天才ハッカーたちが仕掛けるサイバー・テロ!
いかにも21世紀らしい“サイバー・サスペンス”が全米を震撼させ、いま日本でも話題を呼んでいる。天才ハッカー集団が巨大コングロマリットのビッグデータを無効化しようとサイバー・テロを仕掛けるという粗筋は、“格差”“分断”といった言葉が飛び交う現代の世相にマッチし、視聴者も他人事とは思えないリアリティーを感じることだろう。第一シーズンが全10話と短かったのも、配信による一気見が定着してきている“いま”のトレンドに合っていたと言えるだろう。
中東系のクリエーターがこのドラマを生み出したこともポイントで、アメコミ系のスーパーヒーローものの対極に位置するような、社会一般にはなじみにくい、マイノリティーを代表するようなキャラクターを主人公に設定しているのも、自身がアメリカ文化に距離を感じていたという企画・製作総指揮のサム・エスメールだからこその決断。それがドラマに新しさをもたらしているのだ。
主人公エリオットは、世界最大のコングロマリット“E(悪魔)コープ”を主な顧客とするサイバーセキュリティー会社“オールセーフ”のエンジニア。昼間は優秀な社員だが、夜になればその天才的なハッキング能力で大勢の個人情報、交友関係、性的嗜好など誰もが他人には知られたくない秘密を集めている孤独な青年。人付き合いが苦手で、彼が唯一心を開くのは、いまの職場を紹介してくれた幼なじみの同僚女性アンジェラだけだ。
そのエリオットに“ミスター・ロボット”と名乗る正体不明の中年男が接触してきたのは、“Eコープ”がハッキングされ、エリオットの働きで被害を最小限に抑えた後のことだった。ミスター・ロボットは“f・ソサエティ”という凄腕のハッカー集団のリーダーで、ハッキングを仕掛けたのも彼らだった。ミスター・ロボットは、“Eコープ”の持つビッグデータを破壊して金融界に混乱を起こし、世界に革命を起こすというのだが……
「ミスター・ロボット」のここがすごいポイント!
全米TV賞レースで圧倒的な高評価!
アメリカのTVドラマ界で最も重要な2つの賞といえばエミー賞とゴールデングローブ賞だが、この作品はその両方を制している。まず2016年1月に発表された第73回ゴールデングローブ賞ではTVドラマ・シリーズの作品賞とミスター・ロボット役のクリスチャン・スレーターの助演男優賞を獲得、9月に発表された第68回エミー賞では主人公エリオット役のラミ・マレックがドラマ・シリーズ部門で主演男優賞に輝いているのだ。
緻密な構成と驚愕の大どんでん返し!
とにかく構成が緻密で、伏線があらゆる部分に張りめぐらされている。ネタバレになるので書けないのが悔しいが、ラストまで見ればあれもこれも伏線だったのかと納得するはず。もう一度最初から見たくなること必至。特に後半の3話は衝撃的で、それまでの構成を完全に覆してくれる。これだけ視聴者をアッと言わせてくれるドラマはそうないと断言できる。スタイリッシュな映像と音楽もドラマの完成度に大きく貢献している。
ドラマ界に新風を吹き込むクリエーター
このドラマを企画・製作総指揮し、脚本や監督まで担当している(シーズン2では全12話を監督)サム・エスメールは、イスラム教徒であるエジプト系アメリカ人の家庭に生まれた。彼は『アメリカでマイノリティーとして生きてきた経験に影響を受けている。アメリカ文化に距離を感じ、他人と繋がりを持てない人物を描きたい』と語っているが、その立ち位置がこれまでのアメリカのドラマとは違う独自の視点をもたらしているのだ。
大ブレークの主演者に注目!
主演のラミ・マレックは「ナイト ミュージアム」シリーズなどで知られていたが、このドラマのヒットで大ブレーク、次々と主演作が決まっている。名作「パピヨン」のリメーク版ではオリジナルでダスティン・ホフマンが演じたルイ・ドガ役、ブライアン・シンガー監督の新作『ボヘミアン・ラプソディー』では “クィーン”の伝説的ボーカリスト、フレディー・マーキュリーを演じることになっているという売れっ子ぶりなのだ。