演じながらすごく新鮮でした。

──役について、草苅勲監督から説明や演技指導はありましたか?

唐田 そんなに細かく説明があったわけではないですけど、クランクインの前に、実際に撮影する(主人公の)広志のお家で動きながらリハーサルをしてみたり、そういう準備段階があったので、加奈という人物を草苅監督と一緒に作っていけたという感じでした。声のトーンはこれぐらいとか、こういう時にどういう顔をするとか、一緒になって試行錯誤してくださいました。

──キャストは皆さん、初めまして?

唐田 そうです。でも、私は割と人見知りをしないほうで、“この役者さんはどういうたたずまいで現場にいるんだろう”とか、“この人のいいところを学びたい”と思いながらやっているので。今回は、私は奥野瑛太さんにすごく刺激をもらいながら現場にいました。

──刺激というのは、たとえば?

唐田 奥野さんが、役と自分の境目がなくなっているぐらい本当に広志になっていたんです。それに、奥野さんが「この役はこういうことだと思うんですよ。どう思いますか」って、自分から発信するところを結構見ていたので、“そういうことをしてもいいんだ”って思えたというか。私はちょっと受け身でいることが多かったというか、自分発信でそこまで意見を言うタイプではなかったので。そういうところを見ながら、いいなって思っていました。

──それを実際に取り入れたりとかはありましたか?

唐田 奥野さんが、撮影前に役作りで広志の家に何日か泊まっているというのを聞いて、“そういうことやったことないな”って思って、私も真似して加奈の家に一泊させてもらいました。

──どうでした?

唐田 加奈の家も汚いままでした(笑)。私、あそこに一人でいるだけで、心細いというか、本当に誰かがいてほしいって思ったので、“(同棲している)翔太がいない時って、加奈はこういう気持ちだったのかな……”って結構、不安定でした。でも、最終的にはあの汚さに慣れて、自分のゴミを置いていってしまって。インの時に、美術部さんから「ゴミ、置いてっただろう」って言われました(笑)。

──唐田さんの部屋とは全く違う。

唐田 めちゃめちゃ綺麗好きなほうだと思います。

──牛丼を食べるシーンもあったじゃないですか。あんな食べた方はしないだろうなって、観ていて思いましたけど。

唐田 しないですね(笑)。

──そういう面でも、砕けた感じの役作りをされたのかな、なんてちょっと思ったんですよね。

唐田 “加奈だったらこういう風に動くかな”“食べるかな”とか思いながら演れました。

画像1: 奥野瑛太さんにすごく刺激をもらいながら現場にいました
画像2: 奥野瑛太さんにすごく刺激をもらいながら現場にいました

“何も考えないで”っていう境地までいけるように、お芝居の土台は作っていきたい

──『死体の人』は、“生きることと死ぬこと”という、誰もがいずれ直面する問題を問いかける作品でありますが、唐田さん自身が本作から受け取ったものを教えていただけますか。

唐田 登場人物の一人一人が、とにかく真っすぐ生きている作品だなって思いました。その真っすぐさにいやらしさがなくて。一人一人がちゃんと愛せるキャラクターなんですよね。だから、観てくださる方には、真っすぐな自分の想いとか夢、素直に生きていく先に、何か自分の人生のいい方向につながっていくんじゃないかなって思いました。

──先ほど、「役者の話でもある」と話してくださいましたが、広志は彼なりのこだわりを持って、不器用ながら“死体の人”を演じていますよね。同じ演技をする身として、こだわりなどはあったりしますか?

唐田 私も不器用なタイプなので、技術的なところは苦手だなっていうのが本心なんです。どちらかというと感情があって、感覚で動いているというか。自分に足りないのは技術面だなって思っているので、今はそういうところも極めていきたいというか、学んでいきたいなって思っています。

──どの作品においても、あまり作り込むことはしない?

唐田 お芝居をしている最中は、なるべく“ああしよう、こうしよう”と思わないようにやっています。そう思っちゃうと、自分が機械的になってしまうところがあって。感情で動けなくなっちゃうので。

──共演者に演技によって、ご自身の演技がまるで変わってしまうことも?

唐田 ありますね。だから毎回、新鮮な気持ちで演じらています。その時の気持ちで受けながら、“何とか応えていこう”って。

──行き当たりばったりという言葉は正しくないと思うんですけど、その現場に合わせて、極端な話、何も考えずに挑むぐらいの気持ちで。

唐田 “何も考えないで”っていう境地までいけるように、お芝居の土台は作っていきたいと思って準備はしています。

──『の方へ、流れる』でW主演、本作『死体の人』ではヒロインを演じ、今後も『真夜中のキッス』『朝がくるとむなしくなる』と主演作が続きますが、今、お芝居がすごく楽しい時期なのでは?

唐田 お芝居している時は楽しいと思えていないんですけど、作品が完成した時に、“この作品に参加できてよかったな”って思います。あの時苦しい気持ちでやっていたことが、やっと報われるというか。そのために頑張れているっていうのもありますね。それが楽しみっていうのなら、そうかもしれないです。

──今作では、相当やり切ったんじゃないかなと映画を観て思いましたが、どうでしょう?

唐田 観てくださった方にそう言っていただけるのが一番嬉しいです。自己満足じゃないんだって。観た方に感じていただいたことが、やっぱり一番なので。

──作品にちなんだ質問を。『死体の人』は、“死体役”ばかりを演じるようになっていた役者が主人公ですが、唐田さんは、こんな役、こんな作品に出演して観たいというのはありますか?

唐田 私、サスペンスの作品が好きなんです。でも、あまりやったことがないので、人を惑わせていくような役をやってみたい。サスペンスの作品に挑戦してみたいです。

──好きなサスペンス作品は?

唐田 『哭声 コクソン』は、以前(『SCREEN Girls』のインタビュー)に言いましたよね。『CURE』も好きです。萩原聖人さんが本当に怖くて。あれこそ、嘘なのか本当なのかわからないし、観ながら映画の中に自分がいるっていう感覚になっていて、惑わされるし、怖いし、あの体験がすごく楽しかった。映画を体験した感覚でした。

──怖い映画が好き。

唐田 幽霊系はちょっと観られないんですけど、人間の深層心理というか、観た後に自分はどうなんだろうって考えさせられる作品が好きです。

──最後に、映画を楽しみにされてる方にメッセージをお願いします。唐田 この作品は、私は本当に奥野さんのお芝居が素敵だなって思うんです。奥野さんの作品であり、草苅監督の愛があふれる映画であり、観てくださった方の背中を押すような、笑って泣けて温かいエンターテインメントだと思うので、劇場で楽しんでいただけたらなって思います。

撮影/大西 基 取材・文/辻 幸多郎

画像: “何も考えないで”っていう境地までいけるように、お芝居の土台は作っていきたい

PROFILE

唐田えりか ERIKA KARATA

1997年9月19日生まれ、千葉県出身
2015年にドラマ「恋仲」でデビュー。「こえ恋」(16年)、「トドメの接吻」(18年)、「凪のお暇」(19年)などのテレビドラマに出演ほか、韓国Netflixドラマ「アスダル年代記」にも出演。映画では、ヒロインを演じた『寝ても覚めても』(2018年)が第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門参加作品に選ばれた。2022年には主演映画『の方へ、流れる』が公開となった。

映画『死体の人』

画像1: Ⓒ2022オフィスクレッシェンド

Ⓒ2022オフィスクレッシェンド

画像2: Ⓒ2022オフィスクレッシェンド

Ⓒ2022オフィスクレッシェンド

〈STORY〉
役者を志していたものの、気がつくと“死体役”ばかりを演じるようになっていた吉田広志(奥野瑛太)。「厳密にリアリティを追求するなら……」と演じることへの強いこだわりを持つが、効率を重視する撮影現場では、あくまで物言わぬ“死体”であることを求められる。それでも広志は、死に方を探求する日々を送っていた。
そんなある日、自宅に招いたデリヘル嬢・加奈(唐田えりか)に、広志は「何でいまの仕事をしてるの?」と彼女に問いかける。それはそのまま彼自身にも跳ね返ってくる質問だった。「こんなことくらいでしか人を喜ばせられないから」と明るく答える加奈。しかし、彼女もまた自身の人生に問題を抱えていた。
広志の元に突然、母(烏丸せつこ)が入院するという報せが父(きたろう)から入る。気丈に振る舞う母だが、どうにも病状は良くないらしい。さらに新たな問題が発生。偶然見つけた妊娠検査薬を何気なく自分で試してみたところ、何と陽性反応が出たのだ。これはいったいどういうことなのだろうか……。
消えゆく命、そして、新たに生まれてくるかもしれない命。〈死体の人〉こと役者・吉田広志は、一世一代の大芝居に打って出る!!

3月17日(金)より澁谷シネクイントほか全国順次公開中

監督・脚本:草苅 勲
脚本:渋谷 悠
出演:奥野瑛太 唐田えりか
   楽駆 田村健太郎 岩瀬 亮
   烏丸せつこ きたろう
主題歌:THEイナズマ戦隊「僕らはきっとそれだけでいい」(日本クラウン株式会社)
配給:ラビットハウス

画像: 映画『死体の人』

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