87歳の今もコンスタントに新作を撮り続け、第一線で活躍を続けるクリント・イーストウッド監督。そのキャリアは役者としては60年以上、監督としても40年以上を数えます。監督最新作「15時17分、パリ行き」で再び脚光を浴びる今だからこそ振り返るべき名作とは?(文・相馬学/デジタル編集・スクリーン編集部)

クリント・イーストウッド監督、最新作「15時17分、パリ行き」を語る

映画は見せかけです。でも「15時17分、パリ行き」には見せかけが少ない。人々をほかの映画同様に同じアドベンチャーに連れ出すけれど、本作にはもっと現実味があり、それが観客の心を一味違った感動に導くことでしょう。

私は彼ら(主演の三人)が一緒にいるときの自然な姿が好きでした。ついにある日私は言いました。「君たち、自分を演じることができると思うかね?」と。彼らは最初は不安そうでしたが、演技は知性的な芸術ではありません。感情的な芸術なのです。私は彼らに、ほかの誰でもない、自分自身でいることを望んだだけでした。

私も手探りの状態でした。この起用がうまくいくかどうかなんてわかりません。ただ、この三人と一緒に歩みたいと感じただけです。そしてその決断は連鎖し、最終的に今作には多くの実在の人物たちが登場しています。高速列車タリスの人々も含め、誰もがあのときに戻り、役に立とうとしてくれました。なぜなら、あれは彼らにとっても大きな出来事だったからです。アメリカ人青年や乗客と連携し、大惨事を避けるために適時に協力し合い、ハッピーエンドに向かわせたのは、他ならない彼らだったのです。

厳選!クリント・イーストウッド監督作ベスト3

『インビクタス/負けざる者たち』(2009)

画像: 『インビクタス/負けざる者たち』(2009)

監督に専念して実話の映画化に取り組むようになった近年の作品の中でも、とりわけ本作は重厚で味わい深い。1995年のラグビーワールドカップで、南アフリカのチームが優勝を果たすが、その陰には南ア初の黒人大統領マンデラによる人種融和への尽力があった。イーストウッドは、そんな奮闘をたどりながら政治家、闘士、策士といったマンデラの人間的な側面をあぶり出す。クライマックスの決勝戦に向けて盛り上がるドラマの起伏も絶妙。

『スペース カウボーイ』(2000)

画像: 『スペース カウボーイ』(2000)

1990年代以降のイーストウッドの監督・主演作は“老い”を正面から見据えた作品が増えた。その典型ともいえるのが本作。米国初の宇宙飛行士になるはずだった男たちが、約40年後に重要なミッションを受けて宇宙に飛び立つことに。イーストウッド作品にはユーモアが不可欠だが、ここでは入れ歯や老眼など、老飛行士たちの肉体的な老いを笑い飛ばす。笑いに加えてミッションのスリル、男泣きのドラマが噛み合って印象深い娯楽作となった。

『恐怖のメロディ』(1971)

画像: 『恐怖のメロディ』(1971)

記念すべき監督第一作となったサイコスリラー。ラジオ局の人気DJに向けられた、ある女性の異常な愛情を描く。追いつめる女と追いつめられる男の心理に焦点を当てたドラマは、イーストウッド自身がタフガイのイメージを覆してDJを演じたことで、より衝撃度を増す。イーストウッドはこの年に『白い肌の異常な夜』でもサイコスリラーの主役に挑み、やはり女性にいたぶられる役をこなしたが、そこでの経験が活きた。セットで見ておきたい。

次回は7つのキーワードを通して、クリント・イーストウッド監督の魅力についてあらためて探ります。

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