日本を舞台にしたベルギー・フランス・カナダ合作映画『KOKORO』は、日本の美しく険しい自然のもと、人間の心が少しずつ回復していく姿を描いた物語。フランスのオリヴィエ・アダムによる小説を、ベルギー・フランス・カナダ・日本からなる4カ国混成スタッフと共に心洗われる物語へと昇華させている。主人公のアリスを演じるのはセザール賞常連女優であり映画『奇跡のひと マリーとマルグリット』のイザベル・カレ、もう一人の主人公ともいえる元警察官のダイスケを演じるのは韓国映画『哭声/コクソン』で大きな注目を浴び、国内外の作品で活躍する國村隼。
崖に立つ自殺志願者のそばに静かに寄り添うダイスケを唯一無二の存在感で演じた國村に、ベルギーの女性監督ヴァンニャ・ダルカンタラについてや、撮影秘話などを聞いた。
画像1: 日本を舞台にしたベルギー・フランス・カナダ合作映画
『KOKORO』
國村隼インタビュー

【ストーリー】
夫と思春期の子供二人とフランスで暮らすアリス(イザベル・カレ)の元に、長い間旅に出ていた弟ナタン(ニールス・シュナイダー)が戻ってきた。ナタンは日本で生きる意欲を見つけたと幸せそうに語る。しかしその数日後、彼は突然この世を去ってしまう。弟の死にショックを受けたアリスは、弟を変えた人々、そこにある何かに出会うため、ひとり日本を訪れる。ナタンの残した言葉を頼りに、弟の足跡をたどっていくアリス。そこで彼女は、海辺の村に住む元警察官ダイスケ(國村隼)と出逢う。彼は飛び降り自殺をしに村の断崖を訪れる人々を、そっと思いとどまらせているのだった。求めすぎず、静かに傷をいやすことのできるその場所に、アリスはどこか安らぎを感じる。そしてダイスケをはじめとするジロウ(安藤政信)、ヒロミ(門脇麦)、ミドリ(長尾奈奈)、ハルキ(葉山奨之)ら、その村で出会った人々との交流が、静かにアリスの心に変化をもたらしてゆく――。

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『KOKORO』
國村隼インタビュー

脚本に囚われすぎず、
人間のエモーショナルな部分を大事にした現場

ーーヴァンニャ監督からはどのような経緯でオファーがあったのでしょうか?
「当時キャスティング担当の三宅はるえさんから今作のお話を頂いて、脚本を読ませて頂いたんです。そのあとヴァンニャとお会いして、不思議とカチっとスイッチが入ったというか。彼女も同じように感じてくれたみたいで“是非一緒にやりましょう”ということになりました」

ーーカチっとスイッチが入ったというのは波長が合ったということでしょうか?
「彼女の目の中の光り方というか、優しさを目の中に称えているような方なので、目を合わせた途端にそこに引っ張り込まれる感覚になったんです。それは今作とも通ずるところがあるんですけど、言葉というツールを使うのではなく、人と人がそれぞれの佇まいを感じながら物語が進展していくのはきっとヴァンニャが撮っているからなんだなと完成を観て改めて実感しました」

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ーーヴァンニャ監督の演出はいかがでしたか?
「僕はどんな作品も監督の人となりがそのまま映し出されているものが映画だと思っていて、今作もヴァンニャの“ものの感じ方や価値観”が映像に映し出されています。もちろん脚本はありますけど、現場でイザベルや僕、全ての役者から出てくる何かを感じ取りながら新たに物語を紡いでいくような撮り方をされていました。脚本に囚われすぎないというか、生身の人間のエモーショナルな部分や、感情と感情がぶつかる空気感のようなものを大事に撮っていかれるんです。それはそのまま今作の世界と繋がるようなところがあって、ヴァンニャが何故この作品に惹かれたのかというのも全て理解ができました。この作品はヴァンニャそのものだと思います」

画像2: 脚本に囚われすぎず、 人間のエモーショナルな部分を大事にした現場

ーー國村さんが一番印象に残ったシーンを教えて頂けますか。
「ダイスケとアリスの別れのシーンが好きです。アリスが日本語で“お世話になりました”とダイスケに言いますが、あれ、実はイザベルのアドリブなんです(笑)。日本語の台詞はもともと無かったんですけど、このシーンの撮影前にヴァンニャとイザベルがコソコソ話をしていて、あのアドリブを受けた瞬間に“これだったか!”と(笑)。あのシーンは僕とイザベルというよりは、アリスとダイスケの心情に綺麗にオーバーラップした感覚になりました」

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ーー國村さんがアドリブをされることもあったのでしょうか?
「僕はどんな作品もあらかじめ用意してアドリブをすることは一切ないので、お芝居していてやりたくなったことはやるようにしています。どうしようもない状況で苦し紛れに出たものだったり、流れの中でどうしてもやりたくなって出たものが本当の意味でのアドリブだと僕は思うんです」

ーー国内外様々な作品で幅広い役を演じてらっしゃいますが、以前お話を伺った時に脚本が面白い作品に惹かれるとおっしゃっていました。
「小説もそうですけど、読んでいてイメージが立体映像としてスっと立ち上がってくるものはよく書けているものなのかなと思います。登場するキャラクター達の関係性を通して、自分のエモーショナルな部分が突き動かされるかどうかというか。脚本を読んでイメージが出来上がっているなかで、今度は現場に行くと共演者の方がいて美術なども揃っていて、するとイメージしていたものとはまた別の空気感のものをチーム全員で一緒に作ることができるんです。読んでもいまひとつ気持ちが動かされなかった脚本は、それをベースに映画化する段階ではないのではないかなという判断を自分の中でするようにしています」

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ーー今年は『哭声/コクソン』が話題になりましたが、今作でも『哭声/コクソン』と同じく村で生活している人物を演じられています。全く違うキャラクターの役ですが、木々に囲まれているダイスケを見た瞬間に『哭声/コクソン』を思い出してしまいました(笑)。
「『哭声/コクソン』では僕は人間ですらないですけど、ダイスケは人間ですからね(笑)。洋服もちゃんと着ていますし(笑)。実は今作は『哭声/コクソン』の直後に撮ったんです」

ーー役の切り替えが大変だったのではありませんか?
「役にのめり込むという言葉とは無縁なので切り替える必要がないんです。ひとつの作品が終わったらすっかり忘れてしまうから“ところてん方式”で役を出しては入れるというか(笑)」

ーーなかなか切り替えができない俳優さんもいらっしゃいますよね。
「僕はストレスのかかる状況が持続できなくて、現場でカチンコが鳴ったら標準語で台詞を話して、カットがかかるとすぐに関西弁のオフモードになります。撮影が終わった作品の役を引きずるなんて想像がつかないです(笑)」

画像1: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

國村隼オススメの2作品を紹介

ーーだからこそ幅広い作品で色んな役を演じることができるのかもしれませんね。話は変わりますが、國村さんのオススメの映画を教えて頂けますか。
「好きな映画は沢山ありますが、“この映画はいつでも観たいから手元にDVDを置いておきたい”と思って買った作品が2本だけあります。その一本が『冬のライオン』。ピーター・オトゥール演じるイングランド国王のヘンリー2世とキャサリン・ヘプバーン演じる王妃エレノアとその3人の息子の物語で、役者同士の芝居のぶつかり合いがまるで舞台を観劇しているような気分を味わえるんです。王家の家族のお話ではありますが、普遍的な人間模様や人の思いの強さ、現代にも通じる多様性など色んなことが詰まっているのでいつ見ても楽しめます。3人の息子の長男リチャードをアンソニー・ホプキンスが演じているんですけど、彼の初映画出演作品でもあります」

ーーアンソニー・ホプキンスさんはこの作品に出演している時は舞台で活躍してらっしゃったんですよね。
「そうですね。面白い逸話があって、撮影の合間にキャサリンがアンソニーに“あなたカメラはお嫌い?”と聞いたあとに“キャメラは私達の恋人よ”と言ったそうなんです。何故そんなことを言ったのかというと、彼がキャメラから逃げようとしてるように見えたと。つまり映像作品で役者をやるのであれば、キャメラとちゃんとコミュニケーションとらないとダメよとキャサリンは教えてあげたんですよね。アンソニーは舞台出身だから“勝手に撮ればいいじゃん”と思っていたんじゃないかなと(笑)。そういう逸話も含めてとても印象的で、何度も見返したくなる作品です」

画像2: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

ーーそしてもう一本はどんな作品なのでしょうか?
「『ムーラン・ルージュ』です。いくつかのダンスナンバーの中でもユアン・マクレガーが『エル・タンゴ・ド・ロクサーヌ』を歌っているホールでの群舞のシーンが大好きで、あのなんともいえない“作り物ですよ!”という雰囲気がたまりません(笑)。ニコール・キッドマンとユアン・マクレガーがとても歌がお上手なことに驚きましたし、ストーリーというよりも映画的な手法や見せ方の面白さが気に入っています。そういう意味では『冬のライオン』と対極にあるような作品ですけど、どちらもオススメです」

ーーミュージカル映画は昔からお好きなんですか?
「最初はミュージカル映画はよくわからなかったのですが、中学生の時に母親に引っ張られてイヤイヤ『マイ・フェア・レディ』を観たんです(笑)。そしたら“なんて面白い映画なんだ!”と。それまでは字幕を読むのも嫌でしたし、ましてや突然歌い出したり踊り出すミュージカル映画は苦手で。でも『マイ・フェア・レディ』に魅了されて、それ以降はミュージカル映画に対するアレルギーがなくなりました(笑)」

ーーいつか國村さんもミュージカル映画に挑戦されたり?
「それは無いですね(笑)。でも中島哲也監督の『パコと魔法の絵本』で少しそれに近いことはやりました」

ーーこれからも色んな國村さんを拝見できるのを楽しみにしています!
「僕自身も色んなキャラクターを画の中に映し込むのが楽しみです!」

画像3: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

(文:奥村百恵)

監督・脚本:ヴァンニャ・ダルカンタラ
キャスト:イザベル・カレ 國村隼 安藤政信 門脇麦 他 
原作:オリヴィエ・アダム「Le cœur régulier」  
配給・宣伝:ブースタープロジェクト
11月4日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
© Need Productions/Blue Monday Productions

画像: 映画『KOKORO』予告編 youtu.be

映画『KOKORO』予告編

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